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商品を高く売るには、どうすればよい?

お客様とこんな話になりました。
「どうすれば自社のサービスや商品を高価格で販売できるのか」ということです。

安売りは、かならず行き詰まる

スモールビジネスは、安売りを脱却しなくてはいけません。
なぜなら経済史において、安売り事業は必ず停滞を迎えるからです。

【人脈と薄利多売】
私の知人に、とても顔が広い経営者Aさんがいました。Aさんは、非常に豪胆でパワフルな人物です。その顔の広さで仕事をかき集め、社内の人間に丸投げしていました。側から見ていると、営業せずとも仕事には困らないように見えました。

しかし残念ながら、その会社は倒産しました。なぜならその人の事業は非常に薄利でした。そして自転車操業でした。新規案件はあっても、それを価値として顧客へリターンできる内部の人材がいなかったのです。ワンマン経営で人材育成の仕組みはなく、イエスマンだけが会社に残った結果、資金繰りが途絶え、次第に借金だけが膨らんでいったそうです。

私自身、その人の顛末を知り、あらためてビジネスの難しさを感じました。当時は集客だけできれば事業は回るものと思っていましたが、どうやらそうではないなと。そして薄利多売のモデルは、必ずどこかで限界を迎えるのだと理解しました。

大手企業でもダイエー、西友などが安売りで失敗しました。その後、フランチャイズやSPA(自社製造)などの仕組みが活用され、脱・安売りの道も開けていきました。

お客様から評価されるには

とはいっても、やはり利益を確保したまま自社のサービスを販売するには、並々ならぬ努力が必要です。またスケールのメリットを活かせない中小企業はどうやって薄利多売から抜け出せるのでしょうか。

【不用品の依頼】
先日、不用品回収サービスを利用しました。一応比較見積もりした方がよいかと思い、ネットで見つけた3社に来てもらい、現場を見ながらお見積りをお願いしました。

A社は見積もり20万円、
B社は見積もり10万円、
C社は見積もり3万円でした。

同じ条件での見積もりだったのですが、こうも金額が分かれるかと驚きでした。ちなみに知人に市場価格を聞いたところ10万円が妥当とのこと。

A社は個人店?で、高い理由は環境のためのリサイクル費とのこと。B社は検索一位の地域No.1店。担当の方も誠実そうに見えました。C社は、担当者の携帯が常に鳴っており、忙しそうだったのが印象的でした。

検討の末にB社へ依頼しました。私たちが重視したのは、「トラブルを避けたい安心感」と「担当者の好感度」でした。

もし私が「安さ」を評価するタイプならば、C社を選んでいたでしょう。しかし、個人的に「安すぎて後にトラブルになりそう」という気持ちが拭えませんでした。またA社はさすがに高すぎて依頼できませんでした。

ここから考察できることは、私が「安心感」を評価するタイプだったがゆえに「3万円」の3倍以上にもなる「10万円」を支払っていることです。そして価格がもう少し高くても、迷いなくB社へお願いしていたと思います。それは営業マンのコミュニケーション力や、ブランドの「安心感」が付加価値となっています。

しかし注意したいのは、お客様一人一人評価するポイントは違うということです。上記でいえば、「安さ」ととるか、「安心感」をとるか、「環境」をとるかでそれぞれ違うのです。

評価点は人によって異なる

マーケティングでは、お客様を「ライトユーザー」と「ヘビーユーザー」で区別します。それぞれ下記のような特徴があります。

ヘビーユーザー
・全体の1〜2割ほど
・サービスへの知識が深く、審美眼が鋭い
・目的により、複数のブランドを使い分ける

ライトユーザー
・全体の8〜9割を占める
・サービスへの関心が低く、適切にやってくれればよい
・単一のブランドを選びつづける

美容院をテーマに考えてみます。
美容のヘビーユーザーとは、ヘアスタイルもメイクもスキンケアも費用を惜しまず、強いこだわりがある人のことです。こういった人は美容の知識にも長けており、レベルの高い施術を求めます。また店舗やブランドに詳しく、用途によって複数のブランドやお店を使い分けます。

対して美容院へ来店するお客様は、美容にそこまで興味のないライトユーザーがほとんどです。細かいオーダーはせず、とりあえず良い感じにしてもらえれば満足します。また一度特定の店舗を気に入れば、そのお店に何度も通いつづけます。新しいお店やサービスの探索を面倒と感じます。そして技術のレベルより、通いやすさや快適さ、気軽さを求める傾向にあります。

ビジネス的に1割しかいないヘビーユーザーより、9割のライトユーザーを狙ってマーケティングを行った方が、施策のインパクトは大きく、継続性があります。

気軽さ、快適さが人を呼ぶ

ヘビーユーザーは知識の豊富さゆえ、店舗へ高いレベルでの要求や注文をおこなうことがあります。事業者側もそれに応えるうちに、多くの人がその高いレベルの施術を求めているように勘違いしてしまいます。

美容院で言えば、高度なヘアカラーやデザインスタイルをSNSへアップしまているお店があります。彼らは「私たちはこんな難しい施術ができます」ということをPRしているのですが、多くのライトユーザーはそこまで高度なスタイルを求めていません。それよりも、気軽に話せる担当者さんに、サクッとカットしてもらえれば良い。たまに気分を変えてカラーで遊んでみればいいな、といった具合です。

ヘビーユーザーの声に耳を傾けすぎることで、顧客のニーズを勘違いしてしまうことで、次第にライトユーザーが求める快適性が損なわれてしまわないように注意すべきです。

【コメダ珈琲のブランド戦略】
コメダのコーヒーの値段は500〜600円です。しかしコーヒー自体はセントラルキッチンで抽出されたもので、いわば既製品です。それでもお客様が途切れないのはなぜなのでしょうか。

それはコメダがライトユーザーに好まれる「快適性」を売りにしているからです。座り心地と空間の広さを意識したソファ席、ウッド調で高い天井、オーダーから配膳までしてくれるフルサービスなど、ついつい長居したくなる工夫が満載なのです。

コメダの経営理念がすべてを語っています。
【経営理念】
「私たちは"珈琲を大切にする心から"を通して
お客様に"くつろぐ、いちばんいいところ"を提供します」

現場には様々なお客様がいる

と、つらつらと語ってきましたが、これらはあくまでお勉強としてのマーケティング論です。当然、現実はうまくはいきません。

前述ではお客様をヘビーユーザーとライトユーザーに分けて考えました。しかし現実では、お客様は簡単に分類できるものではありません。そしてそれぞれが持っているニーズは、非常に複雑です。そもそもヘビーだとかライトとかは、マーケティング上の形式的なものです。

【茶道を習いにくる人のニーズ】
とある茶道の先生にこんな話を聞きました。
その先生の元には100人近い生徒さんが日夜お稽古に来られるそうです。その生徒さんは本当に様々なことを求めて来られるそうです。

お茶を嗜むことが好きなだけでなく、お菓子が好き、茶道具が好き、さらには出会いのきっかけや、嫁入り前の花嫁修行など様々です。

そしてその大半が、お茶を楽しみながら、それぞれの目的を叶えたいエンジョイ勢です。そういった方には優しく指導をし、いっときの時間を楽しむ。
しかし、一部ストイックにお点前を習いたい「本気勢」には、あえて厳しい指導をし、ハードルの高い要求をします。プレッシャーはかかるが、成長を促す体験を次々に与えるのだそうです。

その先生が凄いのは、生徒さんが「何を求めているのか」を即座に見極めて、指導の仕方を柔軟に変えている点です。

そのため、多くの生徒たちが快適にお茶の世界を楽しむことができ、長く継続することができます。ゆえに社中連が100人を超えており、一つの教室としてかなりの大所帯のようです。それもひとえにその先生のお気遣いの賜物なのだと思います。

真の顧客はエンドユーザー

商品のブランドづくりも同じことです。多くの名経営者は『真のお客様はエンドユーザーである』と語り、現場を重要視します。そして、お客様が求めること、それを実際にプロダクトやサービスを実現し提供することで、優れたブランドが出来上がります。

ちなみに私たちの広告業でいえば、クライアントの求めていることは「広告の知識や技術」ではありません。それよりも広告づくりには、上層部を動かせる人間力・愛嬌・狡賢さ・度胸などが必要です。小手先のマーケティング理論やクリエイティブのスキルは二の次です。有能な広告マンに「戦略家」タイプより「体育会系」が多いのも、それが理由です。

お客様が事業を高く評価するほど、「これくらいなら払ってもよい」という高価での販売が可能になります。まずはお客様が、どんなことを評価するのかを把握し、そこを強化することで価値向上を目指します。


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