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古民家から"共創型キッチンスタジオ"までの道のり/vol.1 理想と現実

共創型キッチンスタジオ「Brew」があるのは、高知県の中心地に位置する高知市はりまや町。さらには日本ではわずかと言われる貴重な木製アーケードが特徴のはりまや橋商店街の中。


物件との出会い

まず、私が "食" により深く関わるきっかけになった「こうち食べる通信」の話を少し。「食べる通信」は、東日本大震災がきっかけで生産者を支援したいと誕生した情報誌で、食べていただきたい食材を付録として同梱し、読み物と合わせて定期的に会員さまにお送りするシステムが特徴。高知でも立ち上げたいというご相談があり、私は2019年より2年間「こうち食べる通信」の編集長としてさまざまな地域に出向き、生産者にお会いしてお話を聞いて制作していました。

ちょうど創刊の準備を進めていた2019年2月頃、物件の大家さんより「キッチン付きの貸しスペースを持っている者なんですが・・・」と、購読のお申込みについてお問い合わせをいただき、数週間後に内見に伺わせていただいたのがはじまりです。

▼「こうち食べる通信」のプロモーション映像

商店街側からは古民家とは分からない場所でしたが、公園と商店街のアーケードをつなげるように建っていて、アーケード側のシャッターをガラガラっと上げると、実際に車を止めていた駐車スペース(現在のガレージスペース)を通り抜け奥に進んでいくと、古さを活かしつつ水回りなどは清潔でセンスよくリノベーションされた美しいキッチンスペースが広がっていました。こんな素敵なスペースが眠っていたとは!

大家さんは文化的なことやアートにもアンテナが高い方で食を大切にしていただきつつ一緒に楽しめたり、地域にも広がるような場として運営できる人を探していたタイミングだったそう。

内見当時の商店街側ガレージ

理想と現実のギャップ

まずはいろいろ使ってみて欲しいと言ってくださったものの、ほどなくコロナ禍に突入してしまいますので、イベントを企画しては中止ということも何度もあり、物件と出会った2019年から3年間は、コロナ渦で活動は制御されつつも撮影に使わせていただいたり、可能な範囲で小規模なイベントがボランティア活動などさまざまな使い方を試させていただく期間でした。

もともとこの物件は、大家さんが住まう事をイメージしてリノベーションされていました。住居用と商い用とは同じスペースでも目的が変わるとプライベートだったらOKだけど商売するならこの機能は必須だよね、といったいざ商売をしようと思うと機能的に足りない部分も見えてきたり。大家さんの理想の形と現実の環境にはギャップがあったんだなと。

このお試し期間は、大家さんに取っても私たちにとってもある意味、マーケットリサーチ期間といいますか、立地条件と建物の設備でできること、できないことが明確になってきてその都度少しずつ設備強化していく訳ですが、あるべき姿に近い光が見えるまでには約3年かかったことになります。

通常賃貸で店舗を持つには、家賃は売上の約10%だと言われています。実際Brewは、商売としての顔と地域活動や社会貢献としての顔と、どちらも共存させるって非常に難しいことがこのBrewで体験できたことかもしれません。

目的を間違えるとかえって遠回り

この体験をぜひ同じ挑戦をしようと思っている方の参考になればという気持ちと、振り返りをしっかり記録することでこの経験を次に活かしたいと考えているので、深掘りしておきます。

商品開発に例えるなら、どこで誰に売りたいかが明確でないまま作ってしまってあまり売れていないという状況に似ているのかも。地方でのご相談で良くある流れは、補助金が出るからなんか作りたいと安易な考えから手をつけてしまい、今まで温めていた企画に活かすならまだしもゼロからスタートだと圧倒的に時間が足りず、結果、リサーチもあまりできず手段が目的になってしまい形にはなったけど、え、これって買う人誰なの?が見えづらい自己満足パターン。

今回はスペースなので、少し違いますが、賃貸してるのに売上が無いと、当たり前ですが、家賃、光熱費、人件費はかかるので、赤字を出しながら地域貢献する場になり、長く続かないといった図になりがちなんです。
以下の記事でサンプルとして「Brew」のアイデアシートを共有していますが、最初の段階はこのシートは埋められなかったと思います。

声を聞き続け固まったコンセプト

私がこの5年間、苦しくも続けてきたのはこの場所があったことで出会えた人、人生変わった人、動き出せた人、応援してくれる人、いろんな立場や想いの声を聞き続けてきました。

単純に不動産として物件を賃貸するだけでなく、できれば大家さんの想いも乗せながら楽しんでいただき携わっていただけるような場ってどんな形なんだろうと考えて考え抜いて、ようやく5年目になる2024年ひとつの答えに辿りついたように思います。それが誰もが主役になれるキッチンスタジオ「Brew(ブリュー)」というコンセプト。

vol.2は、コンセプトにたどり着くまでの数々のトライについて共有していきます。以下は撮影でキッチンを使っているシーン。撮影は本当にたくさん使ってきました。

キッチン付きで長時間自由に利用できるスペースは貴重

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