本を読もう!(7)

 『  墨子よみがえる  
       ″非戦″への奮闘努力のために  』
    半藤一利   (平凡社ライブラリー)


 『論語』や『孟子』『十八史略』などを高校の漢文の授業で読みましたが、配られるプリントはいつも白文でした。確かに白文からすぐに書き下し文ができれば、そのひとは文法に関して完璧です。
 けれども、限られた時間のなかで学習するのが半ば漢文の宿命とするならば、文法プラス先取り学習的に諸子百家等の内容について深く学ぶことにも重点を置けば、一層漢文読解の手助けになるのではないかと思います。そうすることで思想や哲学・故事成語等を多種多様に見渡し、歴史はもちろんのこと現代文・小論文対策にも確実になる上、各科目にも有機的なつながりを持たせることができます。

 7回目を迎えました「本を読もう!」シリーズで、今回ご紹介させていただくのは『墨子』ですが、墨家が掲げる「兼愛」の思想を、当システムに通うくらいの若い世代の皆さんがどう受け止めるのか、大変興味深いものがあります。いつかの機会に是非、生徒の皆さんに『墨子よみがえる』の感想文を書いてもらいたいです。

 『墨子よみがえる』は、墨子そのものの解説書というより、(昨年お亡くなりになられた)半藤一利氏ご自身の少年期の体験など、さまざまなエピソードを交えつつ、今この世界にとって墨家の信念ほど求められているものはない、という氏の確信を強いメッセージ性を持って書きつづったものになっています。半藤氏のことばは、氏が生涯に渡って長く深く歴史を考察なさってこられたからこそ語ることのできる至言であり、そしてそれはまさに次のこのことばに集約されていると思います。 

 ″人として最後まで守るべきは何か、尊ぶべきは何か。”          
 
 私がこの本を是非読みたいと思った直接の動機は、故中村哲氏と著者との対談「民主主義で人は幸せになれるのか?」が収載されているからです。

 中村哲氏の訃報を聞いたとき、ことばでは言い表せないほどの重い気持ちで押しつぶされそうになりました。
 半藤氏が「日本の墨子」と敬意を表してやまない中村哲氏のアフガニスタンにおける献身的な活動を、私はかなり昔から知っていました。その実直な姿勢に衝撃的な感銘を受けてからは、中村哲氏の存在がいつも自分の心のなかにあり続けてきました。

 『墨子よみがえる』の対談は、もう何度も繰り返し読んでいます。そして読むたびに「有言実行」ほど難しいものはないと、その度に胸に迫るものがあります。


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