新作のご紹介
たまには本職らしいことも書いてみます。一見して、何だかよく分からないかも知れませんが、5段の引き出しが付いた筆箱です。
とは言っても筆箱っぽくはないので、どういう使い方をしてもらっても良いかなと思います。左側に上下するロックが付いていて、これを下に押すと引き出しがロックされて抜けなくなります。
逆に引き上げるとロックが解除されて、抜けるようになります。
持ち歩く事を前提に作っているので、取手を持って歩いている最中に、引き出しが抜けて、中身が「バラバラ」なんてことにならないような工夫です。
せっかくの機会ですので、制作の過程を一部ご紹介したいと思います。
この作品(iichiでは商品を作品と呼んでいるので、ここでもそう呼びます)は、天板、側板、底板で一回り、取り囲むように作ってありますが、それぞれの板の接合(組み手)に留隠し蟻組接ぎ(略して隠し蟻、指物師は内ほぞって呼んでいる)という手法を用いています。
口で説明するより、写真で見た方が早いと思うので、
加工が雑だなぁ。まだ、途中って事で…。(^^;
この組手は、隠し蟻という呼び方からも分かるように、外からは見えない組手です。
敢えて見せない事を「粋とする」。いかにも職人ぽい手法ですね。
対して、蟻組やあられ組の様に木が組んであることを、外から見える様にする場合もあります。どちらが良いかは作品の雰囲気や作者の好みによると思いますが、自分は、この、隠し蟻という手法が大好きです。
作る側からも非常に合理的なんですよね。
ちなみに、上側が男木、下側が女木で板は事前に寸法と直角を出してあります。これをしておかないと隙間だらけでガタガタになります。
寸法精度はノギスの読み取り限界くらいですね。
この時点では、留め(45度の部分・後述)の加工はしていません。後でやります。留めは非常に弱く、ちょっとぶつけただけで大きく欠けてしまったりするので加工は後回しにします。
更に向かって左側の側板の内側に、ロック用の溝を掘ります。この加工には丸のこ盤を使いました。そのままだと、溝にはまる棒が外れてしまうので、後でトリマテーブルで蟻加工をします。
…でこんな感じで溝にロック棒がはまります。蟻加工がしてあるのでロックはスライドはしますが外れません。さらに、この側板(反対側も)に吊り桟の加工をします。手加工でも出来るけど、手間が大変なので、テンプレートを作ってトリマで加工しました。
このテンプレート、作るのも結構手間でしたね。精度が出てないと引き出しがガタガタになるので、慎重に。
加工が終わると、こんな感じになります。縦の溝は、背板を入れるための物。
この後は留めの加工に入ります。まず、両端の加工。この加工は鑿でやります。
これが出来たら留め台と留鉋を使って、留めの加工を行います。
ちなみに、この留鉋は売り物は無いみたいなので、刃だけ買って台は自作しました。
留めの加工が終わって吊り桟をはめ込んだ状態。
で、接着剤を入れて、組み立てですね。
接着作業は四隅を一遍に行いますので、もたもたしていると接着剤(普通の木工ボンド)が硬化して悲惨な事になります。ですので、個々は時間との勝負。
お客さんが来ても応対できません。
特に夏場は硬化が早いので焦りますね。もっと複雑な構造の場合は、硬化時間の長いエポキシ接着剤などを使います。
接着面を密着させるために紐で縛ります。指物以外の木工だと、ベルトクランプやフレームクランプなどを使うんでしょうね。ただ、ベルトクランプは一見良さそうですが、意外と使うのは難しいです。何度かやってみたけど、上手く行かなくて、今はほとんど使っていないです。
フレームクランプは持ってないのでよく分かりません。
今までの経験では、接合部分が留めの場合なら、紐で縛るのが一番上手く行くような気がします。自分は、こればっかりですね。ただ、気を付けないと、角が丸くなってしまったりするのが要注意です。
後は接着剤が硬化するのを待つだけ。大体、一日、この状態で放置します。
接着剤が固まるのを待っている間に、引き出しを作ります。材料は桐。前板は黒柿を使いました。
鉋で厚みと木端の直線を出したら、卦引きで切断します。桐は柔らかいので、卦引きを使うと寸法を決めた状態で切断が出来ます。
ただ、墨付け専用の筋卦引きだと、ちょっと厳しいですね。この卦引きは割り卦引き用の大きめの刃を入れてあります。これも自作です。
こんな感じで曳き割れます。
この後の、引き出しの制作過程は、写真を撮り忘れました。ごめんなさい。
…で、取っ手ですが、3枚の板を直交させて接着した板を使って作りました。直交させることで、木材の強度を増す事が出来ます。
写真は、板を糸鋸で切り出したところ。成形してから吊り下げようの棒の穴を開けるのは難しいので、事前に穴を開けておきます。
これを切り出し小刀で削って成形してゆきます。
半分、削り終わったところ。切り出しで木を削る感触が大好きです。ひょっとしたら、木工作業の中で一番好きかも。
削り終わったところ。あとはサンドペーパでツルツルに仕上げます。あえて切削痕を残すのも良いですね。
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