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コロナに負けず、働きながら博士号を目指してみる社会人のお話(後編)

はじめに

オコジョが好きなAnyTechの立浪です。最近は、イタチ科動物の画像を分類するモデル開発を目論んでいます。ついでに社会人ドクターもしています。

このエントリは前編のエントリの続きです。例えば、他の大学は考えなかったのか、社会人ドクターとして何をやってるか、どうやってAnyTechと両立しているのか、などの話を書いていくことにしますね。前編をご覧になっていない方は、前編から読まれることをおすすめします。

他大学の博士後期課程への検討

前回のエントリの通り、博士後期課程へ進学を決めたのはいいですが、それで、周囲に相談もするんですね。それで、ここの博士でいいのか?という意見もありました。実際、そのアドバイスは的確で、新設研究科ということもあり、体制は整っておらず、学生の平均レベルも率直に言ってあまり高くはなく、研究についての相談相手も限られている。昨年度は貧乏研究室で(なお、研究室の名誉のために今年は貧乏ではないこと、年々学生のレベルが上がってきていることは主張しておきます)、何かと不自由がある。この状況でこのまま進学するのはどうなのか?と、他人の目からも、そして自分でも感じたのです。結局、そのまま上に進学することを決めたのですが、どういう経緯でこのような決断にいたったのかをお話します。

2021年のGW前後、いくつかの研究室にコンタクトとってみました。正直、人気がある学生が多いところは博士後期課程からはあまり積極的には採らないのかなという印象でした(返事がないなど)。それでも、複数の研究室の教員や学生の話を聞くことができました。

実際、他の研究室の方々と話してみて感じたことは、結局、どこでにいようともやることは変わらないんですね。そこを修了することによって、国内レベルでのブランディングの恩恵を受けることはできるかもしれません。国際レベルになると結局は自分次第と思いました。その上で、大きく2つの理由で今のまま進学したほうがよいと思いました。

最初の理由は、教員や周囲の興味の幅にも私自身も影響されるということです。今まで、そして今もお世話になっている研究室のボスは、ご自身の興味の幅が広いです。コンピュータサイエンス界隈での研究歴は浅いですが、理論物理出身ということもあり、端的にいうと頭がいいんですね。そういうこともあり、興味の守備範囲も広げても立ち行くのだと思います。その点でポジティブな影響を受けるとは思いました。

もう一つの理由は、コミュニケーションです。大学院は、自分と指導教員、あるいは周囲の人々との相性というのはどうしてもあります。これはかつての数学を専攻していた頃の経験からも言えます。同じことを説明するのに、1だけ言って伝わる人もいれば、10言わないと伝わらない人もいるわけですよね。10言わないと伝わらない人にどう伝えるか訓練するなら後者のような環境もよいかもしれません。ただ、何年か社会経験も積んでいるのでアカデミア以外の場所でこのような経験は多少なりともありました。ですから、私にとっては1だけ言って伝わる方が都合が良かったのです。この観点では、現指導教員といままで積み上げてきた関わりと、現指導教員の能力のおかげで、円滑なコミュニケーションができるようにはなっていました。実際に他大学の方々と話してみて、現状よりもコミュニケーションへの負荷が上がるとは感じました。

そういうわけで修士課程と同じ研究室にお世話になることにしました。

今どんな研究をしているか?

後日詳しく書くと思いますので、今回は簡単に触れておきます。私自身は、画像認識に使われるニューラルネットのアーキテクチャやその理解することに関心を持っており、今はこの観点の研究を行っています。研究テーマとしては基礎寄りになります。ディープラーニングやコンピュータビジョン分野における本質的な改善を期待できるので、間接的に多くの人に影響を与えられると思います。レッドオーシャンではあるので、加速力が大事なのかと思います。

どうやってAnyTechと両立しているのか

「大学院行くから、会社なんて辞めたるわ!!!!一身上の都合により…」 これも一つの考え方かもしれませんし、実際そういう人もいます。でも、私は働きながらのドクター取得を目指しています。もちろん、時間は限られていますので、就業後や土日の多くは研究に時間を費やすことになります。ただ、余暇に使える時間が少なくなることについては、少なくとも博士後期課程に進学するような人は興味を持って取り組んでいるはずですから、慣れてしまえば問題ないでしょう(はい、そこ!独身だからこんなこと言えるんだろうというツッコミはしたらいけませんよ!!)。

会社で普通に勤務しながら、ドクターをとるメリットはいくつかあります。貯金を削る必要はありませんし、リタイアしたとしても露頭に迷うことはありません。減るものは学費と時間だけなのです。また、精神的に余裕があるほうが研究のようなクリエイティブな作業は捗ると私は思いますので、安定的な生活の確保は研究にとっても良い影響をもたらすと思います。また、研究はうまくいかないことも多いですから、仕事という別のことをすることでいい気分転換になるのかもしれません。つまり、フルタイムの学生と比べて、ネガティブなことばかりではないのです。そうはいっても、週5の仕事は重いのも事実ですから、来年度以降、週4などに減らすことも検討したいとは思っています。

フルタイムの学生と比べて社会人ドクターのデメリットは?これは皆さんおわかりでしょう、「研究時間」ですね。フルタイムの学生と比べて、研究に費やせる時間は減ってしまう中、どうやって成果を出していくのでしょうか?昨今、私のような社会人ドクターには少しずつですが優しい時代になってきています。パンデミックの影響で、Webミーティングが主流になり、無駄な時間を節約することができるようになりました。弊社も、大学も、ミーティングの大半がリモートで問題ありません。通勤の時間はなくなりましたし、今まで無駄になっていた1日のうちの1時間や2時間が有効に使えます。また、ディープラーニングの研究は訓練に待ちが発生することも多いです。訓練の待ち時間は同じリソースを持っている他の人とは変わりませんから、フルタイムの学生と比べて圧倒的に不利になるようなことはないと思っています。それに、研究に費やしたトータルの時間よりも、毎日研究に触れることのほうが大事だと思います。ローマは一日にしてならずです。弊社のような理解がある会社であれば、仕事だけの1日になることはほとんどありません。信じるか信じないかはあなた次第です。

さいごに

2回のエントリに渡って、私の社会人ドクターの経験を踏まえた稚拙なエッセイを披露させていただきました。社会人ドクターって大変そう、とは言っても、結局のところ条件を整えれば、うまく回るんですね。ただし、あくまでも情報系の大学院を前提とした話ですので、他の領域については参考にしないでください。実際、数学をしていた頃にお世話になった教員にこう言われましたしね。「数学は時間を湯水の如くつかう学問だ」と。


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