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小説・晴れのち、時々、恋もよう・クリスマスの気まぐれ

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デパート勤務のナズナ。 美人の先輩、スミレと、 しっかり者の後輩、アヤメ。 どうやら優秀らしくて、 イケメンみたいな、カンナ。 出会い、再会、時々、別れ…? 毎日は、大変な…
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#胸キュン

クリスマスの気まぐれ.27

「…。」

みんなが優しい笑顔でうなずいている。
油断すると、涙が出てしまいそうだ。

村田さんにドキドキしたのは、嘘じゃない。
だけど、間違うことだって…あるよね。

「それにさ、ナズナって甘えて頼るってタイプじゃないよね。」

「私もそう思います!」

「ナズナは、自分で仕切りたくて、相手にはわがまま聞いて欲しいし、だけど自分からは素直に甘えられない不器用なところもあって…。」

「うんうん。

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クリスマスの気まぐれ.26

私、真に受けて…。
えー…。

更にヘコんで困惑もしている私なんてお構いなしで、

「おとり捜査のご協力、感謝します。」

カンナがふざけて敬礼のマネなんてしてる。

「は?」

思わずカンナのネクタイを掴んで、ぐっと引き寄せる。

「な、ナズナさん、苦しい…。」

「そうなんですか?
だから今日事務所で…。」

「なに?」

カンナのネクタイから手を緩めつつ、アヤメにもズイっと近寄る。

「ああ

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クリスマスの気まぐれ.25

村田さんに帰られてしまったところまでを話終えると、スミレさんはめちゃくちゃ笑っている。

「あの、私に失礼ですよー。」

「だって、ナズナってほんと…。
かわいいなぁ!」

スミレさんはテーブルの向かい側から身を乗り出して、ぐりぐり頭を撫で回される。
アヤメが慌ててお皿やグラスを押さえながら、

「それで、あの態度だったんですね。」

アヤメが納得している。
あの後少し面倒だったのは、村田さんの対

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クリスマスの気まぐれ.24

視界にはイルミネーションが映る。
噴水公園には、たくさんの人が集まっている。

「恋人だけじゃないです。」

「へ?」

カンナは立ち止まって手を離すと、スルリと自分のマフラーを外して、私の首にぐるぐる巻きつけた。
カンナの匂いに包まれて、ドキドキクラクラする。

「親子とか、家族とか、友達とか…。
キレイなイルミネーションは、恋人だけのものじゃないんじゃないですか?」

カンナに言われて見渡すと

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クリスマスの気まぐれ.23

「…だって、忘れちゃってるんだもん。
ドキドキするのも、久しぶりすぎて。
嫌われないようにばっかり気になって…。
って、途中で帰られちゃったんだけど。
あー…、連絡しなきゃ失礼だよね。」

スマホを取り出そうとした腕を、ぎゅっと掴まれた。

「…なに?」

カンナを見上げる。
カンナがいつものカンナじゃないみたいで、ドキリとした。

「好きなんですか?」

真っ直ぐな視線を向けられる。
それに、な

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クリスマスの気まぐれ.22

ジロリと睨む。

「言わなかったんですか?
スマホばっかり見てないでくださいって。」

カンナと目が合う。

「言えないよ。
言ったら、うるさいと思われるかもしれない。」

視線を足元に落とす。

「我慢するんですか?」

「うーん。」

「我慢しなきゃいけないことも、もちろんあると思います。
でも、恋愛ってまずは楽しいってことからじゃないんですか?」

「…え?」

足を止めて、カンナを見る。

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クリスマスの気まぐれ.21

「あ、熱燗とかが良かったかもー!」

「いや、そういうことじゃなくて…。」

「ラーメン、お待たせしました!」

店員さんが目の前に、どんぶりを置いた。

「ありがとうございます!
はい、箸。」

カンナにも箸を渡して、手を合わせる。

「いただきます!」

ズルズルとラーメンを食べる私を見て、カンナが笑う。
それを見て、私も笑った。

身体は温まって、おなかもいっぱい。
ついでにほろ酔いのいい気

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クリスマスの気まぐれ.18

そして暖かそうな手で相変わらず、スマホを操作している。
ふと、何かに気づいたように、こっちを見た。

「ナズナちゃん、もしかして待つの苦手なの?」

少し険しい表情で、そう問われる。

「え?
そ、そんなことは…。」

「そう?
映画のときも機嫌悪そうだったし、おれが店探してるのに、知らない人がちょっとおいしいとか言ってるお店に入ろうとするし…。」

「え?」

ちょっと待って、それは違う!
そう

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クリスマスの気まぐれ.17

「お店の検索とか、口コミとか、ちょっと調べるとたくさん載ってるよ?」

会ってから、映画を見ている最中以外は、ずっと右手ににぎりしめているスマホを掲げられた。
確かに、雑誌やネットでお店の検索をしたり、口コミや評価を見ることもある。

だけど、さっきみたいに雰囲気の良さそうなお店を見つけて、ドキドキしながら入ったり、ちょっと口に合わなくてガッカリしたり…。
そういうのも、私は楽しいと思う。

と、

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クリスマスの気まぐれ.16

村田さんは、眉間にシワを寄せてスマホに入力を始めた。
カタンとドアが開いて、店の中から人が出てきた。
若いカップルがニコニコしながら、

「おいしかったね!」
「また来たいね!」

そう話しながら、遠ざかっていく。

「おいしかったって言ってましたよ!」

自分のカンが当たったかもしれないと、嬉しくなる。
…だけど、

「…え?
あんな知らない人のこと信じちゃうの?
ナズナちゃんは素直だから、騙さ

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クリスマスの気まぐれ.15

“本日都合により、
お休みさせていただきます。“

「えー!
そんなの書いてなかったのに。」

スマホの画面をスクロールさせている。
きっとそれは、目の前にある張り紙のことではなくて、ネットの書き込みかなにかのことなのだろうな。
当たり前のことを、冷静に眺めている自分に、少し驚いた。

「他探すから、ちょっと待って?
あ、先に今日休みって書き込まないと…。」

半分は独り言のように呟いて、村田さん

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クリスマスの気まぐれ.14

「そ、そうですね。」

と、答えたものの、なんだかモヤモヤしてちっとも内容を覚えていない。

「始まる前も、評価見てたんだけど、実際に見たら面白かったから、終わってすぐ書き込みしたよ!」

「そうなんですか?」

用事か仕事かなにかだと思っていたら、検索や書き込みをしていたんだ…。
もしかして、写真もその為に撮っていたのかな?
心のもやもやが、また少し深くなりそうだったけど、せっかくのデートなんだ

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クリスマスの気まぐれ.13

「今の人、カッコよくない!?」
「でも、彼女連れじゃん。」

チラりと横目で、さりげなく自分たちのことを言われているのだと確認してしまう。
彼女ではないけれど、そういう風に見えるんだ!
そう思うと、ちょっと浮かれる。

そういえば、村田さんは歩きながらずっとスマホを操作している。
邪魔をしては悪いかと、黙って隣を歩く。

「上映時間、ちょうどいいかも。」

スマホを眺めながら言う。

「そうですか

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クリスマスの気まぐれ.12

ほぼ毎日売り場で会っているけれど、私服で会うのは初めてだから少し緊張する。
白のニットにふわりとしたスカートと、ショートブーツを合わせて、コートを羽織る。

通勤は防寒対策重視だから、極厚タイツを重ねばきして、カイロも貼りまくって、手袋とマフラーも必須だけど、今日は全て封印しておしゃれ優先で頑張ろう。

待ち合わせは駅前の噴水公園。
まだお昼過ぎだから、点灯していないけれど、夜になるとイルミネーシ

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