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変わらないもの

登場人物

茜(あかね):主人公

拓(たく):幼なじみ。学年は一つ下。

栞(しおり):幼なじみであかねの親友。


 波が打ち寄せては砂をさらっていく。

 海を走って行くかのように波に乗るサーファー。

 砂の城を作ったり山を作ったりしては楽しそうな子供たちの声が遠くから聞こえてくる。

 夏真っ盛り。目を閉じても開いても夏。私は夏が嫌いだ。暑いし、汗べとべとするし。やる気なんか毛頭出ない。恋の季節、なんていうけど、今の私にとってそれはとても幸せだと思えるものじゃなかった。

 私には、大好きな幼なじみがいる。名前は栞。かわいくて少しあざとくて、でも本当は家族思いで友達思いでかっこいい女の子。家が近かったこともありずっと仲がよかった。

 だけど・・・・・・・・・・・・、ついさっき、ケンカをしてしまった。

 理由なんて些細なものだ。いや、私にとっては重要なことだし、何なら私が悪いんだけど・・・。

 栞には拓という1つ下の弟がいる。姉に似て顔立ちがすごく整っていてハンサムで優しく、でもちょっと変わっている。料理と勉強以外は基本何でもできる子だ。

 私は、そんな拓にいつからか恋心を抱いていた。でも、親友とはいえとてもじゃないけど姉の栞には話せなかった。小さい頃から拓とも一緒にいたし、今更そこで引かれたくなかった。でも、家が近いし高校が同じなこともあっていつも一緒に行っていた。どんな風に接していけばいいかわからなくなってしまい、ついにさっき、

「ねえ」

「ん?」

「あたしさ、茜になんかした?」

「えっ」

「最近おかしいよ、目見て話してくんないし。何か隠してる?」

「そ、そんなんじゃ・・・」

「はっきり言ってよ。今更隠し事とかしてほしくない」

「いやっ、えっ・・・・・・」

 戸惑う私に、もういい、とため息をついた栞はどこかへ歩いて行ってしまった。私は追いかけようとしたけど、歩くのがすごく速くて栞の背中を見失ってしまった・・・・・・。


 この先どうすればいいんだろう。でも、謝ろうにも栞が捕まるかすらも危うい。10年以上ものつきあいなのに、ケンカなんか初めてだ。

 どうしよう。そのとき、

「ひゃっ」

 頬に冷たい感触がした。驚いて顔を上げると、

「みーつけた」

 拓がいたずらっぽく笑いながらジュースの缶を持っていた。

「たっ、拓・・・」

 正直拓にも会いたくなかったのに・・・。その言葉を飲み込み、

「どうしてここに?」

「家帰ってたら姉ちゃんが泣いてたから。どうしたのって言っても聞かないし。茜となんかあったのかなーって」

 エスパーなの?恐ろしいんだけど。

「あはっ。黙ってるってことは、図星だ」

 そう言いながら拓は私の隣に座った。

「姉ちゃんとケンカなんて、珍しいじゃん」

「べっ、別に・・・」

 拓のせいだもん、本当はそう言ってしまいたかった。でも、幼なじみに恋をしている私の方がおかしいと思ってそれ以上何も言えなかった。

「俺さ」

「うん」

「姉ちゃんが泣いてる姿、初めて見たんだ」

 思えば私も栞が泣いている姿を見たことがない。むしろいじめられてる私を守ってくれたりして強い人だった。あざといとはいえ決して涙は見せないタイプだった。

「だからびっくりでさ。聞いたら茜とケンカでしょ。そんなん聞いたことなかったから余計にびっくりでさ。何があったのか聞いたら、茜がなんか隠してるけど自分に話してくれなくてイライラしちゃったって。茜がそんなことするなんて初めてだし、遠くに感じるし、何よりそんなことににイラつく自分が恥ずかしくてって言ってた」

 遠くに、だなんて・・・・・・。でも、私は、もしかしたら気まずいと思うどこかで無意識のうちに栞とも距離をとっていたのかな。

「そうだったんだ・・・」

「うん。だから探しに来たんだ。俺が」

 拓はそう言うとにこっと笑った。

「俺は、姉ちゃんと茜が楽しそうに笑ったり話したりしてるの見るの好きなんだ。ほかのどの子よりもキラキラして見えて、俺まで楽しくなれた。それがなくなったら俺悲しいよ。姉ちゃんだって、きっとそう思ってるし」

 そんな風に思ってくれているの、知らなかった。胸が熱くなり、涙がこぼれそうになる。でも私は今ここで泣くべきじゃないと思い、涙をこらえた。

「ありがとう。そんな風に思ってくれて」

「うん。小さい頃からの仲でしょ」

「そうだね。私、栞に謝ってくる。ありがとうね、拓」

 そう立ち上がった私に拓は「待って」と引き留めると、さっきの缶ジュースを2本渡してきた。

「お守り。仲直りした2人で飲みなよ。ここで」

「・・・・・わかった。ありがとう」

 そう私は受け取ると、くるりと振り返って深く息を吸った。

 大丈夫。10年以上一緒にいたんだもん。私たちはそう簡単には壊れないよね。私の恋だって、きっと栞なら応援してくれる。

 一歩踏み出さなきゃ。

 そう思ったとき、後ろから走って来るような足音が聞こえてきた。


《了》







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