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【小説】いかれた僕のベイビー #2


 高校生の頃に所謂バンド活動を始めて、何度かのメンバーチェンジを経て大学生の頃、今のメンバーになった。
 オレと同い年でベースのアミちゃんと、一つ下のドラムの玉田。そしてオレ、藤原大成がボーカル&ギターのスリーピースバンドで、昨年今の事務所に縁あって所属させてもらいインディーズデビューを果たした。
 ありがたい事にそれからの活動は順調で、フルアルバムもリリースし、ライブも回を重ねるごとに集客も増え、サブスクや動画の再生回数もSNSのフォロワー数も軒並み順調な推移を見せている。
 これまでサーキットイベントや若手のバンドを集めた野外のイベントには何度か出演させてもらったが、毎年開催される名のある野外ロックフェスへの出演は、今回が初めてだった。
 もちろんメインのステージではなくサブステージだけど、それでもロックバンドならみんな一度は憧れるフェスのラインナップに名を連ねられるとわかった日にはメンバーと、それからバンドに関わってくれているスタッフみんなと抱き合って喜んだ。
 そういえば、そんなオファーを勝ち取るために一番尽力してくれたうちの本来のマネージャー、川西さんは、どうしたんだ?

「ねぇ、今日川西さんは?」

 ハイエースを降りて隣を歩くアミちゃんに声をかける。

「フジくん何も聞いてなかったの?今日うちの事務所の先輩バンドも何組か出演するから先に行ってるって前に言ってたじゃない。だから急遽今日から潮音ちゃんが付いてくれたんだよ」

 あぁ、そうだっけ?そんな事言ってたような気もするけど、あんまり覚えてない。
 うちのバンドはしっかり者で姉御肌のアミちゃんとぼーっとしてるようで実は空気を読むのが得意な玉田のおかげで普段は成り立っている。
 その代わりと言ってはなんだが、ライブのステージに立ったらオレが何処までも二人を引っ張っていける。その絶妙なバランスがオレたちには合っていた。もちろんメンバーだけではなくスタッフも含めて一つのチームだ。
 そしてそんなチームの一員に加わった新マネージャーを背後から盗み見る。
 髪の毛は下ろせば肩より少し長いくらいか、身長は隣を歩いてる玉田より頭一つ以上低いから160センチ無いくらい、体型は細身で黒のスキニーにオーバーサイズのシャツがよく似合ってはいるが、如何せん、……色気が無い。なんか違和感があると言うか、あの野暮ったい眼鏡と黒髪のせいか?……うーん、現場マネージャーが色気満載でもそれはそれで困るが、これはこれであまり面白くも無い、……おっと、せっかくバンドマンのスイッチ入れたはずがまたついくだらない事を考えてしまっていた。
 けどまぁ新しい人が来たらあれこれ想像してしまうのは仕方ないよな。


 会場の出演者用の入口付近では馴染みのマネージャー川西さんがオレたちの到着を待ってくれていた。

「お疲れさん、思ったより早く着いたな」

「フジくんが遅刻しなかったからねー」

「え、もしかしてそれで集合時間あんな無駄に早かったわけ?最悪、フツーに遅れてくりゃよかったわ」

「ずっと寝てたんだからいいじゃん、途中でフジくんに運転代わってもらおうと思ってたのに全然起きないし」

「すみません、私が運転代われたら良かったんですけど……」

「免許持っててもいきなりあんなデカい車運転するのしんどいでしょ?でも今後慣れてきたらお願いするね」

「はい、練習しておきます」

 真面目だな。オレは出来れば運転したくないからありがたいけど。

「車に一緒に乗って来るだけとはいえ、初日にいきなり一人で付かせて心配してたけど、その様子だと大丈夫そうだな。年も近いしメンバーもみんな人懐っこい奴らだから気負いなくやってくれたらいいし」

「はい、車中でもいろいろお話して下さってたんで、……藤原さんは、ずっと寝てらしたから、ご挨拶したのもついさっきですけど……」

 あー、そうか、わかった。
 違和感の正体はコレか。
 この堅苦しい話し方と、それから、この子、全然笑わないんだ……。


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