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三軒目のBARで

女たちにとって、バーの照明は重要だった。
一軒目、二軒目と羽目を外してたどり着いたこの三軒目のバーは、酒はまずいが照明が良い。夜も更けて、言葉と化粧の崩れかけた三人の女たちが、このバーの照明に助けられながらウイスキーを舐めている。
noterである三人の女たちは、厳しい目の乾きに何度も目薬をさしながら、同時に山根あきらさんの以下の記事を読んで、口々に意見を述べ始めた。


怜「そもそもがさ、復讐なんて企てるやつらは暇なのよ」

桜「そう?そんなことないと思うよ。その裏によっぽどの事情があれば企てるくらいはするんじゃない?」

愛「この話はね、裏の事情まで考えてたら一生終わらないの。この記事に書かれていることだけで話し合ってみてよ。すみませーん」

太い二の腕を揺らしながらマスターに三人分の水を要求した愛という女は、女たちの中で一番酒に強そうに見える。

怜「Bさんってさ、Aさんからの誘いを一度は断ったものの、お願いされて承諾したじゃない。だから何か忖度してるよね、Aさんに」

桜「確かに、二人の関係は上下関係、もしくは力関係がありそうよね」

愛「そんな情報はどこにもないけどね。そういう印象はあるかも」

マスターから受け取った水を二人に回しながら、愛は馴染みのマスターに片目を瞑ってみせた。

怜「Aさんは自分がしたい復讐と、他人がしたい復讐は別に考えてる。当たり前のことよね?それはそれ、これはこれっていうはっきりタイプ。ある意味、自分に正直なの。だから、Bさんの復讐は私には関係ないって、誘いをはっきり断ったのよ」

桜「Bさんって、なんだか気の毒。Aさんに言いくるめられて、利用されたのに、自分は何の主張も受け入れてもらえなかったのよ」

桜は眠そうに瞬きをしている。

怜「Bさんは人を見る目がないのよ。ついでに言うと、大した信念もない」

愛「人間関係ってさ、その時々にする『選択』の中に存在するよね。その都度選択をして、選んだ先にいる相手と行動を共にしたりする。そこに相手に対する大層な想いがなくても結びつきやすい。そこにいる中から仕方なく選んでいくのよ」

怜「仕方なくって……ウケるんだけど」

愛「だから、最初のAさんの復讐では成り立った関係が、Bさんの復讐のときには二人が選択した先が違っていた、というだけのことよね」

桜「淡白に聞こえるけど、実際にはそうだもんね。ほら、私たちは今は三人だけど、元々は彩を入れた仲良し四人組だったじゃない?彩だけは家庭を持ってお子さんも生まれて……」

愛「いつの間にか疎遠になったわね。嫌いになったわけじゃないのに」

怜「仕方ないのよ。例えばここに彼女を誘ったって、彩はもう楽しめない。私たちが仕事の話や男の話に盛り上がっているのに、ついてこられるわけないんだから」

桜「状況って人との関係に大きく影響するのよね。この中の誰かが結婚したら、その人はまた彩と繋がる日が来るのかもね」

愛「ちょっと待って。私たち山根さんの記事からだいぶ離れた会話になっていない?」

あははと笑い合う女たち。その直後、怜は大きなあくびをした。

怜「結局、なんだっていうの?もう眠くて私は考えられない」

桜「復讐は良くないってこと?そういう問いではないよね?」

愛「こういうのってさ、細かい裏事情知らないと判断できないってなりがちだけど、結局、AさんもBさんも復讐するタイプかぁと思ったら私はどちらとも関わりたくないわね」

怜「まあね」

桜「じゃあさ、この中で私が最初に結婚しても、怒らないでね?」

愛「なんの話よ」

三人から交互に漏れるあくびを聞き、そろそろタクシーを呼ぶ頃か、とマスターは思った。
女たちの方に視線を送る。三人の中で唯一、愛もマスターを見ていた。二人の視線は意味ありげに絡み合った。




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