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星不知・ほししらず

絵の話をしようと思う。まずはそのきっかけから。

TikTokでショートフィルムを制作している「ごっこ倶楽部」という方々の【REC】という作品を見た。
つきまとってくるストーカーの男を鬱陶しく思いながら日々を過ごすとある女性の短編ドラマだ。短いので、良ければ前後編ご覧になってから戻ってきていただきたい。

おかえりなさい。
どうでしたか?
自分の事を不意に忘れてしまうアルツハイマーの妻を、ストーカーと言われながらも見守り支える夫のお話。大切なものや当たり前を当たり前のように忘れていって、それが普通になってしまう恐ろしさを僕は感じた。

僕はこのドラマを見て、実家の近所に住んでいたお爺さんを思い出した。小中学生の頃、父とキャッチボールをしていた空き地の持ち主で、今日もやってるなー!なんて声を良くかけられた。高校入学後も朝と帰りに挨拶を交わして帰ってくるのが日課だった。あの人の家の前を通るのが好きだった。

お爺さんは認知症になった。特に変わった様子を見せなかったその人にいつものように挨拶をする。挨拶を返してきた後、不思議そうにこっちを見て
「元気だね!どこの子だい?」
と、とても良い笑顔で聞かれた。
僕は一瞬止まった。
「えっと、ほら、僕はそこの家の◯◯ですよ」
と返したら
「そこの子なんだね!挨拶してくれてありがとうね!」
と返された。背を向けて、恥ずかしげもなくボロボロ泣きながら家に帰ったあの日を、鮮明に思い出す。

お爺さんには奥さんがいた。きっと奥さんのことは忘れなかったのだろう、亡くなるまで仲良く話をしている姿をよく見かけていた。
僕は会えた日には必ず挨拶をした。あの日以降、もう僕の名前を呼ぶことはなかったが、ニコッと笑って挨拶を返してくれた。その返ってくる言葉だけで十分だった。

【REC】をみて、あのお爺さんを思い出して、「星不知」という詩を書いた。「ほししらず」と読む。


思い出を忘れてしまうその人は、何かを忘れている事を感じさせないくらい穏やかに静かに生きている。まるでそれが当たり前のように。
その人を大切に想う誰かは語りかけ続ける。何を言ってるか分かられなくても、ひとりごとのように聞かれても、きっと思い出して返ってくる言葉を楽しみに。
そんな気持ちを書いた詩だ。
「忘」という漢字の心を亡くす、なんて寂しすぎるなと思ったので、「不知」という漢字を使った。
絵には、思い出である星とそれを見ていない穏やかな人を、夜という静かな世界に描いた。
分からなくなっても味方でいてくれる花たちは、人と同じような色味を選んだ。

アイコンに使うこのお気に入りの絵、なんとなく見え方が変わりましたかね?
聞いてくださりありがとう。
最初に裏を話す絵が、この作品で良かった。

星不知


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