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∞ 綿鍋銀次のお∞度参り / 20240630sun(1502字)


創作メモ:⑤-14

闇の中:
銀次は近江神宮のお百度(∞)参りをしている。
怨霊たちに復讐されるのを恐れているのだ。

鳥居は三つある:戦いに影響か?(ピンチになってあとで二体が駆けつける)
一の鳥居
二の鳥居
北の鳥居

アイテム:神符、手水舎、本殿、神楽殿、祓所(はらえど)、清祓(きよはらい・せいばつ)、木洩れ日の道、古代火時計、時計博物館、日時計、楼門など

∞ 銀次のお∞度参り

 闇のなか。雪が降っている。
 銀は朱色に染まる大鳥居の前の敷石の上に立った。雪駄を脱いで、裸足になった。雪駄は階段の傍に揃えて置いた。雪駄の上に電源を切ったケータイを置いた。
「あわわ」
 銀は背に怨霊を感じて声を出してしまった。ダメだ。けっして声はだすな。一心不乱に参道と境内の道を参るんだ。銀はぶつぶつと唱えて、巡る場所を頭に入れる。神符、手水舎、本殿、神楽殿、祓所(はらえど)、清祓(せいばつ)、木洩れ日の道、古代火時計、時計博物館、日時計、楼門。楼門から二の鳥居だ。二の鳥居から引き戻ってきてここ、一の鳥居で一回としよう。長ければ長いほど願掛けの効果は強まるはずだ。銀次はそう思った。
 雪はぼたん雪に、ぼたん雪は霙(みぞれ)に変わった。足が凍えそうだ。
 銀次は歩き始める。なんでまたおれはこんな真っ暗な世界にいるんだ? ダメだダメだ。そんな野暮なこと考えたらいかん。一心不乱だ。
 手水舎のところで、銀次の顔にネズミが襲いかかってきた。
「ぎゃあ! 」
 ああ! 驚いたあまりに、銀次は、顔面からネズミを毟(むし)りとって石畳に叩きつけ、思いっきり踏んづけた。なんどもなんども踏んづけて潰した。ネズミは春日部のぬれ煎餅のようにべっちゃりとなって死んでいた。ああなんてことだ。また殺してしまった。
 神楽殿に着く。見ないようにしたが舞台に何かがいるのを感じる。怨霊じゃない。あれはぜったいに怨霊なんかじゃない。そう思うと頭に怨霊が浮き上がる。まるで象を想像するなと言われた哲学者のように。銀は見てしまった。
 マタギが切り株の上に銀次の生首を置いて、鉈で真っ二つに割っていた。
 切り株の上に置かれたじぶんの生首がぱっくりと左右に割れて切り株から落ちた。
「あふっ! 」
 こんな調子じゃあ、一度参りもままならん。これはもはや御百度参りじゃない。地獄めぐりだ。ただの我慢比べだ。それでも銀は黙って木洩れ日の道を裸足でぺたぺたとあるく。藪の茂みから若い男が飛び出してきた。ぎゃっ!
「おい! 忘れ物だぞ…… あれ、おまえはだれだ? 」
 男は茂みに消えた。銀は時計博物館、日時計、楼門へともどった。
 九十九周目だった。まだ声は出してない。これで終わりだ。銀は裸足で本殿のまえをぺたぺたとあるく。
 銀は一の鳥居にもどった。
 銀はぎょっとする。
 大鳥居が消えている。
「ああ! それはだめだ! なんで? それはダメだよ! 」
 銀の目の前を一の鳥居が琵琶湖の方へあるいていく。
「ダメだ! 行ってはダメだ! 私を見捨てないでおくれ! 」
 銀は大鳥居にしがみついて、上まで登って行った。
「きさま、いったい幾人のイキモノを殺したのだ! 九百九十九か? つぎで大台の千になるな」
「ひええ! ひょっとして、あなたはお天道さまですか? 」
「そうだと言ったらどうなんだ? 」
 銀次は一の鳥居の肩に乗って、どしん。どしん。どしん。琵琶湖のほうへむかった。琵琶湖の上では奇妙な音楽が流れている。東から光るつばめが飛来してくるのが見える。



短歌:

もうすこし
あとすこしやる
あとひとつ
かみさまわれに
ちからをすこし

解説:体調が不調だった。床に伏していた。今日はカフェで十時間。あと一本プロットを。

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