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怒ったきみの顔が

じっときみの顔を見ている
きみもぼくの顔を見ている
きみは怒ったように
ぼくをにらみつけている

じっと、きみの顔を見ている

ゆうべ線路に落ちた人を
助けようとした二人の男性が
まきぞえになって
しまったそうだよ

そしたらたくさんの人がね
遺族に
香典や見舞金を渡したいと
申し出た、というんだよ

いつもは無関心に
都会の駅のホームに
突っ立っている人たちが

少年の頃
ぼくも夢見ていた
大きくなったら
困った人を助けてあげよう
そんな人になろうと
思っていたのに

いつのまにか
ぼくはこんなきたない
人間になってしまった
こんなにきたなく
なってしまったのに

それでも、こうやって
生きていた

そしてこんなぼくに
「好き」だと
言ってくれる人があらわれた
ずっともう人生なんて
どうでもいいと
思っていたのに

じっときみの顔を見ている
きみもぼくの顔を見ている
怒っていたきみの顔が
ふいに笑い出す

やさしく
なにかを許すように
しずかに
すべてをあきらめた

ぼくを許すように
そして

じっときみが
ぼくの顔を見ている

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