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お気に入りな本を5冊

#推薦図書

というお題を見つけたので、学校っぽい感じでご紹介を。

前回は90年代演劇作品でした。これは2000年代でご紹介ができれば、またの機会に。

小説がいいのか、それともエッセイがいいのかとか、いろいろと悩みましたが、あんまりジャンル分けが適切な話でもないので、気にせず選んでみました。

まずは

沢木耕太郎さんの「一瞬の夏」です。あえて文庫ではなく、この体裁の合本版を紹介したのは、デザイン含めて素晴らしい出来栄えだからです。新潮社の書籍の装丁は素晴らしいものが多く、他にも手にとって見るだけでも、すごいなと思わせる書籍が多くあります。この「一瞬の夏」は上下巻が単行本、文庫本と続いたあとに、改めて再販されたときに一冊の体裁になりましたが、ペーパーバック風のサイズに、透明カバーのついた素晴らしいデザインです。そしてもちろん中身も文句なし。実際には沢木耕太郎さんが応援していたボクサー・カシアス内藤さんの復帰と二度目の挫折までを描いた作品。実際にあった出来事をベースに、新聞小説として連載されたものです。カシアス内藤さんはすでに亡くなっていますが、お子さんがボクサーとして活躍されています。この作品の良いところは、作者自身の行動であるにも関わらず、感情により過ぎない描写を心がけているところ。沢木耕太郎さんはずっと好きな作家で、「深夜特急」などもありますが、自分は「壇」がものすごく好きな作品です。あの「壇」と「一瞬の夏」は描く対象への距離感と、その相手への優しさがすごくにじみ出ています。この「一瞬の夏」もカシアス内藤選手は懸命にバックアップしてもらうのに、途中から心が折れて敵地ソウルでの試合に完敗します。もちろんがっかりな出来事なんですが、それでもそういう出来事も含めてボクシングなんだと受け止めている。そういう対象への思いというのが沢木さんのいろいろな文にはにじみ出ていて、自分は読み続けています。これからどういう作品を描かれていくかはわかりませんが、おすすめという点ではこの作品をご紹介しておきます。

2つ目は

間違いなくこの小説は傑作だと思います。小林信彦さんは、今でこそエッセイストというか、時評を少し書かれたり、以前であれば親交のあった渥美清さんについての書籍を出されたり、昔は有名な「オヨヨ大統領シリーズ」なども出てくるかもしれませんが、こと小説に関しては自分はこれが一番だと思っています。これはある若手のライターが文芸誌を任されてから、一気に飛躍して売れて、さらに放送作家としても名を馳せたあとに、時流から外れて寂しく表舞台から離れていくというストーリーです。この流れがかなりのボリュームで描かれていきますが、まったく飽きる感じがなく読み続ける事ができる作品です。これも半ば自伝的な要素を持っていますし、実名に近い登場人物が出てくる中、当時の業界の裏側っぽい雰囲気を感じつつ、一人の物書きのある瞬間のきらめきと陰りが描かれています。この作品も強い感情の思い入れみたいなものが、文章の中には感じられず、起こった出来事に対して時代の流れとどうマッチして、気がつくと外れていたのか?みたいなところが個人的には非常に好きなところです。

そして3つ目

また小説ですが、この冲方丁さんの最初の作品、今回は単行本で再販された改訂版です。基本ストーリーの違いはないので、Kindleなどで読まれても良いのかと思います。少女売春をしていたルーン・バロットが最終的に自分を殺そうとした相手を告発するために、ウフコックという仲間と一緒に戦うというあまりにも有名なSFストーリー。何度も読んでいますが、後半のカジノでのギャンブルのシーンは素晴らしいところです。あの緊張感を文章であそこまで伝えてくれる作品はそんなにはない。それくらい主人公が勝つか負けるか?の緊張を味わえるとは思いませんでした。後日談というか二作目を読むと、この一作目の味わいが更に高まるというおまけ付き。

こちらもあわせて読んでおいてほしい作品です。

4つ目は

池澤夏樹さんも好きな作家さんですが、小説よりはこういう書評が個人的には好きです。その中でもこの「海図と航海日誌」という作品は装丁の素晴らしさもさることながら、この作品の冒頭にある「読書とはその時間、物語の世界に旅をしていること」という内容の文章があってものすごく自分の中に入り込んだことを覚えています。先ほど紹介した沢木耕太郎さんと池澤夏樹さんはそういう意味では、自分の読書体験の中で非常に大きな影響をくれた方々だと思います。この本は基本的に書評集なので、ここに出てきた小説などをまた自分が読んでどう感じるか?がいいのかなと思います。プルーストとか紹介していますが、多分ここに出ていなければ手に取らなかったと思います。書評って自分の読書体験を広げてくれるという意味では、ありがたい入り口だと思っています。

5つ目は

原りょうさんの最初の作品です。寡作な作家さんですが、この「探偵沢崎シリーズ」だけをひたすら書き続けています。最初の作品を選んだのは、多少ご都合主義てきなストーリーでありつつも、日本の中にハードボイルドの世界をきちんと作ったという点で評価しているからです。新宿という猥雑な街の一角にアメリカの探偵小説のような空気が出来上がる描写とキャラクター設定。そういう難しそうな世界を、しかも探偵という職業でしっかりと作り上げた。話もテンポよく進んで楽しく読めるものです。最近の作品は多少描きたいものに変化も生まれたのだと思いますが、いずれにせよこの作品は後にポケミスで再販されるくらいの作品。原さんは当初の原稿をそのポケミスの体裁で出版社に送ったというくらいの方。その結果、ポケミスで再販ということはそういうことからもこの作品のいろいろな意味での価値は高いなと思っています。二年ほどまえに、原先生のトークショーに参加することができたときは非常に嬉しかったです。質問コーナーで話すこともできて、非常に貴重な時間を過ごせました。

という感じで、日本人作家で縛ったわけではないのですが、なんとなくこういうラインアップになりました。海外作家さんは個人的にはミステリー寄りになりそうです(笑)。

ということで、推薦図書のご紹介でした。

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