土曜日だけの珈琲店
ガラスの窓から射し込む、透き通る光に照らされ白んだ店内には、
ハンバードハンバードの陽だまりのような歌が、心地よく響いている。
仕事でせわしなかった平日が嘘のように、ゆったりと時間が過ぎていく。
都内で働く私たちを、土曜日はいつだって優しく迎えてくれる。
この日のために金曜の夜から生地を寝かせてつくった、バナナブレッド。
完熟バナナのキャラメリゼがじゅわりと溶け出した、
濃厚な甘みを抱いたしっとり生地を、淹れたての熱い珈琲で流し込む。
混ざり合いなめらかで穏やかな甘みとなって、幸せな時間が訪れる。
まるで紅茶のようだな。
お気に入りのエチオピアは、豆の個性をはっきりと主張しながら、
薫り高い酸味とマンゴーのようなとろみを残して身体の中に沁みていく。
思えば、いわゆる喫茶店の深煎り珈琲が好きだった私たちに、
コーヒー豆そのものの味の表情の豊かさを教えてくれたのは、
「Coffee Wrights」のコーヒーだった。
いつの間にかバナナブレッドは姿を消して、お腹の底に熱い余韻を残す。
海から届く淑やかで湿った風が、今日も誰かをこの珈琲店に運んできてくれる。
さてさて、どんな人と出逢える1日になるだろう。
ゆっくりのんびり待ってみようか。
そんな、土曜日だけの珈琲店。
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