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【随筆】ハインライン『夏への扉』を読みながら、垣間見えたこのハードボイルド感、僕は『初秋』を思い出した。

先週もこんな感じで、太田光『笑って人類!』を読みながら大槻ケンヂの『グミチョコ』を思い出したという記事を書いたが、今回もそれに近い。

それなりに読書をしていると、こういう経験ができるようになったことは、とても嬉しい。

こんなこと書いても、それは「あなたの感想」「あなたの思い込み」なんて言う人もいるだろうが、構わない。そうだよ、僕の、僕だけの感想だ。

羨ましいでしょ。
前に話したけど、リベラルアーツのひとつとして読書をあげたが、まさに、こんな時に報われたと思う。たしかにそれなりに時間はかかったが、読んできた本をひとつの情報のパッケージ化として整理できて、もっとシンプルに、かつ凝縮して言いたいことをそれをもってキャッチボールができるようになると思う。たしかに、それは相手も選ぶが、それができたらかなり幸せだと思う。って、ピンときませんかね?汗

「猫なんかいないぜ」
 こんどは、男はかがみこんでテーブルの下を覗いた。
「そのボストンバックの中に隠したんだ」と彼は詰問した。
「このバックに? 猫をか?」ぼくはさも驚いたという顔をしてみせた。「これはまた、いきなり現れたと思えば、なかなか辛辣なことを申されるな、お主は」
「ええ? 妙な言葉を使ってごまかそうったってだめだ。あんたは確かに猫をそのボストンバックに隠した。あけて見せてもらおうか」
「捜査令状はあるか」
「なんだって? ばかいいなさんな」
「ばかいっているのはそっちじゃないか。捜査令状もなく他人の鞄の中身を見せろっていってるんだよ、きみは。修正第4条を知らないのか。しかも戦争が終わってなん年にもなるんだぜ。さて話がわかったら、ウェイター君にに、さっきの注文とおなじものを持ってくるようにいいつけてくれ。でなきゃ、きみ自身が持ってくるか」
 出納係は感情を害したようだった。「お客さん、べつにあんたに恨みがあるわけじゃないが、それならこっちにも考えがありますぜ、あの壁にちゃんと出てるんだーー”犬猫お断り”とね。こっちは、衛生第一の経営方針をとっているんだから」
「それにしちゃ、衛生状態は貧弱だな」ぼくはいいながらグラスを取りあげてみせた。
「口紅の跡が見えるだろう? 客のことをとやかくいう前に、まず店の皿洗いの監督ぐらいは念入りにしてもらいたいな」
「あたしには口紅なんか見えないぞ」
「ぼくがおおかた拭きとったんだよ。そんなら、これを保健所へ持っていって精密検査をしてもらおうじゃないか」
 男は溜息をついた。「あんたは保健所のひとか?」
「いいや」
「それなら引き分けとしよう。あたしはあんたの鞄を調べない、あんたはあたしを保健所へ連れていかない、と。酒がほしければスタンドへ来て飲みな……あたしがおごる。とにかくここじゃ困るんだ」彼はいいおわると、くるりと振りむいて、もと来たほうへ戻りはじめた。
 ぼくは肩をしゃくった。「どっちみち、もう行くところだったんだ」
 ぼくがレジスターの前を通って外に出ようとすると、出納係がひょいと顔をあげた。
「悪く思わんでください」
「うんにゃ。そのかわり、あとで馬と飲みにくるよ。いまは忙しくてだめだがね」

ロバート・A・ハインライン『夏への扉』抜粋

これ! ハードボイルドじゃない! ここを読んで、『初秋』を思い出した。

 今日も、いつものとおりの流れになった。
「なあ、もう今日は終わろうぜ」僕はそう言った。すると「何言っているんだよ、ぜんぜん終われねえよ」と、本当に驚いたみたいに、松村は言った。
「今日は、もういいんじゃないのかな。松村も、いったい何を熱くなっているんだよ」
 神社はタバコを吹かし、松村に応えた。
「まあまあ、抑えて、あと1回、泣きの1回くらいいいじゃねえか。今日は松村が負けているんだ。聞いてやろうじゃないか」
 西園はいつものとおりだった。
「ゾノさん、ありがとうよ。まあまあブル、神社、あと1回きりだ。泣いても笑っても、だよ。頼むよ。このままじゃ眠れねえ」
 いつの間にか朝の鳥が鳴いて、もう朝方であることがわかった。これがお開きになれば、短い時間だが、死んだように寝る。起きられる自信がまるでない。3人には言っていなかったが、用事があった。でもどこかで、別にいいかもとは思っていた。
 これまでの疲れが吹っ飛んだのかと思うくらい、また今日の負け頭だということを忘れたみたいに、松村は生き生きしている。こういう男だ。そして、僕も神社も知っていた。次は松村が勝つことを。もちろん、西園も知っていた。だけど、言わない。しかも大勝ちだ。2回か3回分の負けをチャラにするような、そんな大トップだ。
 でも、これでいい。僕は思った。そして神社も、西園も、きっとそう思っただろう。小さく笑った。
 で、結局、松村が大トップをとって、げらげらと大笑いをした。
 やっぱり。
 思ったのは僕だけじゃなかったはずだ。
 とにかく松村が強いのなんの。そうだった、……そうだったな。
 お開きになって、案の定、僕は本当に死んだように寝た。夕方、携帯には3件の着信と「バカ」という短いメールが入っているのを見た。それに僕は返信もしないで、いつものみんなに「集合」とメールした。
 後日、その時の女と別れた。名前は忘れた。と言った方がカッコいいと思ったが、顔も、名前もしっかり覚えている。僕は本当にバカだった思うよ。掛け値なしにね。あの子、こんな大バカ野郎にむかついただろう。それなのにわずか3件の着信だ。僕なら10回はしている。30回かもしれない。よく知る前に別れたけど、きっと人間ができた、いい女だったのだろう。僕にはもったいないくらいだった。
 
 はっと目が覚めた。というより、何かの前兆でも察したような感があった。誰かが唸っている。誰かわからなかった。
「ダマかあ、あっ、いくら? 7700点! 痛えな……」
 声でわかった、神社だ! でも、まさか寝言でここまで話すとは驚きだった。それにしても唸っていた。その言葉から察する場面は、神社が振り込んだことは明らかであった。これ、聞いたのは僕だけじゃなかった、残りの2人もそうで、こういう時、とたんに元気になる。
「おいおい、神社が夢で麻雀してるぞ、しかも振り込んだ」
「まじか!」
「ウケるな。まあ、ダマだしな。仕方ねえな」
「冷静か!」
 今日も、気がつけば雑魚寝だった。毎度のことだが落ちるように眠るから、悪い。身体が痛い。いつものとおり、ここは僕の部屋だ。神社の寝言に、つっこみを入れたのが西園で、ついで松村、冷静に答えたのは僕だ。それに松村がさっきと同じように短くつっこんだ。 
 まだ、神社はすやすやと眠っている。次はなんて言うんだろうなんて期待したが、その日、次はなかった。
 いつも雑魚寝ということはなかったが、この頃、バカじゃねえかと言われるくらいに麻雀ばかりしていた。起きている時は、ほとんど麻雀していた。飯の時は、その反省と振り返りをしていたぐらいで、僕たちは実直だった。いつも同じ面子で、飽きもせずにだ。でも、本当に楽しかった。
 ほんとの、本当に。

青村春文『初秋』より抜粋

あれ?ハードボイドじゃなくない汗 青春小説みたいだね。
おっと間違えた。『初秋』違いだった。抜粋したのは、僕が2年前に書いた小説の方だったww 懐かしい、この小説も愛着がある。僕が大学生の頃、ともだちと、馬鹿みたいに麻雀ばっかりしていたことをモデルにして書いたものだった。青春を書いている時は、ほんとうに楽しいよね。

本物はこっち、
ハードボイルド小説だ。1980年の本。

この本に辿り着いた経緯は、

村上春樹が好き→村上龍も読まねば『限りなく透明に近いブルー』あれは、衝撃だった。で、そこから彼のエッセイ『すべての男は消耗品である』を読んで、このVol.2かどちらかで「ロバート・B・パーカー」の『初秋』について書かれてあった。そこに、四の五の言わずに読みなさい的なことが書いてあった。

で、読んだ。4年前くらいだ。本とは、こういう出会い方がある。
数多ある小説の中からこの本に出合えたことは幸せだった。
これは、スペンサーシリーズの中で特に人気作らしい。主人公スペンサーは探偵で、たしか本作は、ある夏に、少年と過ごして、なんかオラオラ鍛えてあげまっせ、みたいな話だったような……内容もよかったが、僕にとってのはじめてハードボイルドだった。カッコよかった。

さすがにうる覚え過ぎたww カンニングする。裏表紙を引用しよう。

離婚した夫が連れ去った息子を取り戻してほしいーースペンサーにとっては簡単な仕事だった。が、問題の少年ポールは、対立する両親の間で駆け引きの材料に使われ固く心を閉ざし何事にも関心を示そうしなかった。スペンサーは決心する。ポールを自立させるためには、一からすべてを学ばせるしかない。ボクシング、大工仕事…………スペンサー流のトレーニングが始まる。ハードボイルの心を新たな局面で感動的に描く傑作!

ロバート・B・パーカー『初秋』裏表紙より

で、冒頭に戻るが『夏への扉』を読みながら、僕は『初秋』で読んだカッコいいハードボイルド感を思い出したのだ。

ついでに読書記録を探った。『初秋』を読んだ後、あっ!

そうだったそうだった。その次には大沢在昌の『新宿鮫』を読んだ。小説の幅を感じた。まだまだ楽しい小説は山ほどあることを知った。これで〆る。

と、明日記事にするが、『夏への扉』は1957年だった。じゃあ、初秋の方があとやん! というか、『夏への扉』は1957年なん! という驚きが勝る。

最後まで読んでくれてありがとうございます。
また次の記事も読んでくれたら嬉しい(過去記事も)。それではまた明日!

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