(詩)宇宙ステーション

家の灯り、町の灯り、駅の灯り
ざわめき、犬のなき声

子犬が足に絡み付いてきた

まるで叱られて家出する少年
ひとりぼっち泣きそうな顔こらえて
子犬とふたり

高層ビルの灯り、空港の灯り
宇宙船でもやってきそうだ
寒さをこらえて待っていよう
辛さも悲しみもこらえて
子犬とふたり

都会の灯り、ふるさとの灯り
遠い宇宙の彼方の灯り
ともっては消え
それを繰り返し

道に迷ってしまったのか
それともはじめから
道など存在しなかったのか
みんな夢だったと言うように

宇宙船はいってしまった
人々の諦めた顔を
眺めているうちに
お腹を空かした子犬とぼくを残して


祭りの灯り、いろまちの灯り
ネオンの波に濡れながら
とうとうここまで来てしまった
世界で一番眩しくて
宇宙で一番悲しい場所

子犬が突然なきだした
まるで合図を送るように

女の子がひとり
えさをやろうと
店から飛び出してきた
悲しいほどに似合わない
ミニスカートにコートをかけて

誰の夢がかない
だれの夢がついえたか


とうとう宇宙船はいってしまった
お腹を空かした子犬と
梅毒の少女を残して

あんまり眩しかったので
宇宙ステーションと間違えたんだな
吉原のネオンサイン
どうせなら奇蹟のひとつでも
起こしてゆけばいいのに


もう灯りは消してもいいだろう
みんな眠りについたから
宇宙船もかえってはこないだろう

もうねむりにおちてもいいんだよ
ベッドにはきみひとり
もうだれも襲いかかったりしないから

こわければ
子犬をだいていればいい

ぼくをここに連れてきたのは子犬
ぼくならきみを
助けられると思ったんだな

もしもあの宇宙船が
きみを助けにくる夢を
今夜見たならば
きみはいってしまうかい

この悲しき
宇宙ステーションを残して

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