大好きだったあの人vol.19


静岡を超えた辺りだろうか…

パーサーが「どうぞ」と追加のおしぼりを持って来てくれた。

アタシは「ありがとうございます」と涙声で答え、おしぼりを受け取る。

パーサーはそれ以上何も言わずにニッコリ微笑み会釈して席を離れた。

さすがのアタシも少し冷静さを取り戻し、人前で泣いたコトが少し恥ずかしくなってきた。

化粧室に立ち、涙でグシャグシャになったマスカラを整える。

今思い返しても小っ恥ずかしいハナシだ。
シンデレラエクスプレスで大泣きしてる小娘。
恥ずかしいドコじゃねえよ。
二度とできねぇ。
ってか二度もやるモンじゃない。


席に戻ったアタシは決心する。

東京へ行こう。

彼が何て言ってもいい、「来ちゃダメ」って言ってもアタシは東京へ行く。

彼の居ない街に居たってしょうがない。

アタシは彼の近くに居たい。

彼の側に居たい、ずーっと一緒に居たい。

言おう、家に帰ったら彼に電話して

「東京に行く」

って言おう。


帰りの新幹線の中で、彼に何て伝えるかずーっとシュミレーションしてた。

家に帰るタクシーの中で

「カッコよく伝える必要なんてないな」

って思った。

ありのまま、今思ってるコトをストレートに伝えればそれでいい。

否定されても構わない。


家に着いてすぐに彼に電話する。

時計は0:30を回っていた。

「着いたよ」

「お疲れ様だったね。明日も仕事でしょう?
ゆっくり休みなさいね」

「Sちゃん、アタシ、東京へ行く」

「え?」

「Sちゃんの居ないココにいてもしょうがないヨ。
アタシ、Sちゃんの側に居たい。
だからアタシ、東京に住む」

彼はしばらくの沈黙の後、

「わかったヨ。
東京に住むなら僕の家にしなさい」

「アタシをSちゃんのお嫁さんにしてくれるってコト?」

「僕の家に住むなら当然でしょう?
来月の夏休みにこっちへおいで。
それまでの間に僕の家族にアナタのコトを話しておくから。
次は僕の家においで、家族に会ってくれる?」
と言った。


アタシは胸が高鳴った。

アタシをお嫁さんにしてくれるって言った!

彼が家族に会ってくれって言った!

やっとアタシを連れて行ってくれる気になってくれた!

それがとても嬉しかった。

やっと願いが叶う。
そう考えたら、二週間会えないコトなんてへっちゃら、そう思えた。


彼はまた東京駅まで迎えに来てくれた。

確か、電車を乗り継いで彼の家まで行ったんだったと思う。

あー、アタシもこうやって山手線使って“東京さ“の人間になるんだーって思ったような気がする。


彼の家は東京のベッドタウンになってる街だった。

住宅街で戸建住宅がたくさんあって、高いビルはほとんど無かった。
六本木とかの都心とはずいぶん雰囲気違うんだなぁって思った。

“東京さ“でもこんな住宅街あるんだー。
なんだか田舎とそんな変わんないなって。

ま、日本の第二の都市大阪だってベッドタウンはこんな感じやし、人の住んでるトコなんてどこだってさほど変わりゃしないんだろうが…


彼の家に着くと、玄関の外に彼のお母様がいらっしゃった。

アタシは俄然緊張する。

「いらっしゃい、遠い所から大変だったでしょう?」
と声を掛けてくださる。

「は、初めまして!突然お邪魔して申し訳ありません」とアタシは深々とアタマを下げた。

「さ、暑いしお疲れでしょう?
中に入って冷たいお茶でも飲みましょう」
気さくに笑うお母様に救われた気がした。

この記事が参加している募集

#眠れない夜に

69,218件

#忘れられない恋物語

9,120件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?