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選ぶのか作るのか( #道具とか家とか地域とか vol.2 )

人と地域と繋がる暮らし
ではなく
つくるに囲まれた暮らしがしたい

こういう"概念"に住みたい。

なんて結論に至った前回ですが、実際にはスムーズにこの考え方が導き出されるわけもなく、地道な作業がありました。



1.言葉は後からついてくる


ここで時間をちょっとだけ巻き戻して、ミユキデザインさんからの初回提案を見てみましょう。

左に見えるのがボロボロの鶏舎、右が新築の家。
鶏舎と並行に細長い家を建てることで、鶏舎と家との間にちょっとした庭のような空間ができるというこの配置は、とても良さそう。

この配置を前提にした上で、家の中のことを考えてみます。

いただいた図面を見たところ、どうも9.1m × 9.1mのグリッドでプランニングされてるようなので、その寸法で必要なボックスを作成。

「ふむふむ、トイレはボックス2個、風呂はボックス4個か」とか言いながら、パズルのように組み替えていきます。

ここで、寝転がれるソファーが欲しい派の奥さんと、疲れたらベッドで寝るからソファーなんて邪魔だよ派の僕とで、衝突が生まれます。
(いま東京で住んでる家にはソファを置いていないのです)

折衷案として、収納ボックスのようなものを作り、その一部を切り欠いてソファーにする構成を思いつき、それ前提でレイアウトを考えてみることに。

こんな感じに収まると
僕も邪魔とは感じなさそう

ボックスを何度もパズルのように組み替えて、ああでもない、こうでもない。

同時に立面もざっくり描きながら、イメージを膨らませます。

でもどう並び替えてもしっくりこない。明確な指針なしに闇雲にベターを探し続けてる感じ。

「ちょっと思い切って変なことをしてみよう」

利便性をいったん無視して、ソファを家の中央に配置。その結果として、キッチンが左側(西側)に配置されました。

左から、台所領域、リラックス領域、仕事領域、と役割を分けられて。しかもリラックス領域つまり中央から庭へアクセスができるようになったぞ。

なんか、わかんないけど、これ良いんじゃない?
しかしなんで良いと思うんだろう。

「そうか、仕事も料理も"つくる"ことだ。」
「僕はつくることに囲まれて暮らしたいんだ」

こうして、図面の検討から始まり後から図や言葉をつけたもの。それがこの「つくるに囲まれた暮らし」という概念なのでした。


2.図面から概念そして模型


では続いて、言葉や図を得た目線で、検討していた図面を見直してみますよ。

概念をできる限り図面に落とし込めていることが確認できました。

こうすることで、自分自身がなんか腑に落ちますし、ここから先に迷うことがあれば立ち戻ることのできる軸ができたような気がします。

概念と図面の一致!
一気にテンションが上がったので、自分で絵を描いたり模型も作ってみることにしました。

子どもとお絵描きついでに描いたアオキのスケッチ

というわけで、こんな概念や図面や絵や模型をまとめて、ミユキデザインさんに送ってみました。




3.提案はセッション


オゼキさん

この時は、ミユキデザインさんはどう思ったんですか?

末永さん
こうだったんだー、みたいな。


オゼキさん
それはショックな感じなんですか?


末永さん
ショックではなくて。「ここをこうしたい」とか部分の話に行かずに、そもそも自分の暮らしって何だっけ?に戻る人って、そんなにいないと思うんですよね。

笑顔で受け止める
大前さんと末永さん

末永さん
私たちも最初は構えてたんですよ。みんなが知ってるプロダクトを世に送り出してるデザイナーさんで、ボーナストラックにもお店を持ってたりもするから。どういう感覚で空間を見てるのかなって。

会場にはいくつかの
 TENT関連製品も並べていた

末永さん
お互いに「ちょっと変えていいですか?」とかってちょっとずつ変えるとおかしなことが起きるじゃないですか。

でもこのタイミングではっきりと言ってくれたから、逆にこっちからも言いやすくなりました。はじめにボコッ!ってしてくれて。


オゼキさん
言い合える関係性ができそう、みたいに思えたんですかね。

冷静に考えたら、そりゃそうだ。「そもそも」が違ってたら、それからどんなに細かいことを決めて行ったって、違うことになりますもんね。


大前さん
提案とかって基本はセッションみたいなもんなんで。こっちが「表現」したいわけじゃないから。


オゼキさん
ミユキデザインさんの「作品」ではない。

左:オゼキさん

大前さん
そう。一緒になって面白がって作っていこうっていう話なんで、そりゃあ最初に良い提案を出すけど、それができなければ終わるわけじゃないから。テーマを投げかけたらこう返ってきたみたいな。


オゼキさん
一歩進んだみたいな感じ


末永さん
初回の提案が意味不明だったらそれはもっとまずかったけど、最初に共感があって、そこからどう変わっていくか。そういうところではすごい面白かったなって感じですね。


4.余白に名前をつける

さて、そんな僕からの「そもそも」的な提案を経て、ミユキデザインさんからの再提案がありました。

1つめはこちら

わりと、アオキからの提案をベースにしたプランです。
そして2つめ。

こちらは、回遊性風通しを優先して、機能を分離した感じのプラン。

なるほど、なるほど。
これらの提案を見て、またも僕は迷うことになりました。

風通し、回遊性、たしかにそれは良い!
一方で、機能的な効率性はどうなんだろう。

いや、そもそもどんな空間が欲しいんだっけ。

悩ましいので、またも自分たちの暮らしを振り返ります。

これはTENTの中目黒事務所の写真です。
フリーアドレスで、何もない部屋に大きなテーブルが1つ。ここで打ち合わせをしたり作業したり試作したりしています。

そう、こういう空間が僕は欲しいんだ。
何をやっても良い、ただの余白。

余白が欲しいんです。空間に役割を与えたくないのです。

欲しいのは、開放感のある無駄な余白。ちょっと足りない未完成な空間。満たされてないからこそ「つくる」気持ちになる。

だから、機能的な要素をギュっと1カタマリにまとめて、家の真ん中に「ブランク」をつくり、そこから「ただの空き地」である外部空間に繋がるようにしたい。

それはこんなイメージ。
真ん中に大きな穴が開いてますよね。

この「真ん中」に「ブランク」という名前をつけることにしました。ただ名前がついただけですけど、これで迷いがなくなりました。

風通し、回遊性。とても良い。しかし、僕が最も優先したいのは「ブランク」なんだ!そう決意したわけです。

ここまで方向性が決まったら、あとは詳細の話。

頻繁に図面が送られてきて
やりとりを続けます

構造はどうする、予算は見合っているのか

ミユキデザインさん
社内スタディ用の模型たち

屋根の形はどうするのか。二階を作るのか作らないのか。などなど話しつつ、アオキも勝手に3Dレンダリングしてみたりして。

アオキ作成
3Dレンダリング

ミユキデザインさんからも、キッチンや洗面どうする?っていうスケッチがきたり

ミユキデザインさん作成
3Dレンダリング

最近になると、もうオンラインで会話しながらお互いに手描きスケッチを見せ合うようになってきました。

細かな空間の使い方を
立体を描きながら意見交換



5.目指してるところが同じなら

オゼキ
もうリアルタイムでブレインストーミング(一緒にたくさんのアイデアを出し合うこと)してるってことなんですかね

末永さん
アオキさんから「完全な図面や絵にする前に見たい」って言われた時期ありましたよね。資料にする2、3日の作業時間がもったいないから「こんな方向性でやろうとしてる」みたいなことを共有してほしいって。


アオキ
ミユキデザインさんの作業工数がもったいないなと思って。できるだけ作業よりも脳みそを動かすほうに時間を使って欲しいなと思って。


オゼキさん
こんなふうにやりとりするお客さんっていましたか?


大前さん
まあ平面図の上に「ここはこうして」って描いてくるお客さんはいましたけど、立体を描いてやりとりすることはないですよね。


アオキ
この時は楽しかったですよね。


オゼキさん
ミユキデザインさんは、本当に、楽しかったですか?

大前さん
いや、ぜんぜん、楽しいと思うし。
楽しくないと思われることがあるとしたら、どんなところかな。

アオキ
僕が不安だったのは「いつまで変更を要求してくるんだよ」って言われるのかなとか。


オゼキさん
自分がお客さんの時って、知らずに好きに言っちゃうみたいなことがあるなあと思ってて。設計士さんは翻弄されちゃうんじゃないかなって。


末永さん
なんで今こうしてるんだろうみたいな、青がいきなり赤になるみたいなことはなくて。一番最初にボコッって始まった流れから、お互いに確認しながら作っている気がしますよね。

なんて言うのかな。「ここちょっと変えたらめちゃくちゃ良くなる」って思った時に、それを選択しないのはちょっともったいない。


オゼキさん
全員が妥協してない。目指しているところが同じであれば、どんどん変えちゃえばいいじゃんって発想ですかね。

そうして、楽しくはできていた。


大前さん
楽しいし、なんか普通に協働してるっていう感覚。

設計してると、実は悩みながらやってる部分もあるんです。普通は「そんなの設計士さん自分で決めてよ」って細かいことでもアオキさんには相談した気がする。

末永さん
若い頃に住宅を設計していた時は、不安になっちゃって細かいことも全部お客さんに聞いてしまっていた時期がありました。でもお客さんは、そういう細かい1つ1つの判断を任せたくて設計士に頼んでるわけじゃないですか。


オゼキさん
たしかに。自分はお客さんであり、プロにお金を払ってるんだから。


末永さん
お客さんからしたら「どっちが良いかって言われてもわからないじゃん」って話で。そういうところは、お客さんによって聞くか聞かないかを変えてる気がしますね。

******

というわけで、僕とミユキデザインさんの場合は、細かい修正が現在もずーっと続いています。

ちなみにこれが最新(2022年末時点)の模型でして。

だいぶ細かい部分を話している段階に来ています。

そもそも見積もりが予算に見合うのかとか、まだ様々な問題が立ちはだかると思うので、ここからも変わっていくとは思います。

ここでいったん
to be continued….

という感じです。



6.選択するのか作るのか


ここまでで家のお話は終わりなんですけど、最後にイベントでお話しした「地域」の事も、ちょっとだけ。

僕が3ヶ月岐阜に住んでいた時のこと。せっかく車が通らない道路がたくさんあるから、東京では自由にやれないローラーブレードを毎日やってたんです。

そしたら小川沿いで、おじちゃんが釣りしてました。平日の昼下がりなのに、小川で釣り。

それを見て、ふと思ったんですよね。
やりたいことがある人にとって、ここは楽しい場所なんだなって。

ヒゲじいは古民家再生してる。
僕はローラーブレードしてる。
おじちゃんは釣りしてる。

その瞬間においては、他者から提供されなくても、自分たちでエンターテイメントを生み出せてるわけです。

だから、こんなことを思いました。

僕が慣れ親しんでいる都市生活は、無数の選択肢から選ぶ自由がある。

一方で、地方(というかこの柿畑の村)には選択肢を自ら作り出す自由がある。

どちらのほうが良いってことではなくて、これらが循環したり、双方の良いところどりができたら、最高に自由なんじゃないかって。

「いや、そんな甘いもんじゃないぜ」という話はいくらでもあると思います。でも、今の僕は、そんな期待を抱きながら、この「小さくて大きなプロジェクト」を進めていきたいと思います。


続きのお話は、たぶん半年後くらいに!
この個人的な話が遠くの誰かの勇気になると、とても嬉しいです。

ありがとうございました!

当日イベントにご参加いただいた80名以上の方に、会場の片付けまでお手伝いいただけて、本当にあったかい、ありがたい会になりました。ぜひまた、何かやりましょう!

司会のオゼキさんの記事
こちらも合わせて読むと面白いです。

オゼキさんが残してくれた音声アーカイブはこちらから聞けるようです↓


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