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蒼龍 葵
2024年6月4日 13:52
「今日もご来店ありがとうございます、荵さん」 私の言葉に物凄く驚いた様子で彼は固まっていた。それもそうだ、私が彼を荵さんと呼ぶのはこれでやっと2回目。「マキちゃん、嬉しいよ! やっと僕の事を認めてくれたんだね」 人前で堂々とハグしてきたがもう同僚の羨望と憎しみの眼差しなど気にしない。 あの日、新しい場所で楽しそうにしている忍を見てモヤモヤした感情が吹っ切れたと言えば、吹っ切れたのかも
2024年6月21日 18:12
用事を全て終えた私は忍に連れられて寂れた海岸へ来ていた。ここには昔から何度も忍と一緒に来ている。母さんの呪縛から逃れたい時に。 静かな波の音を聞いて、2人で心を穏やかにしていた昔を思い出す。 別に有名な場所でも無いので人気も殆どなく、ある意味私達だけが知っている秘密の穴場のような所だった。「──なあ、麻衣。俺に言い忘れている事ないか?」「えっ!? え、っと……」 懐かしさを噛み
2024年6月24日 08:59
麻衣、と呼ばれた瞬間私はもうこれで忍はまた離れてしまうのだと目を閉じたまま覚悟を決めた。 忍は明るい性格で昔から男女問わずモテる。多分、澤村さんのような可愛い彼女だってまたすぐに出来るだろう。私がいつまでもくっついていたら忍にとって迷惑にしかならないのだ。「はぁ……また早とちりしてんだろ」 嫌われる、離れられると思いきや想像していたものは全くこなかった。 ここで泣いたらダメだ。泣いた