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CO2が出ないアンモニア燃料は魔法か?

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今回は、三菱がアンモニアを燃料にする発電タービンを開発したというニュースです。これによりCO2削減につながるという。

#日経COMEMO #NIKKEI

最初このニュースを聞いたときの感想。アンモニアって燃料になるんだ。理由はよく分からんけどCO2の削減になるなら素晴らしい魔法のような技術だね。これでCO2の問題は解決していくのかなぁ。

恥ずかしながら今まではそのくらいで思考停止でした💦

このままではまずいと思ったので(参照:自分の意見がないのをどうにかしたい)せめて何でCO2削減になるかぐらい調べようと思ったのでした。

アンモニア燃焼の利点

・アンモニアは燃焼させてもCO2が排出されないCO2フリー燃料である
・アンモニアは既に化学肥料として流通しており、既存の輸送・貯蔵技術が使えるため新たなインフラの設備が必要ない

などが挙げられます。これらについて考察してみます。

アンモニア燃料はCO2が出ないのか

アンモニアを燃焼させたときの化学式は以下。

2NH3 + 1.5O2 → N2 + 3H2O

たしかにこの化学式だけ見ればアンモニアはCO2を排出しない魔法のような燃料だと言えます。

ところがそう単純でもないのです。そもそもアンモニアを作ること自体にたくさんのエネルギーが必要となるからです。

アンモニア生成にエネルギーが必要

それではアンモニアの生成過程を化学式で見てみましょう。

3H2 + N2 → 2NH3

これはハーバー・ボッシュ法と呼ばれます。はるか昔受験勉強で覚えたような、、

実はこのハーバー・ボッシュ法、高温高圧の状態で触媒(反応が良く進むように働きかける物質)と反応させなければいけません。

つまり高熱高圧にするためのエネルギーが必要となります。

アンモニア原料の生成にもエネルギーが必要

またアンモニアを作るための原料である水素や窒素の生成にもたくさんのエネルギーが必要となります。

例えば原料である窒素は空気から分離できるのですが、その際に空気を圧縮し冷却しなければならず、そのためのエネルギーが必要となります[1]。

水素についても、例えば水を電気分解して水素を得る場合には、その名の通り電気が必要となります。

さらに、現在水素は主に天然ガスや化石燃料から生成されており[2]、例えば天然ガスから水素を生成する場合にはCO2が発生してしまうのです[3]。化学式は以下。

CH4 + H2O → 3H2 + CO
CO + H2O → H2 + CO2

化石燃料から水素を生成した場合も同様にCO2が発生します。

つまり簡単に言うと、アンモニアの原料を作るのにも原料からアンモニアを作るのにも、エネルギーが必要だったりCO2が発生するってことです。そのエネルギーも既存の火力発電で賄うのであれば、見掛け倒しのCO2フリー燃料ということになると思いました。

CO2は出ないけど他の大気汚染物質は出る

実はアンモニアを燃焼させた際に窒素酸化物も少量生成されてしまいます。この窒素酸化物は大気汚染の原因ともなる物質です。

こちらについては既存の技術で窒素酸化物を回収することができるようですが、「アンモニアを燃焼=環境に良い」と手放しに言うことは間違いだと言えます。

既存の設備だけでアンモニアをCO2フリー燃料として使えるか

たしかにアンモニアは既に化学肥料の原料として流通しているので、その際に使用している設備をそのまま使うことができます。

しかし海外からアンモニアを輸入する際には主に船舶で輸送しており、この輸送は化石燃料を使用しています。名実ともにCO2フリー燃料とするためには化石燃料ではなく、積載したアンモニアを動力とする船舶の開発が必要となります。

アンモニアを自国で生産する場合にも、生産を効率化したり、生産過程で排出されるCO2を回収したり隔離するなどの設備の開発が必要になります。

また化石燃料と比べてアンモニアの着火温度は651℃と高く、燃焼が安定しません。アンモニアだけを直接燃焼させて発電するには、このニュースのようにもっと効率の良いタービンなどを開発していく必要があります。

(ちなみにタービンとは、流体のエネルギーを回転運動に変換する装置のことで、簡単な例でいうと水車もタービンです。)

つまり現在の輸送・貯蔵技術や既存の火力発電施設そのままでは、CO2フリー燃料としてアンモニアを使用することはできないと考えます。

アンモニア燃料が実現したとして

では仮に今日本にある全ての火力発電所において、アンモニアだけを燃焼させ電力を作り出せたとしたら、どのくらいCO2を削減できるのでしょうか。

経済産業省資源エネルギー庁によれば、約2億トンのCO2排出の削減につながると試算しています[4]。

日本の二酸化炭素排出量は約12億トンと言われていますので、2億トンというのは、日本の総排出量のおよそ6分の1に当たります。

ただし、そのために必要なアンモニアは約1億トンと試算しており、2018年のアンモニアの世界輸出入量が約2000万トンと言われているので、その5倍ものアンモニアが必要になるのです。

つまり世界で輸出入している5倍の量のアンモニアを使っても、日本のCO2総排出量を5分の1すらも減らせないということです。

そもそもアンモニアの消費量は増え続けている

世界における化学肥料や工業用目的にアンモニアの需要は年々増加しています。その分アンモニアの供給量も増加しています。

下の表1は、2011年から2015年における世界のアンモニアの供給量から消費量を引いた数値を示したものです[5]。「Nitrogen(N)」を見ると2011年から2015年にかけて増加しており、これまでは十分に供給されていたと言えます。

表1 World potential balance of nitrogen, phosphate and potash, 2011-2015 (thousand tonnes)

画像2

引用:FAO, 「Current world fertilizer trends and outlook to 2015」, https://agriprofocus.com/upload/current_world_fertilizer_trends1452583790.pdf

一方で、2016年から2022年までのアンモニアの供給と消費についての見通しを示したものが下の表2となります[6]。「Nitrogen-potential balance」(すなわちアンモニアの供給量から消費量を引いたもの)を見ると2019年を境に減少しています。つまり今後は、アンモニア需要の増加に供給の増加が追いつけなくなっていくと予測しているのです。

表2 World and regional nitrogen supply, demand and balance 2016-2022 (thousand tonnes N)

画像1

引用:FAO, 「World fertilizer trends and outlook to 2022」, http://www.fao.org/3/ca6746en/ca6746en.pdf

今後アンモニアの価値がどんどん高くなっていくとすれば、日本のエネルギー源としてアンモニアを主役にするのは難しいと考えます。

最後に

現実的には、アンモニアを海外から輸入し、火力発電所で化石燃料と混焼して補助的なエネルギーとして使用するといったところでしょうか。

もしアンモニアが世界的に主要なエネルギー源となったとしても世界の生産量1位でプラント稼働に余裕のある中国などが覇権を握ることになるのではないかと思います。

もちろんアンモニアを燃料にする技術開発自体は悪くないと思います。今後ハーバーボッシュ法以外の効率の良いアンモニア生産方法が確立されたり、アンモニア生産の原料として製鉄所などで発生する副生水素をうまく活用する技術が確立されたりなど、技術革新によってアンモニアが使いやすくなる可能性はあるのかな。

ただ現時点では、アンモニア燃料がCO2排出問題解決への決定打になることはなかなか難しいんじゃないかなぁと思いました。

ここでは触れませんでしたが、CO2を油田に送り込み原油を回収するのに使用するCO2-EORと呼ばれる技術の開発や、火力発電所から発生したCO2を回収するCCSと呼ばれる技術や、回収したCO2を利用するCCUと呼ばれる技術も研究されており、また機会があれば紹介したいと思います。

結論
・アンモニアの生産・輸送・貯蔵などに必要なエネルギーを化石燃料から得るのであればCO2フリー燃料とは言えない
・日本の電力をアンモニア燃料で賄うにはアンモニアが足りなさすぎる

参考文献
[1] JIMGA, 「空気分離によるガスのつくられ方」, https://www.jimga.or.jp/gas/produce_airseparation/, (参照2021-03-10)
[2] JHFC, 「水素のはなし第9回」, http://www.jari.or.jp/Portals/0/jhfc/column/story/09/index.html, (参照 2021-03-10)
[3] 「Web版 化学プロセス集成 アンモニアプロセス」, http://www3.scej.org/education/an_home.html, (参照 2021-03-10)
[4] 経済産業省 資源エネルギー庁, 「アンモニアが“燃料”になる?!(前編)~身近だけど実は知らないアンモニアの利用先」, 2021-01-15,  https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/ammonia_01.html, (参照 2021-03-11)
[5] FAO, 「Current world fertilizer trends and outlook to 2015」, https://agriprofocus.com/upload/current_world_fertilizer_trends1452583790.pdf , (参照 2021-03-11)
[6] FAO,「World fertilizer trends and outlook to 2022」, http://www.fao.org/3/ca6746en/ca6746en.pdf, (参照 2021-03-11)

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