マガジンのカバー画像

愛知妖怪短編集 ゆるこわ

10
運営しているクリエイター

2021年6月の記事一覧

愛知妖怪奇譚 亡国の児戯

愛知妖怪奇譚 亡国の児戯



 遊園地に、美しい骨が落ちていた。
 木のバットほどの長さがあり、石膏彫刻のように白くなめらかな線を描き、生きる意志があるかのごとく硬かった。
 廃墟と化した遊園地。夕暮れ、懐旧に捕われ侵入したものの、やはりここにはもう管理者はなかった。行政も放置しているようだ。ただ、管理者があるとすれば――目の前にいる、赤い着物の少女であろうか。金色の髪飾りがチラチラと輝いている。近所の子供であるはずがない

もっとみる
出雲あやと出雲ふみ、古紙の乱舞に挑む

出雲あやと出雲ふみ、古紙の乱舞に挑む



 開架小学校三年、町の書道教室に通っている娘のふみは、生まれる時代が違えば、空海(くうかい)、橘逸勢(たちばなのはやなり)、嵯峨天皇(さがてんのう)の「三筆」に並ぶほどの人物にだってなれただろう。幼稚園の頃から漢字の覚えは人一倍早くて、書道教室に通うなり飛び抜けた才能を発揮し、文部科学大臣賞を受賞するほどの上級者だった。通っている書道教室でも初めての快挙で、書家の先生が腰を抜かして寝込んでしま

もっとみる
【後編】後輩書記とセンパイ会計、片足の美女に挑む

【後編】後輩書記とセンパイ会計、片足の美女に挑む

 電話を終えた後、僕はのどが渇いたので、校内の自販機で冷たい飲み物を二本買った。自販機は玄関の靴箱に近くにある。当然だけど、ここにはたくさんの靴や上履きがある。何で靴を片方盗むのか。それはよくわからないまま、生徒会室に戻った。ふみちゃんのはリクエストされた抹茶入り緑茶だ。僕はアミノ酸飲料にした。
 ガラガラと引き戸を開けると、ふみちゃんはふふふっと微笑んだ。
「数井センパイ、その顔を見ると、ずっと

もっとみる
【前編】後輩書記とセンパイ会計、片足の美女に挑む

【前編】後輩書記とセンパイ会計、片足の美女に挑む



 開架中学二年、生徒会所属、平凡なる会計の僕は――新調したばかりの眼鏡のレンズが忽然と片方なくなったので、仕方なく予備の眼鏡をカバンから取り出した。
 ペアの物が片方消えると動揺するが、僕の周辺ではもっと不思議な現象がたまに突然起こるので、いちいち取り乱したりしない。今日もそうだったのだ。

 九月二日、二学期が始まって最初の週末だった。この夏は猛暑でまだまだ暑くて、半袖のYシャツの背中にじっ

もっとみる