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ライブ備忘録:ASIAN KUNG-FU GENERATION Tour 2016-2017 「20th Anniversary Live」 @日本武道館 2017.1.11

 2021年で結成25周年を迎えるロックバンド「ASIAN KUNG-FU GENERATION」。
 今まで何度か「アジカン」のライブを観に行ったが、今回はそのなかで2016年年末から2017年年始にかけて行われた結成20周年記念アリーナツアー(5会場7公演)のセミファイナル、日本武道館公演2日目について書く。この日のライブはまさに伝説的なものだった。

 ライブ自体は2017年1月の開催だったが、実際はチケットを2016年5月の時点ですでに購入していたため、そこからの半年以上、このライブの当日が来るのを待ちわびていた。

 当日はスタンド1階席、ステージに向かって左側の座席でライブを観た。この日のライブはチケットが完売しており、アリーナから3階席まで多くのファンで埋め尽くされていた。

第1部

 いつものアジカンのライブと違い、ステージには前方、左側、右側の三方向がスクリーンで覆われており、開演前にステージの様子を把握することは難しかった。
 開演時刻の18時半を少し過ぎた時間に場内は暗転。
 すると暗転と同時に、ステージ右側のベース担当・山田にスポットが当たり、ベースイントロが印象的な初期の代表曲「遥か彼方」(アニメ「NARUTO」のオープニングテーマとしても有名。)のイントロの演奏を始めた。

 メンバーがすでにスクリーンの内側にスタンバイしていたことにも驚いたが、1曲目から代表曲をスルッと披露したことで、この日のライブが特別なものになることをすぐに確信した。
 サビでスクリーンが開くのかと思いきや曲の終了まで幕は開かず(終始映像が投影されていた。)、そのまま後藤が3rd Album『ファンクラブ』収録の「センスレス」のイントロを弾き出す。
 スクリーンには「音速のスピードで文字に酔う」という歌詞にちなんでか、カタカナの文字が絶えず流れ続けた。(2006年から2007年にかけて行われたアリーナツアーの演出を踏襲しているらしい。)
 『ファンクラブ』のジャケットの色合いと合致する白黒の画面が、楽曲の持つシリアスさをより鮮明に映し出す。
 この楽曲でもスクリーンは落とされずメンバーの姿を拝まないまま2曲が終了したが、3曲目「アンダースタンド」で後藤が「イェー!!」と叫ぶと同時に紗幕が落ち、メンバーが姿を現した。このときに、場内の照明が全灯状態となり、会場中も一気にヒートアップ。演奏に合わせて多くの人がハンドクラップをした。

 3曲の演奏が終了し、メンバーへの歓声が飛ぶなか、後藤による最初のMC。

「どうもこんばんは、ASIAN KUNG-GENERATIONです。今日はありがとうございます。20周年ツアー、武道館2日目。リラックスして、自由に楽しんで帰ってください。」

後藤正文・MC。

とここでは言葉少なめに次の曲のセッティングへ。
 伊地知がワルツのリズムでドラムを叩きだし、「暗号のワルツ」へ。さらに無数のテレビ画面がスクリーンに映し出される印象的な演出があった「ブラックアウト」と『ファンクラブ』楽曲が続く。

 アジカンの歴史の中でも比較的暗めのアルバム『ファンクラブ』の楽曲は普段のライブではそこまで多く披露されることはないため、これらの曲がアニバーサリーツアーという形で大会場で(しかも大画面を使った迫力ある演出込みで)演奏される、ということはとても嬉しく、バンドの音やスクリーンの映像などをできるかぎり耳や目に焼き付けようと必死だった。
 さらに普段はアンコールなどで披露される定番曲「君という花」を6曲目というスロットで披露。武道館中が間奏部分で「ラッセーラッセー!!」と叫ぶ様子は予想はできたことだが、やはり実際に体感するととても爽快なことだった。

 ここで再びメンバーのMC。
 ここで印象的だったことはボーカルの後藤が自身のソロバンドや、ドラムの伊地知が所属しているインストバンド「PHONO TONES」を冗談交じりで比較に出し、ソロの方が音楽的な豊かさがある、としたうえで「アジカンには勝てない」と語ったことだ。
 さらにその理由を4人が集まったときの無茶苦茶なエネルギーがあるとしたうえで、「アジカンに勝るバンドはもう組めない」と後藤は語った。
 ASIAN KUNG-FU GENERATIONは大学時代の同級生で結成したが、普段のメディア出演時やライブのMCなどで、わざわざ仲良しこよしな演出をすることはなく、お互いがわかりやすくメンバーへ感謝の言葉を述べることもなかった。
 だがこの日後藤は特に感慨があるなどもなく、自然にメンバー、そしてASIAN KUNG-FU GENERATIONというバンドのすごさを語っていた。
(その後、ギターの喜多を「顔でギターを弾く人」、ベースの山田を「真人間でいてくれてありがとう」、ドラムの伊地知が飲んでいるドリンクを「尿」といじっていたが。)
 結成20年でメンバー(特に後藤)が大げさな言葉を使わずとも、ここでのMCでの空気が、バンドが最高の状態であることを雄弁に語っていた。

 「昔の曲も新しい曲もやるけど、新しい曲があまり盛り上がらなくてもあまり拗ねないから」という後藤の自虐的なMCもあった後に披露された曲は昔も昔、1曲目の「遥か彼方」と同じデビューミニアルバム『崩壊アンプリファー』に収録された「粉雪」。
 さらに日本、そしてアジカンにとっても転機となった東日本大震災以降に発表されたシングル曲「マーチングバンド」「踵で愛を打ち鳴らせ」が続く。

 震災以降、後藤の歌詞はより社会性を帯びていったが、その時期を象徴する2曲が連続で披露されることは、このライブがただ結成20年を祝うのではなく、アジカンが対峙してきた「社会」とあらためて向き合う機会としても機能していることを表していた。
 ただシリアスサイドに寄りすぎることもなく、次の「今を生きて」(この曲自体も震災から2年のタイミングの2013年2月にリリースされたシングル曲ではある。)では楽曲の持つ祝祭感が「結成20周年」のお祭りとダイレクトに結びつき、場内もバンドを祝福するように手を叩き、声援を送った。

 
 デビュータイミングで使用していたスタジオの部屋名を曲名に使ったという裏話もあった初期曲「E」では

できるだけ遠くまで連れて行くよ僕らを
浮かんでは沈んだり彷徨っては

ここから僕のスタート
そうさすべてが窄(すぼ)み行くとも
ここから君のスタート
その手伸ばせば目の前さ、ほら
広がりゆく未来へ

「E」

という歌詞が、アジカンがスタジオで作った楽曲が、ファンだけでなくバンド自身をたくさんの場所へ連れて行ってくれたという事実があるからこそ、より感動的に響いた。
 さらに近年の代表曲「Standard / スタンダード」「ブラッドサーキュレーター」(2016年にアニメ「NARUTO -ナルト- 疾風伝」オープニングテーマとしてOA。)を連続でプレイ。

 「ブラッドサーキュレーター」では真っ赤なライトがメンバーを照らすなど、楽曲の世界観に合わせた演出が特徴的だった。
 サポートキーボードの下村亮介(the chef cooks me)のピアノのイントロで始まった「月光」で一度クライマックスを迎え、メンバーはステージを去った。

第2部

 この時点で演奏した楽曲は14曲。アジカンのワンマンは本編だけで20曲以上を演奏することが多いため、この退場は次に向けての準備であることは容易に想像できた。
 この時点で『ワールド ワールド ワールド』(2008年)や『マジックディスク』(2010年)、そして何よりもツアー直前の2016年11月にセルフカバー作品をリリースした、バンド史上最大のヒットアルバム『ソルファ』の楽曲が1曲も披露されていない。
 メンバーのいないスクリーンには最新のアーティスト写真(2016年の『ソルファ (2016)』リリース時の写真)から順に遡っていく演出がなされていた。
 メンバー(特に後藤)の髪型の変化などに時折笑いが起こりながら、写真は2004年の『ソルファ』リリース時まで遡った。ここでアーティスト写真が2016年の写真とピッタリ重なり、『ソルファ』のジャケットが印刷された服を着た4人が現れた。

 伊地知のカウントで演奏された楽曲は『ソルファ』の1曲目を飾る「振動覚」。そう、ここからは『ソルファ』の再現ライブが始まったのである。
 「振動覚」の次はもちろんバンド最大のヒット曲「リライト」へ。2016年バージョンでは間奏が長くなっており(ライブバージョンを元にしたアレンジ。)、今回も長尺のダブセッションが行われた。

 もちろんそこからのラスサビではダブセッション時の静寂でため込んだ、いつも以上の大声で「消してーーーー!!」と叫ぶこととなった。
 2016年バージョンの曲順に従い、次に演奏されたのは「ループ & ループ」。

 スクリーンには歴代のアジカンのCDジャケットが映し出され(一部例外を除きすべての作品がイラストレーター「中村佑介」によるものである。)、アジカンの歴史を「イラスト」という側面でも振り返ることができた。

 ライブ定番曲「君の街まで」(ザリガニMVでお馴染み。)の後にアルバムの曲順通り演奏された「マイワールド」「夜の向こう」「ラストシーン」の3曲は近年のライブではほとんど演奏されることはなく、「ソルファ完全再現」だからこそのスペシャルパフォーマンスとなった。
 さらに「サイレン」、ライブで長年行われていた長尺イントロセッションがついに音源にもフィーチャーされた「Re:Re:」と続いていくわけだが、こうして並べて聴くと、この時期のアジカンのサウンドのハードさ(「Foo Fightets」のようなハードサウンドを目指した2015年のアルバム『Wonder Future』の影響も含まれる。)や歌詞の内省性、文学性などがより印象的に伝わる。(このアルバムの楽曲の多くの歌詞に「夜」もしくはそれにちなんだワードが登場する。)

 『ソルファ』ゾーンも終盤へ。これまたあまりライブで披露されない「24時」、音源ではパーカッションも心地よい「真夜中と真昼の夢」と「夜」ソングを連発。
 本編ラストはもちろん『ソルファ』のラストナンバー「海岸通り」。ここまでの11曲はメンバー4人のみで演奏してきたが、ここで「ポルノグラフィティ」などのサポートでお馴染みのヴァイオリニスト「NAOTO」率いる「NAOTOストリングス」の面々が登場。ツアー全公演をサポートしているようで、ここではバンドメンバーと一緒に「海岸通り」を演奏。
 2016年の音源では旧音源になかったストリングスアレンジが行われ、音が豪華になっただけでなく、楽曲の持つ切なさがより際立つようになった。
 この日のライブでもストリングスの演奏がバンドの演奏と一体化し、アジカンのライブでは味わったことのない高揚感が生まれた。

アンコール

 演奏をやり切ったメンバーはストリングスメンバーと共に再度ステージを去った。
 アンコールの手拍子が続くなか、やってきたのは後藤1人。
 アコースティックギターを持ち、「ソラニン」を弾き語りで披露。

 演奏後、後藤は楽曲制作やバンドを始めたころの自身について話した。
 人よりバンドを始めた時期が遅かったからこそギターをとにかく練習したこと、いつか絶対誰かに見つけてもらいたくて曲を作っていたこと、などを赤裸々に話した。
 MCからの流れで後藤はもう1曲「Wonder Future / ワンダーフューチャー」を弾き語りで披露し、ステージを後にした。

 後藤と入れ替わるように他のメンバー3人とサポートキーボードの下村がステージに上がった。
 もしやという予感通り、ここからはギターの喜多がメインボーカルを務めるコーナーが始まった。
 アジカンはこれまでシングルのカップリングで喜多がメインボーカルを務める楽曲を5曲発表してきた(ライブ開催時は4曲。)が、今回は2016年発表の「タイムトラベラー」「八景」を披露。
 初期から主に高音コーラスを担当してきた喜多だが、ある意味歌声は後藤以上に特徴があり、これらの楽曲も喜多のボーカルが前面に出た「歌モノ楽曲」であり、喜多の歌声を楽しむことができた。

 後藤、さらにNAOTOストリングスも再登場し、ステージにこの日の出演者全員が集結した。
 後藤と喜多による「高音トーク(?)」があった後、後藤のスキャットから2010年発売の6th Album『マジックディスク』収録の「さよならロストジェネレイション」へ。
 原曲にはないストリングスやスクリーンに映し出される歌詞が楽曲をよりエモーショナルに掻き立てた。
 後藤は以前インタビューで、2010年9月から2011年3月にかけて全70公演を行っていたライブツアーの終盤に予定されていたホール公演にて『マジックディスク』収録楽曲の一部をストリングスとともに演奏する計画があり、実際にリハーサルも行っていたことを明かしていた。
 しかし2011年3月11日に発生した東日本大震災によりライブは中止になり、披露の機会はなかった。
 それから約6年のときを経て、そのときと同じ選曲、アレンジかどうかはわからないが『マジックディスク』収録のこの曲が無事ツアーで披露されたことは、アジカンが震災後も第一線で、時に歌詞や後藤のツイッターでの発言などが「政治的」と揶揄されながらもメンバー一丸となって活動を続けたからこそある奇跡のようなものであると思った。
 さらに『マジックディスク』からもう1曲、シングル曲でもある「新世紀のラブソング」をストリングスとともに披露。

 後藤が当時ヒップホップなどそれまでのアジカンにはなかった音楽要素をギターロックと絡めた新機軸として制作した楽曲で、『マジックディスク』の多様な音楽性を象徴する1曲である。
 こちらも全編でストリングスアレンジが冴えわたり、この曲の持つスケール感をさらに押し広げて、歌詞にある「愛」や「希望」といったメッセージをより感情的に響かせた。
 個人的には今まで観てきたアジカンのライブで特に印象に残ったアクトと言えば、このときの「新世紀のラブソング」を挙げたい。

 演奏が終了し、残響が響くなかNAOTOストリングスのメンバーが退場。アジカンメンバー4人とサポートキーボードの下村がステージの真ん中へ。
 後藤が、下村、山田、伊地知、喜多を紹介。最後に喜多が「ボーカル・ギター、後藤正文」と後藤を紹介したのち、5人で一礼をした。
 演奏を終えたメンバーの顔は充実感に満ち溢れており、観客は惜しみない拍手を送り続けた。
 全32曲、計3時間。祝祭感だけでなく、変わり続ける社会や「ロック」という音楽に向き合い続けるバンドのこれまでとこれからを味わうことのできた最高で贅沢なライブだった。


セットリスト

1.遥か彼方
2.センスレス
3.アンダースタンド
4.暗号のワルツ
5.ブラックアウト
6.君という花
7.粉雪
8.マーチングバンド
9.踵で愛を打ち鳴らせ
10.今を生きて
11.E
12.Standard / スタンダード
13.ブラッドサーキュレーター
14.月光

15.振動覚
16.リライト
17.ループ & ループ
18.君の街まで
19.マイワールド
20.夜の向こう
21.ラストシーン
22.サイレン
23.Re:Re:
24.24時
25.真夜中と真昼の夢
26.海岸通り

27.ソラニン (後藤弾き語りVer.)
28.Wonder Future / ワンダーフューチャー (後藤弾き語りVer.)
29.タイムトラベラー
30.八景
31.さよならロストジェネレイション
32.新世紀のラブソング

内訳

・8th Album『Wonder Future』2曲。
・7th Album『ランドマーク』1曲。
・6th Album『マジックディスク』3曲。
・3rd Album『ファンクラブ』4曲。
・2nd Album『ソルファ』12曲。
・1st Album『君繋ファイブエム』3曲。
・1st Mini Album『崩壊アンプリファー』2曲。
・2nd Special Album『フィードバックファイル 2』1曲。
・2nd Best Album『BEST HIT AKG 2 (2012-2018)』1曲。
・1st Best Album『BEST HIT AKG』1曲。
・アルバム未収録カップリング曲 2曲。





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