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小説「えもっちゃん!僕も男だ」(1) / プロット沼

1785文字・60min(冒頭)

随時変更予定


400文字=原稿用紙1枚=1分=目安


原稿用紙100枚=40000文字
今回は小説なので、倍の80000文字

(74文字)

序・僕の部屋


 この春、僕は大学に受かった。いく年か浪人をした。だが、そんなことは気にしない。だって、すでに合格したのだ。過去よ。そんな些細な数年など今日のウンコといっしょにトイレの水といっしょにすっかり流してやるよ。
 三月八日吉日。晴れ。桜が舞い散る、某アパートにて。

 僕は日記を書くのをやめて、あおむけの姿勢のまま天井を見つめた。それから日記帳を、枕元に置いた。
 春の午前の生ぬるい日差しが顔にあたる。太陽が昇るにつれて顔は熱くなる。けれど僕はそのまましばらく天井を見つめていた。
 僕は部屋の天井を眺めるのが好きだった。天井には染みがあった。色はもともとは漆喰に似合う黄褐色だったのだろう。けれど歳月がもたらす湿気と腐食でいまは黒ずんで板はめくれて笹くれだっている。極北の針葉樹林が薙ぎ倒されているように見える。北の角の黒い染みは龍が栄養失調になってのたうっているようだ。
 頭の後ろに腕を組んで天井を見上げていると天井がミシミシと音を立てて揺れはじめた。上から埃が落ちてきて僕の目に入った。また始まった。僕はため息をつく。
「朝っぱらからかよ」
 僕はつぶやいて、洗濯物を取りこむために日記を持って窓を開けた。縁側に首を出して二階を見上げる。
「あん」
「しっ! しずかにしろって」
「だめ声がでちゃう」
僕は大きく咳をする。二階のあえぎ声は消える。けど、アパートの揺れは、はげしさを増した。
 僕はため息をひとつついて、縁側に腰かけて洗濯物を取りこんで日記帳をひらいた。庭木を眺める。ピンク色の花びらが散っている。それは桜ではなく梅の花びらだった。日記を見直す。桜が舞い散る、と書いてある。
 人生はときには嘘も必要だ。僕はいく年かの人生の真冬ともいえる厳しい浪人生活を過ごした。けどその黒時代は日記の桜の脚色とともに今朝のトイレに流す。
 僕の部屋は、アパートの一階の南向きの角部屋だ。四畳半だ。せまい。北側にはベニヤ板みたいに薄い木戸のついた和式トイレがある。南に向いた半畳の物入れには僕がずっと以前に空き地でひろった折りたたみ自転車を押しこめてある。カーテンは前かその前の住人のだれかが置いていったもので、赤色と黄色と紫色を基調とした明らかに昭和を彷彿とさせるサイケな色調だったはずのものだ。けれどあまりにもながい間太陽の光にさらされて、いまでは腐った卵と牛乳をかきまわしたような色になっている。あと僕が入居した当時この部屋にはなぜか全身鏡が置いてあった。捨てるのにお金がかかるので、いまはトイレの横に立ててある。
 朝、目覚めて僕は畳んだ布団を折り畳まれた自転車の上に乗せる。すると部屋は座机とトイレの前の全身鏡だけの黄ばんだ畳が敷かれただけの空間になる。
 共同の台所と洗面は通路の東西の突き当たりにある。その中間にあった一部屋を潰した共同スペースに個別使用のガスコンロがコの字に並ぶ。そこは炊事場だ。二階は一階とおなじ間取りだ。高度経済成長期の頃、この街はいわゆるドヤ街と言われた労働者街だった。当時のこのアパートは活気があった。けれど今ではこのアパートには住んでいる人は、年金で暮らす一人暮らしの老人と老いた日雇い労働者だけになった。若者は僕と現在二階の僕の部屋の真上でお盛んな行為に興じている住人だけだ。いま僕はそんなアパートに住んでいる。


■簡易フィードバック


  1. 一人称で書くと心情描写と時間(過去との関係)が入り混じる。

  2. 物語(戯曲のプロット)が始まらないよりは断然にいいが。

  3. 戯曲に書かれない僕の背景をたくさん書きこんで情報量を膨らませる。

  4. なるべく心理描写でない情報・道具(壁のカレンダー、目覚まし時計、歯ブラシ、共同洗面台へと移動する、共同トイレに実際に入って流す、他の住人の声、外の音、たけや~さおだけ〜、古新聞、雀、風、雨、スクーター、郵便屋、子どもの声、火災、救急車のサイレン、猫の発情期、隣の部屋からラジオ、etc…)で文章を繋げる。

  5. 心理描写をしっかりするときは、戯曲の長セリフを意識して僕に長く黙考させる。

  6. 僕を積極的に移動させる。僕が見たもの、触ったもの、ぶつかったもの、嗅いだもの、驚いたものをたくさん書きこんでいく(使うのは一割だ)。




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