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気取らないお菓子

バナナの皮で滑べるか
自ら発したギャグで滑べるか

どちらが恥ずかしいだろうかと究極の選択で悩んでいたら、5カ月が過ぎました。


んなバナナ。


絶対こっちの方が恥ずかしい。


noteを最後に書いたのが11月。
その頃本格的に着手し始めた大仕事が3月末にひとまず終わりを迎え、嵐のような日々が凪になって、ようやく辺りが見渡せるようになりました。

すると、しばらく使わなかったお菓子作りの道具たちや、いつの間にか新しくなっていたnoteのロゴが視界に入り、またいろんな方々の記事を読み始めたところ久しぶりに何かを作りたいという意欲が湧いてきました。


若い頃ほどではないにせよ、仕事に無我夢中になると食事がおざなりになりがちなところは相変わらずで、お菓子を作ることにも意識が向かない日々においては、張り詰めた気持ちをほぐすことすら忘れていたようです。

身近な材料で、
とにかく気持ちがホッとする、
気取らないお菓子が作りたい。

そんな想いでたどり着いたのが、富澤商店さんのサイトに掲載されている『シンプルバナナケーキ』でした。
吉野陽美さんというシェフの方のレシピで、まさに気取らない感じの素朴なケーキに魅力を感じます。


買い出しに行く前に家の在庫をチェックしてレシピに目を通しましたが、久しぶりのお菓子作りという事もあって、ほとんどの材料が不足しているようです。

無塩バター、小麦粉、ベーキングパウダー、ブラウンシュガー、シナモンパウダー。


モラセス。

突如これまでの人生で目にしたことのない4文字が目に飛び込んできました。

モラセス。

ギリシア神話に出てくるウラヌス的な何か。


気取らないお菓子のはずが、急に気取った感じがして不安です。

調べてみると、日本では一部の人にしか知られていないけれど、海外では日常的にお菓子作りなどのフレーバーとして使われている糖蜜だそうです。
カルシウムやマグネシウム、鉄分などが多く含まれているということで、その栄養価に再度注目が集まりつつあるとの事。

未知の材料ですが興味深く、一度買ってみることにしました。

ゲランドの塩。

また気取ってきた。
油断も隙もありません。

ここは家にある伯方の塩を使って気取り感を弱めたいと思います。

ほんとは買ってみたいけど。

バナナは酸味のあるやや若めのバナナがおすすめとレシピに書いてありましたので、あまり黒くなっていないものを選びました。

普段ほとんどバナナを買うことがないのでまじまじと見る機会がなかったのですが、ふとその黒ずみが気になって調べると、シュガースポットと呼ばれている事がわかりました。

名前ひとつでなんだかチャーミングです。

最近気になりだした顔の黒ずみもシュガースポットと呼んでみてはどうだろう。

「最近、シュガースポット増えてきたんだよね。」

なんだかチャーミングです。


お立ち台でスポットを浴びる
シュガースポット


まずはバナナの皮を剥き、皮は誤って滑らないようにすぐさまゴミ箱に放り込みます。
その後フォークを使って荒目にバナナを潰し、ラム酒を馴染ませておきます。

奇跡のマリアージュを予感させる芳醇な香り


常温に戻したバターをクリーム状にし、ブラウンシュガーとモラセスを加えて撹拌します。

キミも気になるよね?


黒豆以上備長炭未満


しっかりと白っぽくなるまで乳化させるのがポイントと書かれていたので、ハンドミキサーを使って十分に撹拌しながら、卵、粉類の順番に加えていきます。

生地にツヤが出てきたら、ラム酒で酔い潰れたバナナを加えます。

潰された上に酔い潰れたバナナ


型に生地を流し込んで、テーブルに叩きつけるようにしてならし、180℃のオーブンで38分焼きます。

35分ではない時間の刻み方に、並々ならぬこだわりを感じます。

しばらくするとオーブンからバナナ特有の甘い香りと、おそらくモラセスだと思われる苦味と甘みが混ざり合ったような香りが漂ってきました。

黒糖飴のような、懐かしいく甘ったるい空気。


半年間、ようがんばったなぁ。


オーブンの中のターンテーブルをぼんやりと見つめながらそんな事を思って自分を労い、そして、それでもやはり、作る楽しみや食べる楽しみを置き去りにしてしまう日々はあまり良くないのだと、その甘い香りから直感的に感じずにはいられませんでした。


38分の見事な焼き上がり



冷まして生地を締めてから食べるのがおすすめだそうですが、せっかくなので熱々の焼き上がりも食べてみます。

柔らかい生地にゆっくりと包丁を入れ、2切れをお気に入りの小さなお皿に盛り付けました。


生まれたてのバナナケーキ



微妙な断面で神妙な顔面になったyo!-yo!

まだ滑り足りんのか。


しかし不安はさほどありません。元来お菓子作りが上手ではない私が、幾度となく失敗を繰り返し学んだ事があるからです。

見た目は悪くても、味は悪くないケースもある。
見た目は良くても、味は悪いケースもある。
人は見た目によらないケースが多い。


ホクホクのシンプルバナナケーキ。
モラセスのほろ苦い甘みがバナナとマッチして、見た目はさておき、美味しくて満足度の高い仕上がりとなりました。

何より久しぶりに作って味わう時間がもたらす幸福に、心も身体も満たされている気がしていました。


#日記  , #エッセイ , #スイーツ , #お菓子作り , #バナナケーキ , #富澤商店


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