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おじさんの若い頃の話。

もうすぐ帰省が終わる。
父の兄、つまりは伯父さんはたくさん話してくれた。

基本的にクソつまらないおっさんの話だけど、この伯父さんは割と本を読んだり、色んな経験をしているので、おっさんの割に話が面白かった。

「23まで実家にいたよ。20-21の1年間は休学してて、その間は母親、君の祖母だな、に実家追い出されてさ、住み込みでバイトしてたけど。・・・休学中ねえ、結構暇でね、人間てマジで暇になると勉強しだすんだよ、これマジで」

「俺その時やった勉強で今も飯食ってるもん。わからないもんだねえ」あはははと伯父さんは笑う。

伯父さんはパラパラと本を捲る。

ボロボロになった村上春樹の『ノルウェイの森(下)』を嬉しそうに眺めている。

「それ好きなの?いつも持ってるけど」
「まあね小説書くきっかけになった本だから」
伯父さんは小説家ではない。1回だけ小さな賞の一次審査に通っただけだ。それも30歳の時にようやく。でも小説を書いていたり、ネットに投稿している。曰く「金がかからない上に、手軽に人生語れる」のだそうだ。

「これは大3の冬休みに研究で山口県行った帰りに広島の本屋で買ったんだ」
「・・・なんて?」

今年で48歳になる伯父さん。1週間野宿したり、断食したり、ネオンライトを集めまくったり、今でも意味不明な行動をとるけど、それは昔からのようだ。なんで山口県の帰りに広島の本屋に寄るのだ。

「結婚とかは?」
「しない。できない。」
「なんで?」
「これ読みな」
そう言って日焼けした原稿を手渡した。23歳の頃書いて応募して、当たり前のように落選した小説だった。

「言いたいことは小説にするといいよ。口で言うとうざいから」
とよく言う。

父の実家、つまり伯父さんの実家でもあるのだけど、伯父さんの部屋(だった)には小説、漫画、雑誌、分厚い学術書などの本類、原稿用紙と枯れ果てた観葉植物とで埋め尽くされていた。一時期集めていた猫のキャラクターのグッズもたくさんある。

埃被ったカオスな部屋を伯父さんはスイスイ泳ぐように目的の物を取ってくる。

「これが卒論の下書き。石灰岩についてやったんだ。参考にならないだろうけど。で、これが始めて書いた小説の原稿で、これが当時の日記、黒歴史」ワハハと笑った。

伯父さんはとても楽しそうに生きている。

教師をやっている父にそのことを言うと「真似しないほうがいい」と言う。
「でも父さんもたまに羨ましく思うよ」とも言う。

伯父さんは僕と同じ歳、つまり19歳の時にうつ病になったらしくて、それまではクソ真面目に生きていたらしい。

「ああなる前も良かったけどね、高校野球マジでやって、大学2年まで教師目指して勉強してたし、でも、どっちか選べと言われたら今かな、楽しいのは」

伯父さんは地方のボロアパート(本人がそう言ってた)で適当に働きながら、引きこもりをメイン?に生きている。暇であることは本当の意味で「生きること」だとなんかいい風に言っていて、でもそれが僕に少し刺さっている。

鬱になったり、休学して実家を追い出されたり、一人暮らしで遊びまくったり、いろんな人と恋をしたり、山口の帰りに広島の本屋に寄ったり、就職せずに細々と仕事をしたり、本を読んでは小説を書いたり、結婚しなかったり、金がなくなったら実家の手伝いをしにくる48歳。

伯父さんは、割と、僕が見てきた大人の中では、「人間」だった。


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