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小説詩集「風ファイル1」

中庭に咲く花を見てたら、風がふいてきたから手を振った。

「なに見てた?」

「花だよ、」

美味しそうだったから、て言って笑った。

こんなふうに春、な気持ちになっているのはまばゆい光のせいかなあ。

「冬がずっと、君をさなぎに留めていたからね」

風が端的に言い表してくれたから心が軽くなった。

「芋虫だった頃が懐かしい?」

風が聞く。

「ちっとも、」

なんなら、自分が大和しじみなのも知らなくって行ったり来たりしてたのが馬鹿げてた。

「あなたはアゲハよ、」

とかママに言われてたから、そうなのかと思って派手に葉っぱを食べたり、畑中をせっせと動き回ったりしてた。

「苦痛だった?」

風が教室の窓窓を覗き込みながら聞いた。

「ううん、一生懸命だったから」

ただね、とか言いよどんだら風が正面に回り込んだ。

「ただ?」

「ただ、アゲハじゃないことをママは憎んでた。その思考回路がね、」

「その思考回路が?」

私とつながってたシナプスからプツンって分断されて離れていってしまったの。で宇宙の彼方へ秒速遠ざかって行くのを私は見送った。

「宇宙の彼方?」

「手をふってみおくったよ」

「羽化して飛び立った時のこと?」

頷いたけど、言葉にしてない一点を見つめてた。

風はバックからPCをとりだして打ち込みはじめてる。宇宙、シナプス、それからママとか、尊厳とか矢継ぎ早に。

「言葉を収集してるの?」

「記憶を収集してるんだよ」

「あつめて小説にでも?」

風は呆れたみたいに首をふった。

「地球の一部みたいになってタネを運ぶのが僕のしごとさ、」

なので二度とここには戻らない。

「あなた時間なの?」

て驚いて聞いたら、花々がクスクス笑ったから私はにらみつけた。

「時間の奴より血が通ってるつもりだよ」

て風がPCをしまいこんだ。

「かわってるなあ」

っていたっら、いや君ほど変わってないからって笑った。

蜜を吸い終わった蝶みたいに離れて行く風を花たちと一緒に見送った。私も授業があるわけで蝶みたいにそこを離れた。

サークル仲間がやってくるのが見えたから手をふった。

「何見てたの?」

だれかが聞く。

「花を見てたんだよ、」

美味しそうだなって思ってさ、て言って初夏の光の中で風に似ただれか、と笑った。

おわり

❄️一体全体連休からどうしていたんだね?休み疲れで体調崩していたんです。しかし、これしきの短文がそれほどの時間を要するのかね?そこなんです。他人の事情はわからん、みたいに、自分の事情もまた今振り返るとわからんのです。誰とはなしてるの?とか記憶収集家の風が通りすがりに問いかけます。あれ、戻ってこないんじゃないの?いや、君も進んでるわけだから、こうして、、、。誰と話してるのかね?あなたこそ誰です?、、、みたいにからまった妄想がおわらない5月なんです。


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