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(詩)銀河の雨が降る夜に

空き缶乗せたリヤカー曳いたおやじが
公園のベンチでしけもくに火を点け
青い空を見上げる頃

おれは息が詰まるネクタイ締めて
ラッシュの電車の中に
閉じ込められている
人身事故かなんかで
電車が5分止まったくらいで
いらいらしかめっ面で
ぶつくさ言っている
おれの遅れた分の給料どうしてくれる
重要な会議があるんだぞ
遅れたら責任とってくれるんだろうな、って
電車のドアに蹴りを入れる頃

リヤカーのおやじは
せっせとごみ収集場で空き缶を探しながら
そこに捨てられた子猫を見つけ
自分の食料、食べさせている
子猫がくたばってしまわないか
本気で心配している
泣きそうな顔して

(数行、空白が続く)

やがて巷に夜が訪れ
塾帰りの心を持たずに生まれてきたガキどもに
集団で殴られるのを
やっとの思いで逃げのびてから
血だらけの顔でそれでもなんとか守った
子猫の体温抱きしめながら

リヤカーのおやじが
しけもくに火を点けて
銀河を仰ぎ見る頃

おれはちかちかまぶしい
ネオンライトの放射能に曝されながら
ただきれいに着飾っただけの
おねえちゃんのケツを口説いている
リヤカーのおやじが汗だくで
血だらけになって命をかけた
一日分の稼ぎのその百万倍の金を
そして一晩で飲み屋のごみバケツに
騙し取られる頃

銀河の雨が
リヤカーのおやじの
血だらけのほっぺた洗い清めてゆく

うすよごれたネオン街を
血だらけの戦場を洗い流してゆく

リヤカーにはちゃんと
生きのびた子猫がかび臭い毛布に
くるまっている

あぁあ、家族が増えちまったな、と
うれしそうにリヤカーのおやじが
しけもくの煙を銀河へと吐き出す頃

おれは月7万も払って
子猫も飼えないマンションに帰る

雨にまじってどこからか聴こえてくる
リヤカー曳く音や
子猫の鳴き声をかき消すように

TVを点けて
そこに映し出されたニュースが
まだ作り話だと気付かないでいる
何の意味もないのだと
気付かないでいる

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