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売れる店と売れない店のちがい

先日、お客様とこんな話になりました。

「同じチェーンの同じ設備、同じような立地でも、店舗によって売上は大きく差がでる。この数字の差って正体はなんなのだろう?」というものです。

売れている店は雰囲気が明るい?

これについて、私の経験した事例をもとに考察してみます。

取り上げるのは、新品自転車を販売する大型チェーンのクライアント様です。地域内に数十店舗を構える中堅ブランドです。

そして、その店舗の中にも、明確に売上のよいお店・わるいお店が存在しました。

とある依頼を受け、各店舗を視察したことがあったのですが、その時に売れる店、売れない店の差について感じたことを書いてみようと思います。

まず初めに、そのブランド内でも最も売上の高いお店へお邪魔しました。
そしてそのお店にうかがい、最初に思ったことは…

店員さんが明るい!

元も子もない答えですね。
ですが、色々とお話しをうかがった上で、結局これにつきると思います。
とても大事なことです。理由を説明します。

自転車業界は、自転車本体の売上はもちろんですが、修理や部品交換も大きな収益源です。本体を安価で提供し、修理や点検で儲けるビジネスモデルのブランドも多く存在します。

お客様にとって、相談のしやすさは非常に重要です。もし乗っている自転車の調子がわるいと感じた時、気難しそうな顔のスタッフが対応するよりも、どんな小さなことでも明るくハキハキと対応してくれる方が良いですよね。

所属するスタッフの印象やコミュニケーションスキルは、売上に直結する指標だと思いますし、この売上の高いお店は、その人柄の良さがダントツで高かったですし、スタッフ全員に高い意識が共有されてもいました。

「ブレーキの調整が悪い」「ライトが盗まれて…」「電動自転車を検討しているんだけど…」など、どんな小さな相談事でも嫌な顔せず、技術的な解説もふまえ、丁寧に対応していました。

売れていないお店は話しかけない?

その後、今度は、もっとも売上の悪いお店を観察することに。まだ新しい店舗で、当然お客様が根付いていないこともありました。

その自転車ブランドは、お店のつくりが清潔感がありおしゃれなデザインで統一されています。ですから必然的に訪れるお客様も若い女性が多くなります。

しかし、売れていないお店のスタッフはどうやら引っ込み思案な人が多いようです。来店した”自転車を探しにきた”女性客に一切話しかけることなく、自転車をひたすらにいじっています。

お客様はつぎつぎと訪れるのですが、お客様が「どんな自転車をお探しなのか」「何を目的に来店されたのか」「どんなお困りごとがあるのか」を誰もヒアリングしません。

ですから、お客様も一通りお店を見回った後、すぐに出て行ってしまいます。

これは経営陣からすれば、「機会損失」です。明らかに自転車をお探しで、本来ならば買っていただけたはずのお客様に商品を買っていただけなかったからです。

しかしスタッフ側からすると、「お客様から声をかけられなかったから」「必要だったら向こうから声をかけてくれるだろう」という意識だったようです。

こういった意識の違いと、コミュニケーションや主体性の不足が、売上の違いを生んでいるのだなと、その時にあらためて気付かされました。

消費者は”なんとなく”お店を選んでいる

お客様は合理的に値段や性能を比較して、お店や商品を選んでいるわけではありません。これは消費者の購買行動のひとつで、ややこしい言葉でいえば「認知的不協和低減型」といいます。

たとえばあなたが引越しをして、夏なのに部屋にクーラーが付いていない場合を想像してください。まずはあなたは一刻もはやく部屋を涼しくしたいと考えます。その中で、近くにある店舗間のチラシをかき集めて、値段を比較したり、機能やスペックの違いを吟味したりはしませんよね。

とりあえずパッと思いついたお店へ行き、製品など見比べて、問題なければ購入の手続きをする。そんな感じだと思います。

同じように自転車を購入する際も、ブランド間や製品の差は少ないため、お店選びはそこまで重要ではありません。ですから必然的に「話しかけやすい」「行きやすい」お店で購入しようとなります。

そして、どこで買っても同じような製品であれば、それを丁寧に説明してくれたり、誠意を見せてくれる人の場所で買いたいとなるのが、人の心情というものではないでしょうか。

つまり自転車の販売店においては、積極的にお客様へコミュニケーションをとれるお店の方が、売上はあがるというわけです。

採用ではなく文化をつくる

しかし、そんなことは企業も理解しています。ですから、なるべくお客様に積極的に関わっていける人材を雇用したいと考えます。そして必要コストをかけ、求人サイトや採用の販促をおこないます。

しかし(特に中小企業は)そういった活動が、なかなか成果にむすびつきません。なぜかというと、優秀な人材は、この世の中に限られているからです。コミュニケーションや共感性、社会性の能力を「優秀」であると仮定するならば、そういった人材は多くの企業が競合します。取り合いです。そして、資本力の強い大手企業に取られてしまいます。

ですから、スモールビジネスやローカルビジネスの場合、余程つよい誘引力のあるブランドやカリスマのいる企業でなければ、採用拡大によって良い人材がとれることは多くありません。

では、そのようなケース、どうすればよいのでしょうか。

これは私が知人の経営者に聞いた話です。
こういった人手不足のなかで、通常の経営戦略ならば、「優秀なスタッフ」を求めて、採用活動をおこないます。

しかしその経営者の方は、売れているお店の「優秀なスタッフ」を「リーダー」へ昇格させ、売れないお店へ派遣するのだそうです。そこで「リーダー」を中心にして、小さなチームをつくります。そして徹底的に「リーダー」の行動原理や日頃の習慣をトレースさせるのだそうです。

1〜2年経つと、以前は「ダメな社員」だった人たちが「リーダー」の行動を真似することで、成果をあげるようになり、次第に積極的なマインドを持つようになるそうです。すると、次第にその意識の高さが伝播していき、お店自体が高いパフォーマンスを発揮し始めるのだそうです。

まずは小さく囲い、お店の主要人物やモチベーションの高い人へ熱を伝えていく。そして、その少人数が互いに干渉しあうことで、その周りにいるスタッフ全体へ積極性が「感染」していくのです。

資本力で劣る中小企業は、そういった「互いを高め合う文化」をつくることで成果を上げることができるのです。

行動から態度が変わる

マネジメントにおいては、人は簡単に変わらないというのが定説です。仕事に積極的でない人を主体的にすることは難しい。消極的な人が、外部から影響を受けて、とつぜん仕事に前のめりになることは考えづらいですよね。一時的にモチベーションは上がったとしても、大抵そういった熱は、一晩寝たら忘れてしまいます。

本来、人は高いモチベーションが先にあることで、仕事を頑張っていると思われがちです。

しかし、本来は仕事を頑張ることで、高いモチベーションが維持されるのです。つまり行動した後に、なぜその行動をしたのか、を脳みそが勝手に理由づけているのです。

そして仕事への取り組み方は、周りの環境によって大きく左右されます。チームのモチベーションが本人の行動へそのまま影響します。しかし、本人はそれに気がついていないため、無意識に「お客様の笑顔が見たいから」「この仕事が好きだから」と、理由を足しているのです。

たとえば、子供が非行に走るのは、多くの場合、「逆らうことがかっこいい」という文化のある環境で育つからです。そして、違法行為や危ないことを実行することで、その思想が裏打ちされていきます。そういった場合、逆に「非行=ダサい」という思想のグループに参加させ、環境を変えることで、一気に態度が改善することがあります。

カルチャーがなぜ有効なのか。それは、そういった仕事に主体的でない人にも、なかば強制的に行動をうながすことができるからです。マニュアルや手順書というのは、強制力を持ちません。それは単なる手順を書き出したものにすぎません。

現場でリーダーとなる人物が、来店されるお客様に積極的に声掛けをし、実際にばりばり売上をあげていれば、嫌が応でもそれが取るべき行動なのだなと分かります。そして実際に同じように声掛けをし、成果がでるようになれば、次第に業務に対して積極的になっていきます。それが組織文化です。

人はオセロのように互いに影響を及ぼし合っているものです。売れないお店は、現場の人のスキルやマインドがダメなのではなく、「良い組織文化」がないからこそなのだと思います。