anemos アネモス

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『染色』(桃萌)

誰が手を離したのだろう 型取られた感情と形容されない言葉 夏と冬が共存しないように 秩序だけが線引くのは空虚か 気まぐれは流動か 氷を咀嚼できない古い傷の痛み 欠伸を噛み殺したまま食いしばった歯 舌を怠惰で醜い曲線にする 目を逸らしたいほどの眩しさ 瞳を差すことで、あなたは手を離した

    • 『また砕いて、すり潰して』(愛理)

      何度も何度も、同じ夢を見る。 ギリ、ギリ。 夢の中で、砕ける。 砕けるまで、歯を食いしばる。 夢の中で、痛い、痛い、そう思っても。 自分で緩められない。どうにも出来ない。 朝起きたら、 頬の内側にうっすら残る痛み。 『歯ぎしり 治し方』 『ストレスを溜めないように心がけましょう。』 うんざりだ。 そんな抽象的なこと言われたって、どうしようも無い。 どうやら歯ぎしりって、ストレスの発散のために食いしばっているんだって。 マウスピースはすきじゃない。 不格好になっ

      • 『察してよ』(桃萌)

        よく耳にする言葉。 「察してよ」「空気読んでよ」 それは察せなかった者への怒りであり、 空気を読めなかった者への咎めである。 それを聞くたび、ごめんねって、一応思う。 申し訳なさそうな顔で、下を向いてみたりもする。 でも、「察してよ」って、すごく理不尽だ。 察することができるのは、自身の主観による常識や物事の範疇である。 その「主観」は、私の知識とか経験とかから作られた、オリジナリティ溢れる「主観」だ。 その「主観」によって、誰かから受け取ったふにゃふにゃの情報を

        • 『歳をとるのが楽しみな話』(愛理)

          「若さは最大の武器」 「今がいちばん華なんだから」 高らかに告げるそんな文言に、どこか鼻白む私がいた。 22歳の私は、まだまだ生きづらい。 世間で言う「若い」におそらく自分は入るけれど、 エネルギーがぱんぱんに溜まった感情に振り回されてばかりだし、人の目を気にしては疲れていて。 知識も足りない。経験も足りない。すべきことはどこかで分かっているのに踏み切れない。頭と心が一致しないもどかしさを抱えている。 まだ見たことないものが多すぎて、いちいち臆病だし、勇気は出ないくせ

        『染色』(桃萌)

          『エピローグまで』(桃萌)

          変幻自在な「じぶん」を見事に操る。その方法論は結晶みたいに複雑だけど、経験則が指差すから迷わない。雷紋の一筋を流れるその明るく眩しい銀は、ツヤツヤで繊細で、完璧な私だ。 「じぶん」はコントロール下に置かれている。喜怒哀楽は統計的で、操作性が高まるにつれてそれは簡単なゲームになる。 Aで人を笑わせて、Bで人に共感する。360度まわる矢印のボタンを勢いよく斜めにくねらせて、誰かの感情を急かす。 画面の中の小さな私は、ステージを次々とクリアするようにめまぐるしく対話をこなす。

          『エピローグまで』(桃萌)

          『祝福』(愛理)

          ※今井夏子「星の子」のネタバレを含みます。 今井夏子さんの「星の子」という作品を読んで、「信じる」ことについて考える。 数年前、この作品の主人公を演じた芦田愛菜ちゃんが「信じる」とは何かをインタビューで答えていて、 作品も知らなかった私は、ただ凄いなぁなんてぽかんと思っていたっけ。 22歳の、私。 星の子を前にして考える。 「信じる」ってなんだろう。 かつての私は「信じる」という言葉を軽々しく使っていた。 今思えば当時の私の「信じる」は、「期待する」でしかなかった

          『祝福』(愛理)

          『愛と勇気だけが友達さ』(日向子)

          アンパンマンマーチの歌詞読みなおした、きのう初めて気づいたんだけれど、アンパンマンは真の孤独なんだ。ほんとに愛と勇気だけが友達で、どれほど胸の傷がいたんでも愛と勇気のために生きてるんだ。へんに友だちを作ると愛と勇気を守れなくなってしまうから。  アニメの内容はそこまで覚えてないんだけれど、たぶん、アンパンマンが誰かを悲しませないに自分の顔を分けてあげたり、悪いことをするやつを殴ったりする、そんなアニメだったはず。 アンパンマンがどんなキャラクターかと問われたら、アンパンマン

          『愛と勇気だけが友達さ』(日向子)

          『フェアリー・ゴッド・マザー』(桃萌)

          3歳のころから、私の中にはフェアリーゴッドマザーがいた。 暗い場所を選んで泣くことが多かった。幼いわたしにとって世界は知らない言葉と知らない感情ばかりで、何もかもが分からなかった。きっとそれが誰からも許されなくて、わたしは何回もわたしを殺した。信じたものはぜんぶ星屑みたいにほどけて、うるさい雨音になった。よく分からないまま泣いて、よく分からないまま眠った。 そうしてわたしの小さな心臓からこぼれ落ちた繕われた悲しみと冷たい夢は、溶けて、フェアリーゴッドマザーになった。 フ

          『フェアリー・ゴッド・マザー』(桃萌)

          『きねんび』(桃萌)

          くるしいのはわたしだけじゃないことを確認して安心するのは、他人の不幸をビリビリに破って半分ずつ分け合うことなのか。傷を舐めあって、お互いの塩分で真っ赤に爛れさせてしまうのか。 まいにち毛繕いする動物のように、いつか崩れてしまう毛並みを整え続けるのは、逃げることとおなじなのか。 だれも肯定してくれないのなら、おなじ動物どうしで手をつないでぴったり寝ることしかできない。ことばにしたら押しつぶされてこなごなになってしまうから、わたしたちはなにも見ないしなにも聞かない。 世界がわた

          『きねんび』(桃萌)

          『花束』(桃萌)

          人間の心は底なしだから、どれだけ大丈夫をもらっても暗いほうへ落ちていく。まわりがいろんな色の、いろんな形の大丈夫をくれるのに、暗いほうに落下した瞬間、それは粉々になってキラキラ鳴きながら散る。 明るさは痛みや不快をもたらすから、耳鳴りがするほどの不幸を吸い込みたいんです。あなたがくれた優しさは、わたしがおおきな音を立てて咀嚼してからばらばらになり、真っ黒に液状化した共感と融合する。あなたの優しさは黒に溶けて、キラキラわめく。あなたの優しさだったキラキラはあまりにうるさいから

          『花束』(桃萌)

          『幸せの定義』(桃萌)

          苦しくならないように1番上のボタンをあける 立ち上がる前にひとつぶのチョコをくちに含む いつもより大きな音で好きな音楽を聴く 私が生きやすいように、 あなたを傷つけないように、 意地悪じゃなくてできること ことばを理解すること 水の中で息をすること 空を飛ぶこと 同じくらいに冷たい手を繋ぐこと 純白ではないが透明で 消えがちな淡く脆いマヌス 私が息をしやすいように、 あなたに気づかれないように、 幸せを定義できるように。

          『幸せの定義』(桃萌)

          『夢』(日向子)

          夢を見ている暇はなかった 私たちはただ朝起きて、空洞の頭蓋で朝の支度をして 夢を見ている暇はなかった 数字とにらめっこする、その数は 私が毎日心の数を減らすことで、やっとのことで手に入る 朝起きるという健やかな生活 すべては明日いきていくための 明日 同じ夢をみないための この夜 あなたと一緒におなじ夢を見ること それだけが私の夢だった あちらの世界で 喜びは この夢が私に隠された本当だといった 貴方のほんとうの姿を一生見ることはない 私のほんとうの姿を貴

          『夢』(日向子)

          『春』(桃萌)

          空気が冷たい理由は定かじゃない。ひんやりとした冷たさより、張りつめた冷たさ。 鼓膜の閉鎖感に気が付き、少し考え耳鳴りだと理解する。目を瞑ってしまうほどまっすぐな音が頭を循環する。 それが後頭部に退くのを見守りゆっくりと目を開けると、正面に1人の少女が座っている。 わたしは電車が発車するのを待っている。座席に座り、薄暗い外の景色を見ていた。 わたしは、音楽について問いたいようだった。 「あなたは音楽がすき?」 わたしは微笑んで言った。誰に?目の前の少女に? 少女は何も言

          『春』(桃萌)

          『悩むことって、贅沢かも』(愛理)

          こないだ、初めてひとりバーなるものに挑戦した。 …うん、そわそわする。 隣の人はさっきから物思いにふけっている。 奥の人は窓の外を見ている。 私も真似事をしてみたけれど落ち着かない。慣れていない。 文庫本を出しては、仕舞い。 スマホを開いては、閉じ。 バーテンダーさんに話しかけられ、陰キャ全開で噛み倒してしまった。 私の指が、助けを求めるように動く。 「1人飲み 何する」 「1人飲みではぼーっとしてみましょう。 普段の生活では1人で落ち着けなくても、ここでは考え事

          『悩むことって、贅沢かも』(愛理)

          『働けるおまえのためのうた』(日向子)

          おまえのために。テンプレートをつかって宛てたメールを効率良く処理する。電話口のおまえに共感を示しながら、商品のいいところをすり込む。おまえは隣の席の他愛もない話に笑みを浮かべて相槌を打つ。数字を追うのも苦しくない。電話に出るのも怖くない。強い心の、傷つくことをおそれない、全部、おまえのためにやる。働くことは案外むずかしくないおまえのために書く。逃げなくてもうたえる、働きたくないけど働ける、世の中に価値を生み出す、周りのひとと溶け込む、おまえに、詩がある。わたしとおまえはうたっ

          『働けるおまえのためのうた』(日向子)

          『ハニーディッパー』(桃萌)

          パンにピーナッツバターを塗ることに幸せを感じられるようになりたい。 パンが焼けるのを待って、こんがり焼けてることを確認して、ピーナッツバターをすくうためのスプーンを用意して、はしっこの部分までていねいにそのどろどろを塗るためには、ゆっくり生きている必要があるから。ふわっとしたゆっくりないつもに、幸せを感じられたら。 チーズを1枚乗せてオーブントースターにまかせるのもシンプルでいいけど、ちょうどいい小麦色の焦げ目をミルクチョコレートみたいな色のかたまりで塗りつぶすことには、

          『ハニーディッパー』(桃萌)