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「怒らせてはいけない連中を怒らせた」

●アメリカン・アウトロー


 時は1865年4月、南北戦争に南軍ゲリラ兵として参戦していたジェシーとフランク・ジェームズ兄弟は、仲間たちと共に大いに暴れまわっていた。
 しかし、リー将軍率いる南軍が降伏して、戦争は終結したことを知る。彼らの想いは1つ――故郷ミズーリに帰ること。
 久しぶりの我が家では、ジェームズ兄弟の母が温かく迎えてくれたが、彼らの土地は危機に瀕していた。鉄道の敷設予定地にある農場は、全て鉄道会社が強引に買い占めを行っていたのだ。
 自分たちの土地を守る為、彼らは「ジェイムズ=ヤンガー・ギャング団」(James-Younger Gang)と名乗り、ゲリラ戦を開始する。鉄道会社の物資供給を断ち、取引先の銀行を次々に襲って資金を強奪、その様子を自ら新聞に寄稿したり、困窮する農民に金を分け与えたりして人々を味方につけた。

 天性のカリスマで自然に人を魅了してしまう行動派の弟ジェシー、俯瞰した視点から思慮深く計画を提案する知性派の兄フランク、そして気心の知れたヤンガー兄弟たちから構成される個性的なギャング団は、独特の均衡を保ちながら縦横無尽に西部を駆け抜ける。


 だが向かうところ敵なしのジェイムズ=ヤンガー・ギャング団の前に、1人の男が立ちはだかった。彼の名はアラン・ピンカートン。大統領の身辺警護からアウトローの追捕までこなす「ピンカートン探偵社」の創設者である。
 鉄道会社社長はジェシーたちを「農民」と侮り、早く捕まえて絞首刑にするようピンカートンに要請するが、ピンカートンは焦らない。

「彼らは農民じゃない。調べたところ、全員が参戦していた。破壊工作と兵法を知っており4年間の戦闘経験を持っている。統制がとれ、よく訓練され、カリスマ的な指導者もいる。もし完璧な無法者の一団を作れと言われたら、まさしく彼らがそうだ」
(Hardly farmers. I've done some checking. All these were in the War. These men know sabotage, tactics, and have four years of bloody fighting experience behind them. They are disciplined, well-trained and have a charismatic leader. If I were to design the perfect outlaw band, this gang is what I would create.) 

 彼はギャング団の動向を慎重に探る。そして同時に、ジェシーによって自分の動きが探られていることにも気付いている。決してジェシー・ジェームズを侮らないからこそ、アラン・ピンカートンは強敵なのだ。彼は社長に言い放つ。

「私の専門的な見解としては、あなたは怒らせてはいけない連中を怒らせた。(中略)面白いゲームの始まりだ」
(My professional opinion is that you have managed to piss off the wrong bunch of farm boys this time.…We're beginning an interesting game here, Mr. Rains.)


 斯くして、ジェイムズ=ヤンガー・ギャング団とピンカートンによる、命がけのゲームが開始された。若く恐れを知らないが故の輝きと脆さを併せ持つギャング団は、老獪な好敵手の出現により、分裂の危機に晒される。凱歌をあげるのは、果たしてどちらの側になるか。


  銀行や汽車での大立ち回り、酒場の喧嘩、コルトにダイナマイトにガトリング砲と西部劇の約束事を押さえた冒険活劇の中で、私たちは目撃する。現在の私たちをも魅了するアメリカン・アウトロー、ジェシー・ジェームズの伝説が形成されていく様を。
 彼はピンチの時ほど面白そうにニヤリと笑う。そう、伝説は、こういう所から始まるのかもしれない――どうしようもなく1人の男の微笑みに惹きつけられてしまう所から。



●備考


・動物が死ぬシーンなし。銃撃や血が出るシーンはあるが比較的軽めの描写。程々のアクション映画が大丈夫な子どもなら鑑賞できると思われる。


・ジェシー・ジェームズ役の重責を担ったのはアイルランド人コリン・ファレル。監督は当初、西部劇にアイルランド人ということで少し不安があったようだが、コリンは積極的にスタントもこなし、大胆不敵な演技を見せた。


・俳優たちは役作りとして1か月間、乗馬や射撃などのカウボーイ訓練を受けた。撮影は2000年夏にテキサス州ウィンバリーの牧場で主に行われた。気温が37度以上を越える日が続き、俳優もスタッフも大変だったという。


・切れ者アラン・ピンカートン役に4代目007も務めたティモシー・ダルトン。若手の多い本作に、重さと渋みを添えた。メイキングを見ると、若手俳優たちにとって彼から学ぶことが多かったと分かる。


・ジェームズ兄弟の母役にキャシー・ベイツ。信心深く、素朴な家庭料理を皆にお腹一杯食べさせてあげる「西部の母」を演じた。


・コール・ヤンガー役にスコット・カーン。実の父は『ゴッドファーザー』でファミリーの長男ソニーを演じたことで有名なジェームズ・カーン。お父さんにそっくり!


・博識なフランクが引用する「女性の眼から見出した教義、それはプロメテウスの炎の如く煌めく。書物であり、芸術であり、学びの場である。女性の眼は全世界を示し、内包し、育成するのだ」(From women's eyes this doctrine I derive: They sparkle still the right Promethean fire; They are the books, the arts, the academes, That show, contain and nourish all the world.)は、シェイクスピアの喜劇『恋の骨折り損』(Love's Labor's Lost)から。


・他にもジェシー・ジェームズ関係の映画を観たい→「ジェシー・ジェームズの暗殺」(2007)
こちらはブラット・ピット主演でジェシー・ジェームズの晩年を描いた作品。1881年9月にジェシーが34歳の誕生日を迎えるところから物語は始まり、彼と仲間たちの運命を冷徹に映し出す。アウトローたちの狂気と破滅に焦点を当てているので、「アメリカン・アウトロー」とは全く異なる作風ではあるが、ジェシー・ジェームズの魅力とカリスマ性は変わらない。兄フランクや妻ジーなど、共通の登場人物もいるので見比べるのも楽しい。

・レンタルDVDに英語字幕がなかった為、英語の台詞引用はScripts.comのスクリプトを参考にした。


●ひとりごと


ジェシーがジー・ミムズを誘ってダンスするシーンが楽しくて好き。コリンの踊り方が少しアイリッシュダンス風?

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