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欲しい色だった


 約400年だかに一度のとても貴重な月食を見ようと思い、夕食後すぐに海辺へと車を走らせたものの、月があるらしき方向には厚い雲が満遍なく広がっていて、月が重なる瞬間はおろか星すらもまばらにしか見えなかったが、時々雲の切間から覗いていた一等星がすごく眩しくて、月食のせいか星たちの落ち着きがないような感じがした。
 雲の向こうで起きている奇跡を目の当たりにできたのは、スマホで見たSNSの中であった。肉眼では絶対に見えない精度の月がいろんなアングルで動画やら写真やらで切り取られていて、そのどれもがたった一つの月のものであることを思うと少し変な感じがした。
 駐車場で夜空を見上げた時には、すでに重なり終えた赤い月が浮かんでいて、なんだよここで見えたのなら初めっからここで突っ立っておけばよかったじゃないか、と思ったけれども、ついさっき車を走らせていたときに見えた海は暗くとも綺麗だったし、波の音も心地よく、原因不明の頭痛も冷たい潮風を浴びることで和らいだのだった、と瞬時に思い出した。

 すべて、本当にすべてにおいて、過ぎたことは仕方がなく、良くも悪くも奇跡っていうもんは私が何をどうしようとも必然的に起きてくれるものなのだと思いながら眠った次の日もまた、原因不明の頭痛に苛まれ、そのまま仕事に向かった。
 その日の昼休みに自宅へ帰る途中、やっぱり頭が痛いし、なんかもはや痛過ぎてムカつくな、なんて思いつつ、眉間に皺を寄せながら運転をしていたら、道路脇に咲いている花に目がいった。通り過ぎた上に目も悪いので、あれがなんていう花なのかわからないけれど、(じっくり見たってきっとわからないのだろう)
オレンジと赤のグラデーションが綺麗で、丸みがあって、とにかく可憐だった。パッとそこだけが光って見えて、本当にドキッとした。
いつもの通勤ルートなのに、そこに目を奪われるまで気づかなかったのが不思議なくらい、とても綺麗な花だった。そのとき、(ああ、私が今欲しかったのはこれだ)と咄嗟に思ったのだった。これこれ、これです、欲しかった色、欲しかった刺激、欲しかった感動。この胸のときめきはそういうことなんでしょう。
 だけど多分ここにピンクや黄色の花が咲いていたとしても、心を奪われたのならば同じように思ったかもしれない。だけどあの花を見て心がそういうハッピーな誤作動を起こしたので、今の私にはあの花が必要だったわけで。
そのおかげで私の頭痛は少し和らぎ、心も少し軽くなったのだった。感動することを忘れていたのかもしれない。人間に戻れたような気がした。

 それにしてもなんだってこんなに、微妙に、ゆっくりできないものかとモヤモヤしていた。私の要領が悪いのだろうか。いや、割と結構、頑張っている、はず。

 前向きに捉えれば充実していて、後ろ向きに捉えればなんか自由な時間がない、ということだ。創作をする時間も、読書をする時間も、欲しいだけを欲しいままに得ることができず、なんとなくそれっぽい時間を使って過ごしてみるものの、心の中に微妙な空腹感を覚えていた。だけどそれをストレスに感じたいわけじゃなく、どうにかうまくできないものかなあ、と考える日々。
 どうやって生きていても時間は勝手に過ぎていくので、結局はすべきことをこなしていくほかなく、空白の時間なんてのは、歳をとっていくほどなくなっていくものなのだなと痛感した。そもそも今までが自分だけの時間で生き過ぎていたのだと思う。鬱病で引きこもっていたときは、息をするだけで一日が終わっていたのだから。そこと比べるのはもう無理な話で、今はとにかく、一日一日が大事。
 生きるためには食事や睡眠が必要で、清潔を保つためには掃除が必要で、その他もろもろ、自分が心地よく生きるために必要な生活水準を保つためのタスクが案外たくさんあるわけで、ああ、めんどくさい、なんて人間てめんどくさい、色々と放棄してしまいたいと一瞬は思うわけだけれども、でも性分上、そんなこともできないから、やっぱりどこか、うまいことできたらいいなあと思う日々です。だけど幸せにかわりはなく、楽しんだもん勝ちだとは思っている。忙しいことの楽しみ方のバリエーションを増やしたい。

 そんなこんなで、ずっと日記を書かずにいたわけですが、元気です。
 毎月読んだ本をここに記録していたのだけれど、読む暇もなければ読んだけれども読んだような気にもなれず、しばらく記録はおいといて、日記形式でちょっとずつ残していけたら良いなと思い、そのまま。
 最近やっと読むことができるようになって、ああこれだこれだ、この楽しさが私は心地よいのだったと思い出すことができてきて、心の隙間を埋めるように物語が染み渡っていくのを感じています。
 読むことは生活の中に含まれている「普通のこと」であり、義務ではなく、だけど、読みたいという気持ちに応えたくてモヤモヤしているのは、その「普通のこと」ができなくなっているからだと思った。毎日がイレギュラー。イレギュラーだと思わなくなるまで、あと少しかかりそう。
 
 こんなことを書いている今は11月。12月がくれば2022年がおわってしまうのだという当たり前のことを改めて思ってびっくりする。もう一年終わっちゃうの。早くないか。私の中身は果たして成長したのか。ふわっとしている気がするぞ。
 年越し前に今年のベスト本を紹介しているのだけど、できるだろうか。間に合うかな。まだ出会えてない本もある気がする。残り1ヶ月と少しで、読めるだけ読みたい。

 そして、読書をテーマか、生活をテーマかで、エッセイ形式でnoteに綴っていきたいと思っている。何にしようかな。模索中。


 今日はいい天気なので朝から掃除や洗濯をやっつけ、予定もないので一日中読書やら創作やらに使いたいです。できれば。

 良い一日を。

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