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泣くのは嫌だ、笑っちゃおう_過食だぬきの巻

過食に苛まれて久しい。冷静になると「ほんとなぁにやってんだ、わたし」と、情けなさに涙が出てくる。でも、じめじめとしていて状況が変わるわけでもなし。noteに書くなら笑えるようにアレンジできないものかしら。試みにやってみよう。

ということで、ここに1匹のタヌキを召喚することにする。

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このタヌキ、名をティティという。ティティは栄養状態の良いふくふくとしたタヌキである。立派なタヌキを目指しているのだけれど、立派なタヌキっていったいなんなのかイマイチよくわからない。でも、立派なタヌキにならなくちゃ。

ティティはもともとストレスにさらされると食べたくてしかたがなくなる傾向があった。そこにコロナ禍が起きた。会合も少なくなり、巣に篭ることが多くなって、さらにはティティが「立派なタヌキ」になるためクリアしなくちゃと思っているタヌキ試験の難易度が上がったことも重なり、ティティはより食べたい衝動に駆られることが多くなった。ざわつく心の中で「1日1日をそれで越えていけるなら、食べたらいいや」と捨て鉢に思う。

今日だって、ティティは雨の中だというのに往復40分もかけてとぼとぼとスーパーに買い物に出かけた。ティティは化けるのがそんなに得意ではないからあまりスーパーに行かないようにしていたけれど、我慢ができなかったのだ。

地味な中年女性の姿に化け、ポテトチップス2袋(計203g)、ビアソーセージ1本、チョコレートアイス1本、チョコレートクロワッサン1つ、モッツァレラチーズ1つを購入した。がま口が軽くなる。これらのものをティティは1時間もかけずペロリと平らげてしまった。朝食に近所のお弁当屋さんから拝借してきたパスタを食べていたのに、なお、である。

それだけ食べたら満足しそうなものだけど、結局満たしたいのは空腹ではないから、満足感は長続きしない。ティティが満たしているのは虚無感であった。

ぼんやり食後の毛繕いをしながら、ティティはため息をついた。自分のぽんぽこなお腹に向かって「君はすくすくと育っていくねぇ」と呟いた。

とりあえず虚無感を満たしたティティは、カップラーメンを見えるところに置いて丸まった。さらに食べたいという欲求に襲われたときに何も食べるものがないと不安で、さっきポテチなどと一緒に買っておいたのだ。控えには、すぐ食べられるものだと一気に食べてしまうから、お湯を沸かすという一手間が必要なものを用意しておく。それがティティの常だった。

買いだめは基本的にできない。食べ尽くしてしまうから。食べ切って袋や箱が空になると、小さな、まやかしの達成感を得られる。それでもいい、達成感が欲しいから食べ始めたら止まらない。ティティはここ数年、心からの達成感というものを感じたことがなかった。

過食の時、もうひとつ問題になるのが、食べながら歩いてしまうことだ。これは化けの皮が剥がれてしまいかねないので危険なことなのだけど、ティティは不安で、食べ物を手に入れたとたん口にしたくてたまらなくなる。家まで待てない。

冷静な部分では格好悪いことだ、お母様が見たら何と言うか、立派なタヌキと程遠い行為だわ、と恥じる気持ちはあるのだが、我慢ができない。そんな自分をよく知っているから、ティティの背中は普段から丸くなりがちだ。

ただ、ティティにも冷静な時期はある。その時期、ティティは過食期の自分を反省し、また、電卓片手に家計簿をつけたりもする。人間世界に潜り込んで暮らしているから、タヌキなりにお金は重要なのだ。

ティティはレシートを日付順に並べて、カタカタと電卓を叩いた。1ヶ月の過食費は先月は6千円、先々月は1万円にものぼっている。これだけあったら、ティティの好きな水族館の年間パスポートも買えるし、数ヶ月貯めれば海も見に行けそうだ。ティティは山育ちで、海にものすごく興味があった。しょっぱくってどんな大きな池より大きいと聞いているけど、実際はどうなんだろう。家計簿を睨みながら、「お腹をぽんぽこさせている場合ではない」と思うのだが、過食期に入ると食べたいという衝動を打ち負かすことはできない。ほんと、どうしたものかしら。

ティティは夢みる。いつか、とても仲良しの小鳥さんがあらわれて、ずうっと自分の隣にいてくれることを。

「ティティ、その不安感は、この課題をほんの1ページだけでいい、やってみたら薄れるかもよ?」

「ティティ、どうしても食べたいのなら、予算300円で探してみようか。一緒においしいもの見つけよう」

「今日は100kcalまででおやつを探してみようか、ティティ」

「ティティ、走りに行こうよ、きっと食べたい気持ちもなくなるよ」

「よくがんばったね、ティティ。その調子」

そんな風に自分と伴走してくれる小鳥さんと仲良くなれないかなぁ。でも、自分に四六時中付き合わせるのは悪いから、ロボットの小鳥さんがいいな。お手入れしてピカピカにして、大事に大事にする。

ティティはロボット研究所にお手紙を書くことにした。

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う〜ん、笑えるような話にはならなかったけれど、ちょっと客観視はできたような気がする。よくわかんないけど、ティティは現状に満足することから始めたらいいかもしれない。中身がなんなのかもわからない「立派なタヌキ」にならなくてもいいならば、気楽になれるかも。そうすれば、ストレスが減って過食の波に飲まれることも少なくなるかも。

いや、それにしても、伴走してくれるロボットの小鳥さん、切実にお招きしたいなぁ。

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