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(詩)夜明け前のネカフェで

ここは新宿歌舞伎町
されど今はネオンも消えた大都会の闇の中
薄い壁のみで仕切られた店内のあちこちから
娘たちのいびきや寝息や愚痴が漏れて来る
中には男の名を呼ぶうわ言やすすり泣きも

そういうわたしも
日々デリヘルのバイトが命綱で
生きてゆくためだと割り切るしかない
昨夜は超変態おやじが相手で
体中べとべと舌で舐め回すから
死んだ方がましだと
吐きそうになりながら耐えた

ここはそんな命懸けで稼いだ金で
なんとか辿り着いたネカフェの一室


今はまだ夜明け前
なのに目が醒めてしまったら
もう上手く寝付けない
仕方ないから
ぼんやりと天井眺めていたら
不意に涙が込み上げて来た
生まれ育った安アパートの
あの天井を思い出したから

このまま朝まで
誰かのすすり泣き、聴いていよう
途方に暮れながら
ただじっと、震える膝
抱えながら、聴いていよう


ここは新宿歌舞伎町
ネオンも消えた大都会の闇の中の
ネカフェの一室
今はまだ、夜明け前
今はもう、夜明け前

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