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#ネタバレ 映画「潜水艦クルスクの生存者たち」

「潜水艦クルスクの生存者たち」
2018年製作 ルクセンブルク
2022.5.1


( 引用している他の作品も含め、私のレビューはすべて「ネタバレ」のつもりでお読みください。)

沈没したロシア原潜を救助する実話です。と言うと、もしかしたら「ウクライナなご時世に…」と思う方もいらっしゃるかもしれません。でも、これは2018年のルクセンブルグ映画です。そのせいもあってかセリフは英語で話しています。

潜水艦映画特有の、息が詰まるような緊迫感は健在ですが、ハリウッド作品のようにアクション満載ではありません。純文学とまでは言いませんが、わりと地味な雰囲気です。

仄暗い味わいですから、夕食を食べながら一家だんらんで楽しむには微妙ですが、映画館の闇の中で、じっくり浸るにはふさわしい作品です。

上層部と下層部、そして、その家族の視座の違い、おそらく、どこの国であれ、このような事はあるのでしょう。

★★★★

追記 2022.5.1 ( 視座の違い )

( 以下、ネタバレ 映画「セント・オブ・ウーマン/夢の香り」 私のレビュー追記  の抜粋です。)

『 先日のTVを観て思ったのですが、映画「セント・オブ・ウーマン/夢の香り」のフランク・スレード中佐 アル・パチーノさん)も、若い頃はチャーリー・シムズ(クリス・オドネルさん)のような、「高潔」に軸足を置いた生き方を目指していたのだと思います。このような「実は似た者同士」という構図は、映画の定石かもしれません。

そして、フランクは自慢の人生観を全うするためにピュアな軍人になった。

しかし、軍隊はリアリズムの極致だと思います。「勝てば官軍」の世界では「高潔」だけでは作戦が出来ないのでしょう。フランクは勝つために信念を曲げなければならない事態に直面したはずです(そこにフランクが嘘つきになった種が見えるような気がします)。そして、信念に反する作戦をした上、多くの若者を死に追いやった。だから、フランクの心の中には高潔を捨てた無念と、若者への罪の意識が渦巻いていたのでしょう。そして、それを酒で紛らわすようになった。

宗教に近いほど大切だった信念が通用しない事態になり、彼は「目の前が真っ暗になった」。それが盲目という記号になっていたのかもしれません。

彼は手りゅう弾をもて遊んで誤爆させ、文字通りの盲目になってしまいましたが、もしかしたら、それは自〇しようとしていたのかもしれません。彼の自〇願望は、その時から疼き続けていたのでしょう。だから、映画の後半にフェラーリで暴走するのも、道路を赤信号で歩いて渡ろうとするのも、その為かもしれません。

そんなフランクが出会ったのは、若い頃の自分にも似た、絶滅危惧種に近いような高潔な青年チャーリーです。フランクは(かっこつけても今の内だけだ)とばかりに(魂を売ってしまえ)と悪魔のささやきを繰り返します。しかし、動じないチャーリー。やがてフランクは敬意を感じ始め(この男が大統領なら軍人として仕えてみたいと)、チャーリーの高潔を守ることに転じるのだと思います。チャーリーに対し、「お前が妥協するのを見たくない」とフランクが言ったのは、おのれのトラウマを逆撫でされる心配からかもしれません。』

高潔だったフランクを苦しめた戦争(作戦)とは、具体的にはどのようなものだったのでしょう。例えば私は、この映画「潜水艦クルスクの生存者たち」のようなものだとも思いました。

任務に就くとき、兵士と家族は再会を約束します。しかし、事が起きれば、最上層部は一握りの兵士の命より、国家の安全とメンツを優先するようです。そして、上層部の中でも、たとえば海難事故の場合、現場指揮官はシーマンシップを加味した判断ができますが、現場にいない最上層部にシーマンシップは無く、より、国家の安全とメンツを優先する、最前線の兵士にとっては非情な決断をするようです。

このような状況で、例えばフランクがシーマンシップの持ち主だったとしたら、部下を助けられず、苦しんだのかもしれません。

追記Ⅱ 2022.5.1 ( 映画「永遠の0」 )

映画のラストまで観たら、お叱りを受けるかもしれませんが、さらに、映画「永遠の0」を連想してしまいました。

そして、今日、予告編を観たら、その思いを後押しするようなセリフも。

連想しただけですから、現段階でオマージュかは分かりません。しかし、ロシア人とて、兵士が亡くなると、悲しむ家族がいる事だけは間違いはないのです。

追記Ⅲ 2022.5.1 ( タイムリミット )

映画の最初と終わりには、象徴的に父である兵士の腕時計がでてきます。

そして、沈没した潜水艦の救助には1分たりとも猶予は出来ません。

この映画「潜水艦クルスクの生存者たち」の主題は、「時」のような気がします。

何事にも壁があり、それを超えた瞬間、事態は急変するという。

だから壁に囲まれた潜水艦なのでしょうか。

追記Ⅳ 2022.5.1 ( お借りした画像は )

キーワード「潜水艦」でご縁がありました。画像は自衛隊の潜水艦のようです。無加工です。ありがとうございました。

追記Ⅴ 2022.5.2 ( 映画「永遠の0」② )

>映画のラストまで観たら、お叱りを受けるかもしれませんが、さらに、映画「永遠の0」を連想してしまいました。(追記Ⅱより)

一晩たって少し焦点が合ってきましたので、もう少し詳しくお話します。

映画「潜水艦クルスクの生存者たち」を見て感じたのは、主人公・ミハイルの息子が、すべてを見通す天使のような役柄で登場することです。息子は潜水艦の中までも(死に瀕したミハイルの幻覚として)登場します。ミハイルの上に浮遊するその姿はまさに天使でしょう。

そして、ミハイルたちの葬儀の席で、訪れた最上層部の人が、遺族である何人もの子どもたちに握手を求めようとしたら、息子は無言で拒否したのです。

気まずい雰囲気が流れます。あきらめた最上層部の人は、次の人に握手を求めようとしましたが、もはや、誰も握手をしませんでした。事態は急変したのです。

やがて葬儀が終わり、母子が帰り道を歩いていると、後ろからミハイルの友人たちが追いかけてきて息子に言うのです。「ありがとう」と。息子が最上層部の人に無言の抗議をし、自分たちにはできなかった父たちの名誉を守ってくれたことに感謝したのですね。

友人は、(お礼にと)父の海軍腕時計を返してくれました。

この時計は、映画の冒頭にも、父が息子に潜水時間の訓練をする場面で出て来ました。「父を象徴する記号」として。

しかし、(遅れた?)結婚式の時、酒席の用意をするお金がないので、父は宝物の腕時計と酒などを物々交換をしていたのですが、今回、葬儀に参列していたその時計の持ち主から、お礼にと帰ってきたのです。

約束通り、父は帰ってきたのです。

さがせば他にもあるかもしれませんが、私が連想した事を言語化すると、このようになります。

映画「永遠の0」も、孫が特攻隊員だった祖父の過去を調べまわり、怖いヤクザとも一人対峙し、祖父の名誉を回復するお話でした。そして、その孫のもとへ、ゼロ戦に乗った祖父は帰ってきたのです。



( 最後までお読みいただき、ありがとうございました。 

更新されたときは「今週までのパレット」でお知らせします。)


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