#ネタバレ 映画「マイ・インターン」
「マイ・インターン」
2015-10-30 07:30 byさくらんぼ
アメリカも一億総活躍社会をやっている
( 引用している他の作品も含め、私の映画レビューはすべて「ネタバレ」のつもりでお読みください。 )
若いころ岐阜県の高山に遊びに行ったことがありました。
古い街並みを最初はレンタサイクルで回り、後には駅周辺を徒歩でも回りました。
徒歩で回ったのは、自転車を返しても帰りの電車までまだ時間があったので、仕方なくの時間つぶしだったのです。でも、回って驚きました。なんと沢山のものを見落としていたのかと。よく見るためには自転車のスピードは速すぎたのでした。だから、これが観光バスやタクシーだと、もっと情報の欠落があることでしょう。
映画「マイ・インターン」にも自転車で会社内を走り回る社長・ジュールズが出てきますね。対してインターンに雇われたベンはスローモーション的な太極拳をしています。とくに太極拳は映画の前後に出てくるように重要なキーですね。
また、ベンがジュールズの娘を乗せて自動車で言葉遊びをする象徴的なエピソードが出てきます。子供よりも、人生経験の多い大人の方が、同じスピードで走っていても、さらに運転をしていても、たぶん物事がスローモーションのごとく緻密に観察できるのです。
「物事をよく観察するには自転車ではなく徒歩が良い。若者よりも人生経験の長い中高年の方が物事の観察眼が優れている」、そんな話でしたね。ジュールズのセリフに「ベンは目ざとすぎる」というものがありました。まさに、あのセリフです。
私が若いころ、就職する前に先生からこう注意を受けたものです。
「就職したら10年間は会社の方針に口を出すな。10年は黙って働け。10年たってもまだ疑問があるなら、そのときは意見を言っても良い。そうしないと世間知らずだとバカにされるだけだ」と。
私は35歳まで、毎朝、人よりも1時間早く出勤し、職場のゴミ捨てと雑巾がけをしてから、モーニングコーヒーを飲みに行きました。雑用も誰かがやらなければ仕事は回りません。
そして、上司に仕事の進言をするようになったのは45歳ぐらいからです。中には、トラブルになる可能性が大きいと判断し、現場経験の少ない上司に譲らなかったこともあります。上司も最後には納得してくれました。
でも、最近の若者は雑用には無関心ですが、入社してすぐにも会社の方針に口を出しますね。
最近は、若者の起業が多いようで、結果、ジュールズたちのような若者だけの会社も多いのでしょうね。それは斬新で、なにかをブレイクスルーすることもあるのでしょうが、スピードだけでは解決できない問題もあるのです。
そんなときベンのような人間がメンターになれば良いですね。そして彼は、事実上、「権限を持たない新種のCEO」でもあります。どなたかが「若者と中高年は友人になると良い」と言われていましたが、まさに、そいうことなのです。
これは映画「ヴィンセントが教えてくれたこと 」と同種のもので、「中高年は、子守にでも、新種のCEOにでも、まだ使えます」と謳っていたのです。
アメリカも「一億総活躍社会」をやってるのでしょう。
★★★★
追記 2023.1.6 ( リタイアした者は古巣の夢を見る )
ジュールズたちの新会社はベンの古巣の部屋でもありましたね。ジュールズたちはその事にほとんど理解が及ばず、映画でもさらりと語られていただけでしたが。
しかし、これはベンにとっては故郷に帰ってきたように懐かしく幸せな事だったはずです。建物のあちこちにあるシミひとつにも、若い頃の思い出が沁みついているはずです。
追記Ⅱ 2023.1.6 ( ベンにとってジュールズとの絡みは付録だったのかも )
ベンは昔この部屋にあった会社で管理職をしていたようです。そして人生経験も長い。だから、若いジュールズの悩みぐらいは簡単に答えが出せたのかもしれません。
でも、管理職だった経験から、①あまり若い部下にでしゃばると嫌われる、ということも経験上知っていたのでしょう。②さらにジュールズは上司です。この①②の抑圧が、ジュールズたちとの絶妙な距離感を生んだのだと思います。しかし、抑圧されててもベンには一定の幸せがありました。前述したように懐かしい古巣へ帰って来られたからです。
追記Ⅲ 2023.1.6 ( 部下の能力 上司の能力 )
しかし、ベンに近い世代の私は、これを観て違和感も感じました。
人生経験も長く、管理職だったベンですから、若い社長の相談役になるのは比較的容易な事だったのかもしれません。
その上、ベンがジュールズたちの会社に就職したばかりの頃は、皆を驚かせるほど完璧に雑用をこなしましたし、雑用だけでなく何か事務作業もやらされたと思います。
しかし、ベンのようにリタイアした管理職だった人間が、新会社で新人のやるような仕事をいきなり任され、(例外が無いとは言いませんが)若者を驚かせるほどのスピードでこなすのは、なかなか困難のように思います。若い頃にはできたから管理職に出世したのでしょうが、それは何十年も昔の武勇伝です。
だから、ジュールズたちの相談役としてなら現役並みの十分な能力があっても、その前段階の雑用・事務でまごつき、ジュールズたちから「(簡単な事も出来ない)まにあわない おじさん」との烙印を押され、小ばかにされて相手にされなくなり、「そんな人に重要な相談などしたら笑いものになる」と、誰も耳を傾けてはくれなくなるように思います。
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(後半)
2023.8.24に、映画「マイ・インターン」の追記以降のレビューがもう一種類ある事が判明しました。内容に重複個所もあり、どうしようかと思いましたが、私の記録としても、掲載させていただく事にしました。お時間がありましたら、お読みいただければ幸いです。
追記 ( 知らないことは何も伝えない )
2015/10/30 9:03 by さくらんぼ
>私が若いころ、就職する前に先生からこう注意を受けたものです。「就職したら10年間は会社の方針に口を出すな。10年は黙って働け。10年たってもまだ疑問があるなら、そのときは意見を言っても良い。そうしないと世間知らずをバカにされるだけだ」と。
>私は35歳まで、毎朝、人よりも1時間早く出勤し、職場のゴミ捨てと雑巾がけをしてから、モーニングコーヒーを飲みに行きました。雑用も誰かがやらなければ仕事は回りません。そして、上司に仕事の進言をするようになったのは50歳になってからです。でも、最近の若者は雑用には無関心ですが、入社してすぐにも会社の方針に口を出しますね。
きっと若い方はこの文章を読まれて良い気分にはならなかったでしょう。実は、それを承知で書いたのです。気分を害された方にはお詫びします。
おじさんたちは、若者と話をするとき、年配でもあり、つい上から目線で話します。これは、まったく悪気はなくて、もちろん叱ったり、指導しているつもりもなくて、多くの場合、ただ、「比較すると、こうなんだよ、知らなかったでしょう」と話題の提示をしているだけなのです。私が映画のレビューで「教えたがり」をしているのと、基本的には同じことなのです。
でも、面と向かって言われると、若者はそれを「けむたい」と感じるのですね。そう感じた若者は、誘っても二度といっしょにお茶も飲んでくれなくなります(私の苦い経験)。
じゃあ、おじさんはどうしたら良いのか?
その、一つの回答がこの映画の中にあります。
ナイスミドルのベンは、執事の様に、余分なことは言わないのですね。上司のジュールズが社長のせいもありますが、ベンのセンスの良さもあります。あの、余分なことは言わない姿勢が、若者とつき合う秘訣かもしれません。
これは映画の主演をしたアン・ハサウェイさんがインタビューの中で語っていた「ベンはジュールズが知らないことは何も伝えない」とある意味似ています。
追記Ⅱ ( ベンとは日本人女性のことか )
2015/10/30 9:34 by さくらんぼ
ジュールズの家庭では夫が家事をしていました。一般的な家庭とは男女の役割が逆転していますね。
では、会社ではどうだったのかと言えば、女性のジュールズが社長です。
女性社長も増えてきましたが、たぶん統計的には男性社長の方が多いでしょう。だから、会社でも男女が逆転しているとも言えます。
そうすると、ベンとは何だったのか。
「スシ」とか「サヨナラ」とか日本語が出てきました。寿司は一般的ですが、「サヨナラ」が二回も出てくる必然性があるでしょうか。
あれはベンに日本人女性の性格を持たせている記号だと思います。これも男女が逆転しています。そうするとベンが慎ましやかな性格に設定されているのも分かります。
日本人女性の株は大変高いそうですからね。
追記Ⅳ ( 定年退職者の夢は古巣へ帰ること )
2015/10/30 15:16 by さくらんぼ
人さまざまでしょうが、私が会社を退職して夢見ることは、意外にも、古巣で働くことでした。フルタイムでは無理にせよ、週に2~3日ぐらいの、定時終りのアルバイト仕事が出来れば、たぶん幸せです(わがままですね)。
在職中にはいろんな事があり、いやなこともいっぱいありました。実際にトラウマになったぐらいです。でも、済んでしまえば、宇宙戦艦ヤマトが任務を果たし、イスカンダルから地球に帰還した時の名セリフではありませんが、「今は、なにもかもが懐かしい」のです。
映画「マイ・インターン」の主人公・ベンも、昔は同じ場所で働いていたのですね。だから、活気あふれるあの事務所で、デスクに座っているだけでも、幸せだったはずです。
現実にも、日本では嘱託制度などがあり、定年退職者が、働き続けられることもありそうですが、定年を機に、人事異動が重なると、新しい職場では、数年後には、2/3の人が失意の退職をするようです(私独自の感触)。
それは主に、嘱託という、ある意味、中間的な身分から生ずる、人間関係の問題です(私独自の感触)。何十年もその会社に良い成績で奉公をしてきたのに、定年後の人事異動で、人間関係のつまづきを起こし、哀しい思い出を作って辞めていくのは、本当に不条理と言うか、おきのどくと言うか…。
追記Ⅴ ( もうこれは「事務系007」だ )
2015/10/30 15:21 by さくらんぼ
映画の中のベンを観ていて、超現実的な気がしました。
私の人生でかかわった人の中には、あの様なジェントルマンは何人もいました。メンターとしても友としても相応しい人物が。
でも、在職中は部長さんみたいな管理職だった人に、管理ではなく、ふつうの事務をやらせても、新卒の若者にはかなわないのではないでしょうか。スピードにおいて。
だから、ベンが万能選手であることに、同じおじさんとしては、嫉妬を通りこして、超現実的なヒーローを感じてしまうのです。
ちょうど「007」のような。
そうです。ある意味、この映画は、「事務系007」なのかもしれません。
追記Ⅵ ( 太極拳はなぜ出てきたのか )
2015/10/30 18:00 by さくらんぼ
この映画には太極拳が象徴的に出てきます。私は太極拳は門外漢ですが、太極気功というものの短縮版を、少しだけ学んだことがあります。
ご承知のとおり、私は気功をやっていますが、太極気功は、名前のとおり、太極拳のような動作をする気功なのです。
それをしたときに、なにげない日常生活が、いかにハイスピードで動いていたのかが実感できました。
自分の動きがスローモーションになると、その瞬間から、ふつうの動作がハイスピードに見えるのです。こればかりは、一度やってみないと分からないでしょう。
もともと太極拳は日本発祥のものではないでしょうが、「ものごとをゆっくりと観察できる東洋の技の記号」として、もしかしたら「日舞のごとく優雅に見える=日本女性」の記号として、登場していたのかもしれません。
追記Ⅶ ( ときには映画「チャンス」のように )
2015/11/2 6:41 by さくらんぼ
なにかの話で映画「チャンス」を思いだしました。私はあれ以上にシニカルな喜劇を知りません。チャップリンとは毛色が違いますが傑作です。
あの映画「チャンス」の主人公こそ、もしかしたら、理想のおじさん像の一つでもあったのかもしれません。
身なりも、身のこなしも紳士で、柔和でスマイルを忘れず、いつも相手が知っている話だけをして、決して人を傷つけたり、下品な態度をしたりせず…そういうものにわたしはなりたい。
実は、私の友人にもそんな人が一人いて、彼は周囲から愛されています。飲み会でも、嘱託でも。昔の仕事が彼をそう教育したのかと思ったこともありますが、同じ職歴の人を見ても、同じ空気感は持っていませんので、やはり、彼独自の個性なのでしょう。
追記Ⅷ ( 「さすが○○さんだ」 )
2016/12/2 7:29 by さくらんぼ
>人さまざまでしょうが、私が会社を退職して夢見ることは、意外にも、古巣で働くことでした。…(追記Ⅳ)
>映画の中のベンを観ていて、超現実的な気がしました。…(追記Ⅴ)
最近しみじみ思うのですが、この映画「マイ・インターン」の肝というか隠し味は、この「追記ⅣとⅤ」にあるのではないでしょうか。
「普通の女の子に戻りたい」などと宣言し、引退したアイドルさんの中にもカムバックした人がいるように、古巣へ戻る事は多くのリタイアした者の「密かな夢」なのでしょう。それは青春時代の、人生の晴れ晴れしく懐かしい舞台だったから。しかし現実にはなかなかチャンスはありません。
だから、もし舞台に上がってほしいと依頼が来たら、嬉しさがまったく無い人は少ない気がします。
かと言って、二つ返事で出かけていくかと言えば、そう簡単なことではありません。ふたたび舞台に上がる以上は過去のキャリアに泥を塗らないパフォーマンスをしたいし、相手さまの期待も裏切りたくない。「さすが○○さんだ」と言われたいのです。
だから「断ることは哀しいし、受けることも苦しい」。そのはざまで古参兵の心はゆれ動くのです。
追記Ⅸ ( 良識あるおじさんなら )
2017/12/16 10:41 by さくらんぼ
先日のTV・ニュースで「80歳定年制の会社」を紹介していました。
65歳でいったん退職になりますが、基本的には希望者全員が再雇用してもらえ、80歳まで正社員として働くことが出来るのだそうです。
世の中、早期退職して遊びたい人もいれば、ずっと働きたい人もいるので、これは良いことだと思います。
そして社長さんの話によると、特筆すべきは、おじさんたちの単純な労働力が欲しいだけでなく、「若者に対して、人生の先輩としての、助言を与えてくれること」にも期待しているのだそうです。
若者にとっておじさんが煙たいのは私も承知しています。しかし、それはおじさんが上司・先輩である場合だと思います。
この会社の場合、おじさんも正社員とはいえ、再雇用の身分であり、実態は、若者の部下・後輩も同然になると言えば、言い過ぎでしょうか。「もう、あまり出しゃばってはいけない」。良識あるおじさんなら、その辺りはわきまえているはずです。
おじさんに長所短所があるように、若者にも長所短所があります。おじさんが一歩引いて、「これから主導権を持つ若者に対する良き相談役」になれば、両者が上手くいくのではないでしょうか。
追記Ⅹ ( 老婆心という大人の役目 )
2017/12/16 22:20 by さくらんぼ
>そして社長さんの話によると、特筆すべきは、おじさんたちの単純な労働力が欲しいだけでなく、「若者に対して、人生の先輩としての、助言を与えてくれること」にも期待しているのだそうです。(追記Ⅸより)
お手数で申し訳ありませんが、映画 「ビリギャル」の追記Ⅲ ( 老婆心という大人の役目 )もご覧ください。
追記11 2023.9.3 ( 映画「遺体~明日への十日間~」 )
映画「マイ・インターン」のインターン・ベンは、社長・ジュールズの信頼を得て、陰のリーダー的な存在になったようです。
映画「遺体~明日への十日間~」も、3.11で避難所の責任者になった若い市職員を、(ベンのように上手に陰で)サポートするボランティアのお話とも言えます。意外にも、映画「マイ・インターン」を連想するお話ですので、ぜひご覧ください。
( 最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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