(詩)草のバイオリン

草の調べ、草の演奏
微妙に震えかすかに泣いて
時にはピーンと張りつめて

とがった鋭い草の葉は
吹きすぎる風さえ切ってゆく

昔切った小指の傷を思い出す

微風、強風
嵐、竜巻

南風、北風
海風、砂まじりの風
雨まじりの風
タイフーン、ハリケーン

まだ止まらない
草の調べ、夢の調べ

一面の空と雲
長いふたつの耳を立て
一心に聴き入る影
いっぴき

草原のうさぎ
かじりかけのにんじん
地面にほうり

「これは
　ドボルザークですな」

悦に浸り恍惚に我を忘れ
目を閉じて
薄っすらと涙さえ浮かべ

風に吹かれる
いっぴきのうさぎ
今、こそ泥に
にんじんをとられても気付かない

「食べ物より芸術さ」

今鉄砲が胸貫いても
鼓動はしばらく
止まらないだろう
その音楽がとまるまで

草と風の交響楽

「これは生命いのちの音楽だ」

そんなうさぎを
どこかで誰か見かけたら
どうぞぼくに教えてください

昔草の葉で切った
小指を舐めてくれた
お返しに

ドボルザークのレコード一枚
草原に置いてゆこう
かじりかけのにんじんが
落ちていた場所に