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(詩集)きみの夢に届くまで

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詩の数が多いので、厳選しました。っても多い?
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2022年4月の記事一覧

(詩)きみが星なら

きみが星なら 誰もいない駅のプラットホームで 終電車まで見上げている 何度も何度も大きく手を広げてさ この宇宙のどこかに きみのいる星がある きみが風なら 都会の人波にまぎれて 夜明けまで歩きたい ただぼんやりと 時より口笛吹いたりしてさ この星のどこかに きみの風が吹いている きみが海なら ぼくは名もない港になろう そして夜明け前打ち寄せる きみの涙にしずかに濡れよう いつまでも、いつまでも そしてきみのしおざい 聴いていよう

(詩)かげろう

みなさんは かげろうという虫を 知っていますか 小学校の先生が 理科の授業の途中に ふいに話し始めた 季節は夏の前の晴れた午後の たいくつな陽ざしの中で 昨日 ひとりのクラスメイトが 昨日 ぼくはぼんやりと 外を見ていた かげろうのいのちは とても短くて三日間しか 生きていられないのです かげろうという虫は 三日間しか、そう そう それが ぼくの隣の席のクラスメイトが 昨日突然いなくなって もう戻ってこないことと 何か関係があるとでも いいたいのだろうか ぼく

(詩)夢の樹

花びらが散ったあとの桜が それでも桜の木であるように 実もとうに落ちて 今は雪におおわれたりんごの木が それでもやっぱり りんごの木であるように めぐりくる季節の中で 昔あなたが 貧しい家の少年だった頃 あなたの勉強机の前の 窓から見えた あの一本の木は なんの木だったろう 名も知らない 名前があることさえ 知らなかったその木の枝に けれど毎年 夏にはせみがとまって鳴き 冬には雪が舞い降りた まだ少年だったあなたの耳に せみしぐれはやさしく まだ少年だったあな

(詩)抱擁あるいは横浜

まじめなやつはだめだなって ため息ついている間に 夜が明けたら ふらっと家を出て どこか遠くへ行きたいなぁと思いながら 行くあてもなく 始発電車が海岸線を通った時 ああ、船がいいなぁって 横浜で降りて それから一日中日が暮れるまで 桟橋で外国船を見ていた けれど勇気がなくて そのまま雑踏に紛れ 駅前の交番の灯りを見たら 帰りたくなった 少年の頃坊やはまじめでやさしい 男の人になるねって 近所のおばさんたちが言っていたけど まじめはだめなんだなぁって まじめなやつがう

(詩)スター誕生

少年が 夕暮れの空を見上げている 通行人が問いかける 何を見てるの 少年が答える しー もうすぐ星が生まれるよ

(詩)少女へ(歌)

この地球の片隅 未開の大地のかたすみに 歌うことの好きな一人の少女がいて 少女は夕ご飯の後 こっそりと家を抜け出し 近くの森に行って歌うのです 眠る動物たちや 風のざわめく森の木の葉や 幾種類もの大小様々な虫たち 鳥たちがいて 少し向こうには 荒涼と広がる砂漠があって 月の光にさらさらと 無数の砂の一粒たちが瞬いて みんな少女の歌を 聴いているのです けれど彼女の歌を 耳にすることができるのは 彼らだけ 彼らがレコード会社に 彼女を売り込んだり TVで宣伝したりはし

(詩)ダンボールの野良猫

木枯らしのダンボールにうずくまり 野良猫が眠っているのを 誰も気付かない ただ空地にダンボールがひとつ 転がっていると思うだけ この星空と凍りつく冬の荒野で ダンボールの野良猫が見ている夢は いつかわたしも見た覚えがある 待ち遠しい春のにおいのする夢 まだ土の中で眠る草の芽が見ている夢 海にとけた雪のかけらが ゆらゆら波をただよいながら また空に帰る日を夢見ている そんな夢とおんなじ 寒さに目を覚ました野良猫の 夜更けのダンボールにしみついた 涙のにおいを誰も知らない

(詩)夜明け前のネカフェで

ここは新宿歌舞伎町 されど今はネオンも消えた大都会の闇の中 薄い壁のみで仕切られた店内のあちこちから 娘たちのいびきや寝息や愚痴が漏れて来る 中には男の名を呼ぶうわ言やすすり泣きも そういうわたしも 日々デリヘルのバイトが命綱で 生きてゆくためだと割り切るしかない 昨夜は超変態おやじが相手で 体中べとべと舌で舐め回すから 死んだ方がましだと 吐きそうになりながら耐えた ここはそんな命懸けで稼いだ金で なんとか辿り着いたネカフェの一室 今はまだ夜明け前 なのに目が醒めてし

(詩)リンダあるいは

リンダあるいは どぶねずみみたいに 今夜はきみに 辿り着けない雨に打たれながら とぼとぼひとり街を歩いた 「どぶねずみみたいに・・」 口ずさみながら あれはリンダだったか マリアだったか、あの歌の きみのださい純和風のお名前とは 似ても似つかない いかした女の子の名前 アベ、マリア アベ、リンダ アベ、そして さいわいあれ、マリア さいわいあれ、リンダ さいわいあれ、そして どれだけ雨に打たれても それが降りしきる その雨のしずくが きみのいる街へと連れてゆく

(詩)林屋の紀ちゃんが

どうして林屋の紀ちゃんは ジョーとのことをあきらめて マンモス西と結婚したんだろう そんなことをふと想いながら ぼくはあなたのことを思い出していた あなたといたあの時代のことを 昔あんなに不幸だと思っていたことも 十年二十年歳月がたつと 今ではこんなになつかしくて どうして時が流れ去っただけで どうして人はおとなになると どうしてこんなになんでも 許せるようになるのだろう なにかをあきらめてしまうことも あきらめてゆく人のことも どうして人はいつも 幸福ばかりを望ん

(詩)銀河の雨が降る夜に

空き缶乗せたリヤカー曳いたおやじが 公園のベンチでしけもくに火を点け 青い空を見上げる頃 おれは息が詰まるネクタイ締めて ラッシュの電車の中に 閉じ込められている 人身事故かなんかで 電車が5分止まったくらいで いらいらしかめっ面で ぶつくさ言っている おれの遅れた分の給料どうしてくれる 重要な会議があるんだぞ 遅れたら責任とってくれるんだろうな、って 電車のドアに蹴りを入れる頃 リヤカーのおやじは せっせとごみ収集場で空き缶を探しながら そこに捨てられた子猫を見つけ 自

(詩)恋文

いつか わたしが生きた一瞬一瞬に 手紙を出すことができたなら 過ぎ去ったあの そのときどきの瞬間瞬間へと もう忘れ去った わたしのいた 確かにわたしがいた それぞれの場所へと いつか 手紙を書きたい ひと言だけ かきたい 「ありがとう」と いつも あきらめないでいてくれて ありがとう、と わたしから わたしへの恋文 泣き叫びながらでも もがきながらでも 生きることだけは やめないでいてくれた あの日のわたしへ いつか わたしが生きた 一瞬一瞬に 手紙を出すこ

(詩)うた

目を閉じれば 潮騒が聴こえる 目を閉じれば 山の静寂が聴こえる 目を閉じれば 風の音が聴こえる 目を閉じれば 河のせせらぎが 降りしきる 横殴りの雨の音が 降り積もる 雪たちのささやきが 目を閉じれば 花たちの笑い声が 虫たちの わんぱくないとなみが 目を閉じれば 遠い星たちから降り注ぐ 光のしずくが ぼくたちを包み込む音が聴こえる 真夜中目を閉じれば 売れないミュージシャンの歌が聴こえる 目を閉じれば 都会のざわめきが聴こえる 目を閉じれば きみの好き

(詩)片想い

想い浮かばなかった言葉 うたわなかった唇 想い出せなかった顔 忘れ去った後の海のしおざい 想い出せなかった顔 けっして忘れた おぼえはないはずなのに どうしても 想い出せなかった顔、微笑み その泣きそうだった微笑み 「だいすき」と 動かせなかった唇 「だいすき」と いくら想っていても 心の中で何度つぶやいてみても どれだけ「だいすき」だったか 自分でも気付かなかった心 女の子をデートに誘おうとする 瞬間にかぎっていつも ラブソングをうまく口ずさめない どんなにあなた