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vol.05 未来にはこんなことが待っているかも?!スペキュラティブ・デザインってなに?

今回は私が好きなデザイン論のひとつ、Speculative design (スペキュラティブ・デザイン) についてお話します。

この用語を初めて知ったのが大学生の頃で

「ス、スペ、スペキュラ...?」

カクカクしたカタカナが並んで噛んでしまいそうで(今も噛みそうになります。笑)意味もなんだか難しそうだと思いませんか?

でもスペキュラティブ・デザインを知れば知るほど、
「こんな未来が待ってるの?! ありえるのかもしれない!」
と興味を持ち始めました。

今まで考えたことのないアイディアに触れることが楽しくて、
そしたらいつの間にか関連資料を読み漁る学生生活を送っていました。

なので今回は「スペキュラティブ」という単語だけでも
みなさんに覚えていただけたらなと思い、このテーマを選びました。

よかったらぜひ最後まで読んでください!


1.1 スペキュラティブ・デザインってなに?

Speculative (スペキュラティブ)、聞き慣れない単語ですが、
日本語にすると「思索・推測」という意味になります。

スペキュラティブ・デザインは「もし、こんな未来が起きたら?」と問題提起し、私たちに未来について考えるきっかけを作るデザインのことです。

1.2 スペキュラティブ・デザインってデザインなの?アートなの?

みなさんは「デザイン」と「アート」の違いはなんだと思いますか?
それぞれをひとことで言うと、

・デザイン:問題を解決するもの
・アート :問題を提起するもの
*アートのジャンルによって違う意味もあるのですが、いったんそれは置いておきます!


これを読んで、


「ん?」


と思った方もいらっしゃるかもしれません。

いま、スペキュラティブ・デザインは問題を提起するものだと書きました。
なのに今度はデザインは問題を解決するものだと...?

「矛盾してるじゃん!」とツッコミたくなりますよね。

私も学生時代、このことについて勉強したのですが、今でも混乱します。笑
頭の中が「?」でいっぱいになることも。

一体どういうことなのか?
この投稿のためにもう一度復習をしたので一緒に読み解いていきましょう!

先ほど書いた通り、本来デザインは問題を解決するために制作されます。
例えば、従来の電気のスイッチは押すのに力が必要なため、子供や高齢者にとって押しにくいことが課題でした。そこで大きめのスイッチがデザインされ、誰でも簡単に押せるようになりました。

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従来の電気のスイッチ

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新しくデザインされた電気のスイッチ

*このように人種・障害の有無に関わらず、老若男女だれでも使いやすいデザインを考案し、問題解決することを「ユニバーサルデザイン」といいます。

それに対して、スペキュラティブ・デザインは問題を解決するのではなく、
「もしもこれが実現したら、未来はどうなるのだろう?」と問いを投げかけます。

...ということは、スペキュラティブ・デザインって「デザイン」と言っているけど問題提起をする「アート」なんじゃない?

ともう一回ツッコミたくなります。

「スペキュラティブ・デザイン」と「アート」はどう違うのか....。

これを読み解くには、スペキュラティブ・デザインの大切な要素の一つである「未来」について考えると分かるのかもしれません。

1.3 4つの未来が鍵を握る?!

「未来」と言われても、漠然としていて想像し辛いと思います。そこで、4種類の未来が書かれている「PPPP図」を参考に考えてみましょう。

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「PPPP図」
アンソニー・ダン&フィオナ・レイビー『スペキュラティヴ・デザイン』

1. Possible futures(起こるかもしれない未来)
2. Plausible futures(起こってもおかしくない未来)
3. Probable futures (起こりそうな未来)
4. Preferable futures(起こってほしい未来)

*キーワードが全て「P」から始まるので「PPPP図」と言われています。
*一番左に書かれているPresentは「現在」という意味です。

スペキュラティブ・デザインの提唱者である、アンソニー・ダンとフィオナ・レイビーは 4.Preferable futures (起こってほしい未来) に注目すべきだと言っています。

PPPP図を見ると「4.起こってほしい未来」は、2と3の「近い将来、実現するかも?」という未来と重なっています。

このことから、スペキュラティブ・デザインは

起こってほしいという私たちの願い

・近い将来、実現するかもしれない現実味を帯びた未来

この2つの要素が含まれていることが重要だと思います。

一方アートは、スペキュラティブ・デザインのように問題提起をしますが、現実性を求めるかと言うと、作品によりけりだと思います。そこがスペキュラティブ・デザインとの違いなのかもしれません。

スペキュラティブ・デザインって作品が提案する「もしも...?」と
それに対する私たちの「もしも...?」を比べることが面白いと思うんです。
例えば、ドラえもんの「もしもボックス」のような体験ができるかもしれない!と思うとワクワクしませんか?

では実際にどんな作品があるのか一緒に見ていきましょう!

2.1 それで、スペキュラティブ・デザインってどんなものがあるの?

今から2つの作品を見て、作家と私たちの「もしも...?」を比べてみましょう。

2.2 長谷川 愛《(不)可能な子供、01:朝子とモリガの場合》2015年
2.3 アナブ・ジェイン《Wi-Fi無料開放》2005年

2.2 長谷川 愛《(不)可能な子供、01:朝子とモリガの場合》2015年


前回の記事で紹介した長谷川愛さんの《(不)可能な子供、01:朝子とモリガの場合》という作品は、同性カップルから子供が生まれたら?と投げかけています。

前回の記事:「Art + Design = !?」 vol.03 同性カップルの間に子供が誕生するとしたら?

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長谷川 愛
《(不)可能な子供、01:朝子とモリガの場合》
2015年
©Ai Hasegawa

一見、夢物語のように聞こえますが、この作品は科学的根拠を元に制作されたため、現実性があるのかもしれません。近い将来、実現したら?と私たちに考えるきっかけを与えています。

この作品をみたとき、もちろん論理的な問題も考えていく必要があります。
でも、もしこの未来が訪れたら、同性カップルにとって色んな選択肢が広がるんだろうなと思いました。


2.3 アナブ・ジェイン《Wi-Fi無料開放》 2005年

デザインスタジオ、Superfluxの共同設立者であるアナブ・ジェインは2005年にWi-FIを無料で開放する《Wi-Fi無料開放》というプロジェクトを行いました。

ジェインの家のWi-Fiが壊れ、パスワードがかけられなくなったWi-FIを周りの住人たちに回線を盗まれてしまいました。その結果、Wi-Fiの回線速度が遅くなり困っていましたが、ジェインは逆転の発想を思いつきます。

"隣人がオンラインになると、自分のiTunesのプレイリストの名称を『この回線代払うつもりある?』と変えてみたりして彼らを追い払っていました。ただそのうち彼らをネット回線泥棒として扱うのではなく、逆転の発想で、街にWi-Fiを無料開放してみたらどうなるか、と思いついたのです"。

引用元:WIRED, 2015, 「 デザインの使命は「問い」を生み出すこと:Superfluxの「スペキュラティヴ・デザイン」とは」, <https://wired.jp/2015/03/16/superflux/>


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アナブ・ジェイン
《Wi-Fi無料開放》
2005年

ジェインは家の前に「Wi-Fi無料開放中」と書かれた看板と黄色い椅子を置きました。すると徐々ににWi-Fiを使用する人たちが現れました。なかには、椅子に座って長時間作業する人もいたそうです。

今ではカフェやバスの中など、無料でWi-Fiを提供することが当たり前になってきていますが、このプロジェクトは15年前に行われています。当時、Wi-Fiを公共の場で開放することが物珍しかったので周囲の人々はとても驚いたのかなと思います。

もし2005年に私がジェインの家の前を通りかかったら、斬新なアイディアすぎて少し怪しいなと思いそうです。当時はWi-Fiという存在もよく分かっていなかったので、むしろ余計に怪しむと思います。
(でも「無料」という言葉に惹かれて、椅子の前をうろうろ歩く自分の姿が想像できます。笑)

当時のみなさんだったらどうしますか?
Wi-Fiを使ってみるのか、それとも様子を伺うのか...?
さまざまなリアクションが見れそうですね。

3   まとめ

スペキュラティブ・デザインをひとことで言うと、
ちょっと先の実現しそうな未来を覗くためのデザイン
なんだと思います。

今回、スペキュラティブ・デザインについてざっくりと書いてみましたが、いかがでしたか?

この記事を書いていて、改めてスペキュラティブ・デザインが好きなんだなと思いました。

もうすぐノンフィクションになる?!デザインに触れると、少し先の未来を覗く感じがしてワクワクが止まりません!

みなさんにもそのワクワク感が伝わりますように!

スペキュラティブ・デザインについて詳しく知りたい方は、
このデザイン論を唱えたアンソニーとフィオナ著者の「スペキュラティヴ・デザイン 問題解決から、問題提起へ。」という書籍がおすすめです。

手軽にさらっと知りたい方は、アンソニーが作品を紹介しながら説明している動画があるのでぜひ観てください!


引用元:
Ai Hasegawa, 2015, 「 (IM)POSSIBLE BABY, CASE 01: ASAKO & MORIGA」,
<https://aihasegawa.info/impossible-baby-case-01-asako-moriga>

Salt, 2018, 「スペキュラティブ・デザインとアート思考、デザイン思考」
<http://www.saltad.co.jp/design/speculative-design/>

Superflux, 「YELLOW CHAIR STORIES」, <https://superflux.in/index.php/work/yellow-chair-stories/#>

Thomas Wagner, 2017, Global Design Futures, 「What if...Speculative Everything」, <https://medium.com/global-design-futures/what-if-699af21053da>

WIRED, 2015, 「 デザインの使命は「問い」を生み出すこと:Superfluxの「スペキュラティヴ・デザイン」とは」, <https://wired.jp/2015/03/16/superflux/>


参考文献:
Ai Hasegawa, 2015, 「 (IM)POSSIBLE BABY, CASE 01: ASAKO & MORIGA」,
<https://aihasegawa.info/impossible-baby-case-01-asako-moriga>

DUNNE & RABY, <http://dunneandraby.co.uk/content/projects>

livedoorNEWS, 2015, 「デザインの使命は「問い」を生み出すこと:Superfluxの「スペキュラティヴ・デザイン」とは」, <https://news.livedoor.com/article/detail/9895357/>

Superflux, 「YELLOW CHAIR STORIES」, <https://superflux.in/index.php/work/yellow-chair-stories/#>
The MIT PRESS, 「Speculative Everything」, <https://mitpress.mit.edu/books/speculative-everything>

WIRED, 2015, 「 デザインの使命は「問い」を生み出すこと:Superfluxの「スペキュラティヴ・デザイン」とは」,<https://wired.jp/2015/03/16/superflux/>


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