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vol.03 同性カップルの間に子供が誕生するとしたら?

今日はアーティスト、長谷川 愛さんの《(不)可能な子供、01:朝子とモリガの場合》(2015年)という作品をご紹介します。


1. 同性カップルの間に子供が誕生するとしたら?《(不)可能な子供、01:朝子とモリガの場合》


同性カップルの間に子供が誕生するとしたらー。
長谷川 愛さんの《(不)可能な子供、01:朝子とモリガの場合》(2015年)はそんな夢物語が現実に起こるかもしれないと提案しています。

この作品は、実在する同性カップルの遺伝子を採取し、彼女たちの子供(まめ子・ぽわ子)をシュミレーションするプロジェクトです。DNA情報をもとに子供たちの身体の特徴、食の好みや性格などを予測し、家族写真を制作しています。

まめ子はパクチーを石鹸の味に感じるDNAを持っているので、パクチーの匂いを嗅ぎ、顔をしかめています。しかし親である牧村朝子さんは、子供たちには好き嫌いせず食べてほしいという思いから、まめ子に食べるように促しているそうです。写真を見ていると、親子の会話が聞こえてきそうで微笑ましいです。

2.  近い将来、実現できるかもしれない。その理由とは?


なぜ同性カップルの間に子供が生まれることがフィクションに留まらないのかというと、技術的に実現できる日がそう遠くないからです。

2003年には二母性のマウス(2匹のメスの遺伝子から誕生したマウス)「かぐや」が誕生し、2015年にはiPS細胞から生殖細胞をつくれるかもしれないと研究発表がありました。つまり、女性の身体から精子を、男性の身体から卵子をつくることが可能になる日が近づいています。

3. 夢と現実、そして未来。


マウスではこの実験が少しずつ成功していますが、人間の体で実現できるまでには時間がかかるそうです。このプロジェクトでDNAを提供した牧村朝子さんは子供たち(まめ子・ぽわ子)に向け、このように語りかけています。

“最初に、謝ります。
へんてこな名前をつけてごめんね。

本当は、あなたたちの名前、もっと真剣に考えてつけたかった。でも、現実に存在しそうな名前をつけてしまったら、きっと耐えられなくなるだろうと思ったんです。

あなたたちが、本当は存在しないんだ、ってことに。
あなたたちは、ここに生まれた私の子どもではなく、アーティストの発想が生んだ芸術作品にすぎないんだ、ってことに……。”

引用元:
Ai Hasegawa, 2015, 「 (IM)POSSIBLE BABY, CASE 01: ASAKO & MORIGA」,
<https://aihasegawa.info/impossible-baby-case-01-asako-moriga>

子どもを授かるという夢と今は叶わない現実を一緒に突きつけられた感覚になったのかと思うと、切ない気持ちでいっぱいになります。

《(不)可能な子供》

現時点では「不」可能な子供ですが、いつか実現「可能」になる日を願い、この作品名になったのかもしれません。私は、このひと工夫された作品名が好きです。

もしこの技術が実現したら、人権など倫理的な問題に直面すると思います。しかしそれと同時に、この技術を待ちに待った人たちもいるんだろうなとも思います。

実証された研究をもとに制作された作品は、夢物語を見ながら現実に近づいている、そんな不思議な感覚を覚えます。
もし同性カップルの間に子供が生まれるのだとしたら...
一人一人の幸せのかたちは何だろうと考えるきっかけになりました。

このように「まだ実現されてはいないけれど、近い将来こんなことができるかもしれない。」と社会に問題提起をするデザインのことを「スペキュラティブ・デザイン」といいます。私は、このスペキュラティブ・デザインという概念に出会ったとき衝撃的でもあり、ワクワクもしました。

SFのように完全なるフィクションではなく、私たちの生活で起こるかもしれないと考えると胸が高鳴ります。リアル・ドラえもんの道具だなと。スペキュラティブ・デザインについては次回、お話できればと思います。


参考文献:
Ai Hasegawa, 2015, 「 (IM)POSSIBLE BABY, CASE 01: ASAKO & MORIGA」,
<https://aihasegawa.info/impossible-baby-case-01-asako-moriga>

京都大学, 2015, 「ヒトiPS細胞からのヒト始原生殖細胞の誘導」,
<https://www.kyoto-u.ac.jp/ja/research/research_results/2015/150717_1.html>

林 克彦, 2018, 「生殖細胞を体外培養で作る—in vitro gametogenesis—」, 533-538頁, 公益社団法人日本生化学会.
<https://seikagaku.jbsoc.or.jp/10.14952/SEIKAGAKU.2018.900533/data/index.html><

東京農業大学, 2020, 「講演会二母性マウス「かぐや」の誕生」,
<https://www.nodai.ac.jp/campus/facilities/syokutonou/news/article/24228/>



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