マガジンのカバー画像

小説・バニラアイス

6
新幹線の販売員をしているわたし。 いつも同じ時間の同じ車両に乗る、スーツの彼は、バニラアイスがお気に入り。でも彼が、どこの誰かもわからない。 どこの誰かもわからないネットの世界は…
運営しているクリエイター

#バニラアイス

バニラアイス・3・彼のマジック

バニラアイス・3・彼のマジック

新幹線の車内で販売の仕事をしていると、いろいろなことがある。
嫌なことが多いと、辞めていく子が多い。

「先輩は平気なのかもしれませんが、私には無理です!」

そういって、辞めていった後輩の顔は今でも忘れられない。

だって、平気だから続けているわけじゃない。
辞めたって、また別の嫌なことをしなきゃいけないだけ。

それなら、笑ってやりすごして、適当に流して忘れてしまえばいい。
…なんて、忘れられ

もっとみる
バニラアイス・4・ちいさな彼女

バニラアイス・4・ちいさな彼女

「お客様、お席の確認をお願いしたいのですが…。」

怯えるような声が耳に響く。
あの子の声だと反射的にわかった。

「疲れてんの。眠いの。わかる?」

威圧的な声が聞こえる。
さっきから、大いびきをかいて寝ていた乗客だろう。

仕事で疲れているのも、酒を飲むのも自由だけど、人に迷惑をかけていいとか、八つ当たりをしていいってことにはならない。

「申し訳ございません。お席の確認をしていただけませんか

もっとみる
バニラアイス・5・彼のプレゼント

バニラアイス・5・彼のプレゼント

酔っぱらいの乗客は嫌いだ。
威圧的で強気だから。
本当は、関わりたくない。

だけど、あの人は助けてくれた。

涙が出そうなほどうれしくて、でもどうしていいのかわからなくて、あの人がいつも降りる駅でバニラアイスを渡した。

声がうまくでなくて、言葉が見つからなかったけれど、あの人はやさしく微笑んでくれた。

心臓がバクバクした。

ドキドキしながら仕事を終えたとたんに、今度は別の意味でドキドキして

もっとみる
バニラアイス・6・バニラアイスの彼女

バニラアイス・6・バニラアイスの彼女

ぼくがいつも同じ席を取るのは、特に理由なんてない。
同じ車両を取れば、乗り込むホームの位置や車内のトイレの位置なんかも、いちいち確認しなくていいから。
理由をつけるとしたら、それくらい。

久しぶりにログインしたあのゲームでは、プレイヤーがみんな彼女に思えてしまってドギマギした。

中2病ってやつかと、なんだか笑いが込み上げたけれど、嫌な気持ちには全然ならなくて驚いた。

そのまま、ネットの画面の

もっとみる