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映画感想文 「なぜ死んでしまうのか」ペイフォワード

この先、ネタバレ満載です!





 トレバー君は、この世界を最悪だといいます。
 母親はアルコール中毒であり、その更生に努力するも全く成功しておらず、酒を飲んでいないと息子に嘘を付きながら飲んでいます。
 父親は、妻にDVするクズであり、妻を妊娠させただけで蒸発、育児を放棄して音信不通です。
 そして、近所には浮浪者のたまり場があります。
 そんな環境であれば、トレバー君が最悪と感じるのは当然でしょう。
 彼は、シモネット先生から社会が君に期待していることは何かという問いに対し、何もないと答えます。きっとトレバー君は、社会に希望を持っていないし、何かを期待することもないのです。
 しかし、トレバー君は、ペイ・フォワードを実行することで世界を変えていきます。
 そしてなんと、彼は若くして死んでしまいます。
 この映画を見ている人は、最後にトレバー君も幸せになることをきっと期待していたはずです。手術が成功する結果を期待したでしょう。
 では、なぜ彼は死んでしまったのでしょうか。あまりにも不条理なトレバー君の最期に疑問が生じます。
 しかし、私は、トレバー君のあまりにも悲しい最後の意味は、全くもってその逆なのだと解釈しています。
 あまりにも早すぎる最期、その意味とは、彼が天に召されたことなのだと思います。
 ペイフォワードによって人を幸せにして、その人が別の人を幸せにすることを世界に広めました。
 例えば、シモネット先生は、今までの価値観から一歩踏み出すことにより、自分と全く価値観の違う女性と結ばれます。母親のアーリーンは、DV旦那を追い出し、アルコール中毒を遂に克服し、許せなかった母親のグレイスを受け入れます。その他にも、グレイスや薬物中毒の浮浪者、犯罪の常習犯等、様々な人々に影響を与えたのです。
 何かを変えるには、最初の一歩を踏み出すことが重要なのです。
 トレバー君自身は、誰からも幸せを受けることがありませんでした。しかし、最悪の世界が少しでも良くなるよう、人々に一歩踏み出させたのです。その姿は、まるでキリストのようです。
 彼はナイフで刺されたとき、空を見上げます。きっと、天を仰いだのでしょう。
 その次のシーンでは、彼を俯瞰しながら上昇していくというカメラワークです。それは、天、即ち神様の視点なのでしょう。
 そして、その時の音楽は、天使の詩なのです。
 そう、トレバー君は、この最悪の世界である地上から解き放たれ、幸せになったのです。

 この映画のテーマとは、「自分の人生を豊かにするためには、勇気を出して一歩を踏み出せ。あきらめるな。そして、その一歩が別の誰も幸せにするんだ」ということだと思います。

 さて、ここからは演出やキャラクターについてです。
 まずは、トレバー君です。
 彼は、家庭では暴力的です。それは、父親を倒したいという願望からでしょう。
 そして、彼は父親の愛情を求めています。だから、シモネット先生や浮浪者等、関係を持つのは大人の男性なのです。
 次にシモネット先生です。
 先生は、世界を変える方法という課題を生徒たちに出しますが、自分を変える勇気を持っていません。
 過去の経験やコンプレックスから、今までの生活、即ち価値観に満足し、異なる価値観を受け入れようとしません。ですから、価値観の全く異なる女性に好意を抱いても、受け入れません。
 恋愛とは、自分が傷つくことがありますし、相手を傷つけることもあります。愛するという気持ちは、かなり強い感情ですから、時に殺意と成り得ます。ですから先生は、恋愛という人生のリスクを避け、現状維持を選択してきました。
 しかし、人は一歩を踏み出すことにより、他の人と関係を持つこと、即ち自分以外の人間の価値観を受け入れ、人の人生に係ることに幸せを感じます。
 リスクを承知で一歩を踏み出してこそ、人生なのです。

 最後になりましたが、この映画はトレバー君の物語です。そして、トレバー君を含め、みんなが幸せになるストーリなのです。
 そして、映画の主人公はシモネット先生であり、そのテーマとは「勇気をもって、一歩踏み出せ」なのだと思いました。

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