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青砥 十 /羽二重 もちこ
2021年6月8日 21:19
開架中学二年、生徒会所属、平凡なる会計の僕は――新調したばかりの眼鏡のレンズが忽然と片方なくなったので、仕方なく予備の眼鏡をカバンから取り出した。 ペアの物が片方消えると動揺するが、僕の周辺ではもっと不思議な現象がたまに突然起こるので、いちいち取り乱したりしない。今日もそうだったのだ。 九月二日、二学期が始まって最初の週末だった。この夏は猛暑でまだまだ暑くて、半袖のYシャツの背中にじっ
2021年5月25日 22:48
畦道を歩いていると、田んぼのほうから誰ともなく「やろか、やろか」と聞いてくる声がする。うっかり「はい」と答えてしまうと、その村に大水が来る。 そんなのを「やろか水」と言う。 そして、そんなのが、一人暮らしをする妹のアパートの蛇口に現れた。夜中に妹が一人でいると「やろか、やろか」と聞いてくるそうだ。誰かと一緒にいるときは出ないらしいが、そうそう毎晩友達を呼ぶこともできないし、残念ながら彼氏
2021年5月25日 22:45
「出雲さん、お清めのご協力をお願いします」「はい、もちろん。それにしても甘酒地蔵尊は初めて聞きましたが、素敵なお地蔵さんですね。私も娘を連れてお詣りに行ってみたいです」 この人は何も変わらない。昔と同じ、好奇心と信仰心が入り混じった明るく不思議な性格のままだった。きっと先程見た娘さんも世代を超えて継承していることだろう。「出雲さん……厄払いは観光ではありませんよ?」「不二センセイ、知ってま
2021年5月22日 01:27
玄関に入ると、家人の中年女性とともに、出雲あやも姿を現した。そばに小さい女の子もついてきた。 出雲は久し振りに会ったが、少し落ち着いた雰囲気になり、昔と変わらず艶やかな真っ直ぐの黒髪で、後ろで白いリボンで一つ結びにしている。女の子は――小学生の低学年くらいだろうか、黒髪を両サイドに分けて白いリボンで二つ結びにしていた。目鼻立ちがよく似ていて、一目見て母娘だとわかった。「不二先生、お待ちして
2021年5月20日 22:04
若い女性の奇病を専門として少し名の知れた先生がいた。名は不二という。医者でふじなど縁起でもないが、先生の場合は関係ない。年は三十過ぎと若いのだが、面相は恐ろしく老けている。近所の年寄り達も、冬になると青白さを増す顔色を心配がり、「先生、甘酒でも飲むかい?」と差し入れてくれるほどだ。 先生の扱う奇病はだいたい怨念が原因である。自分の身に振りかかった災いを相談に来る女性が大半だが、時には知り合