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49. 脳は心の影響を受けやすい感傷的な場所




 普段ほとんどテレビを見ない。BS放送「いもたこなんきん」(田辺聖子の半生を描いた朝ドラ)、NHKの料理・趣味番組、映画くらいである。それが、この頃はNHKの「ヒューマニエンス」40億年のたくらみ、という番組をちょいちょい見るようになった。サブタイトルは、「人間らしさの根源を、科学者は妄想する」。人間の体のしくみや行動変容、病気の謎を科学的な研究データに基づいて分析する番組だ。タレントの織田裕二が、頭をひねって考えたり、汗をかきながら熱い突っ込みを入れたりしつつ、視聴者の思いを代弁するのもユーモラスでいい。

 先日の放送回は、「痛み」は最も原始的な感覚、心の起源というテーマだった。「痛い」という感覚的シグナルは、傷ついた患部から発信されるのではなく、ひとの体全体にセンサーがあって、「今、体にとって危険なことが起こっている」と脳が勝手に生み出した警報信号だという。熱・冷、かゆみも同様だ。

 つまり、痛みは脳があえて作り出したもの。実験によると、脳はいい加減なところもあり、どこが痛いか、どのくらい痛みのがあるのかは、脳の気分次第で変化するという。転んだ子どもに母親が心配して抱き寄せると、急に痛がって大泣きするのもその例だ。また動物は、食事を見せられると、痛みよりも食欲が勝ってしまい、痛みをあまり感じないという結果も笑う。

 もうひとつ興味深いのが、社会や人からの拒絶、辛く悲しい出来事からの感情など。心の痛みと、痛みや熱さを察知する脳の状態は、同じ反応をするという点だ。失恋をして傷ついた人が、元カノの写真をみせられてCTをとると脳内部の扁桃体などが赤く、腫れあがっていた。心と体はつながっている、というのはサイエンスで証明できると知って驚いた。   

 それなら孤独、喪失感、拒絶される悲しみ……、それら「負の感情」を、快復させる自身のストレス解消法をもつことは、健康でいるために重要なファクアーであるのだ! ああ、自分を大事にしよう。いちばんの応援者になろう。自分の機嫌をとって、おいしいものを食べ、良い仲間とふれあって語らいの時間をもつ。旅をしたり、映画や本にふれたり、ショッピングや美術館など好きなところへ出掛けよう。好きなことをすることは、心と体にとっての栄養源となり、心の痛みを回復させる幸福への羅針盤である。科学との神秘的つながりを知るにつれ、人生は面白く生きなくっちゃ! という究極の結論に行きつくわけだ。

 とりあえず、今晩は、なにを食べませう? 笑


某季刊情報誌「ことの葉と歩けば」2022年 AUTUMN号 掲載。一部加筆


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