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ありがとうと言えなかった、秋。

いつもありがとうございます。そして皆様はじめまして。
note初心者、ぞうさん。と申します。

熊本地震で水浸しになってしまった昔の日記の、読める箇所を少しずつnoteに書いております。また、当時や、今の出来事なども不定期で書こうと思っています。


結婚した当初、東京世田谷の、桜新町というところに住んでいました。
近くにサザエさん通り、長谷川町子美術館などがあり、とても閑静な場所でした。最寄りの駅は桜新町駅、ここから田園都市線に乗り、二子玉川や渋谷などに出かけていました。

妻が里帰り出産で実家に帰る前、どうしても二人が出会った場所をデートしたり、映画を観たいというので、体調がよく、比較的気温も暖かい日を選んで横浜方面に電車で向かいました。
電車は混んでいて、私はお腹の大きな妻の腰に手を回すような形で支えつつ、つり革につかまって時折揺られていました。
学生さん、お年寄り、家族連れの方、仕事に向かう人、いろんな人達が乗っていて、私は窓から景色を眺めながら映画の事や、生まれてくる子供の名前の事などをぼんやり考えていました。

すると、「おい!!、妊婦さんがずっと立って揺られてんだぞ、前の奴とか席譲ってやれねーのかよ!!そんなんも出来ねーのかよ?」

大きな声でハッとしました。
恐る恐る声の方を確認すると、私たちの対角線上のつり革付近に、まだ若いであろう男の人達3名が乗っていました。
大学生か高校生か、いわゆる金髪の方でした。

前に座ってウトウトしていたであろう中年の男性の方が、「気づかなくてすみません、どうぞ」と、妻に促してくださり、隣の方も「あ、どうぞ」と、私にも言って下さったので、「あ、私は大丈夫です。恐縮です、ありがとうございます」とお礼を言いました。

ドキドキしながら声を発してくれた若い人に目をやり、出来れば会釈くらいしたかったのですが、新しく乗車してきた乗客に遮られ、場所が確認出来ないまま、いつの間にか姿が見えなくなりました。

まるで何事も無かったかのように時間は過ぎ、それから楽しい一日を過ごす事が出来ました。

声を出してくれた男の人には感謝の気持ち、また席を譲ってくれた方には申し訳ない気持ち、周りに気を遣わせてしまった自分達に対しては、配慮が足りなかったなぁ、と夫婦で反省しました。

その後妻は無事に里帰り出産を終え、元気な男の子を産みました。
優しく逞しい子に育ってほしね、と話す時、いつもこのデートへ向かう途中の電車の中の話題になりました。
あの男の人みたいに勇気ある人になって欲しいなぁと、笑いながら話をしました。

二人の子供は、あれからだいぶ大きくなりました。
妻の生前の写真を見ながら、この話をしてあげています。

いつかコロナが落ち着き、当たり前の日常に戻ったら、三人で東京に行き、私達が昔過ごした思い出の場所を探索してみるつもりです。

 


私の記事に立ち止まって下さり、ありがとうございます。素晴らしいご縁に感謝です。