『死んで星になる』(桃萌)

死んだら星になりたいって、どうしても理解できない。たとえばわたしたちがほんとうに死んだとき、何になるんだろう?花や星や風の声のような、ふと思い出されるような、フィクションでよくありがちな、そういう生まれ変わりを想像するかもしれない。

けど、花は摘み取られてしまうし、星の名前は忘れられてしまうし、風はなにも伝えられないだろう。望まない花言葉を付けられても糾弾できなくて、一等星のシリウスに勝てなくて、誰かの悪意くらいしか運べなくて、あなたが死んだことはすぐに忘れ去られる。眠りすぎたあなたは、輪廻できない。

よく考えてみれば、星は棲み家だ。ちょうどいい感じの温度で、薄い生命をつなげられるくらいの餌があって、おなじ水槽を泳げるなかまの魚だけがいるような。わたしたちはそういう都合のいい星を、生きてるうちに見つけないといけない。ちがうと思いながら、太陽が明るすぎる星にいてはいけない。わたしたちはひどく猫背だから、眩しすぎる光を見るのが億劫なのだ。そこにある、甘ったるい生クリームも、無邪気ないきものも、隠されないナイフも、ぜんぶ、あなたにとっては毒だから。

あなたは、いちめんの星空に憧れてる。だけど、星のカケラのひとつひとつをしらない。こんぺいとうのひとつぶひとつぶをしらない。おおきな瓶に詰められたカラフルに憧れてるだけで、いちごか檸檬かを確かめることはしない。だから、魔法も使えないくせに、いびつなホウキをだいじそうに手のひらで掴む。狼になれないくせに、満月に向かって叫ぶ。あなたには、なにも見えていない。

あなたは星になれない。星になりたいくせに、あなたは光ることができなくて、それなのに誰かの光を拒絶する。
あなたは星座になれない。はくちょう座になりたかったのに、あなたは醜いアヒルの子で、編むべきところをまちがわれた。なにも見えないから、ほどくのに時間がかかって、神話にもなれなかった。

あなたは、星になれない。


中西桃萌

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