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藤井風「旅路」はシンプルな”THE 藤井風”ナンバーだった

ホールツアーでの初披露からリリースまで、本当に長かった。誰のコピー演奏も、カバー動画も視聴せず過ごすこと2ヵ月以上。やっと聴けた。サウンドも歌詞も、とんでもなく”THE藤井風”ではないか。「旅路」は藤井風らしさを、いっそう色濃くしたスタンダードナンバーだった。

イントロからして、予定調和を見事に裏切ってくれるし、調性感はいつもの通り浮遊する。が、サビでは「ここぞ」とばかりにクリシェできめ、キャッチーで美しいメロディーを聴かせる。そしてやはり歌詞の世界観は首尾一貫しているのだ。

なぜなら藤井風の歌は、彼自身のバイブル(聖書)であり、経典であり、賛美歌だから。迷い、もがき続ける人々へのエールでもある。



「あの日のことは 忘れるね」と手放すことで「わたしが先に忘れよう」放棄と解放だ。「永遠を求めています」「変わらぬものにしがみついてたい」だし、得難いものだからこそ、求め憧れる。

心の奥底ではいつも
永遠を求めています

これからまた色んな愛を受けとって
あなたに返すだろう
永遠なる光のなか
全てを愛すだろう

「与えられるものこそ、与えられたもの」「すべてを愛すだろう」。そして、人の世はいつでも「相変わらず青春」「無常」でもある。

郷愁ただようサウンド

サウンドについては、イントロを聴いた瞬間「アレじゃん!あれ」と膝を打った。「はっぴいえんど」「風をあつめて」だ。

何といってもタイトルが「”風”をあつめて」である。

「はっぴいえんど」細野晴臣、大瀧詠一、松本隆、鈴木茂らによる「日本語でロックを歌う」バンドグループだ。もう解散してしまったが、50年ほど前から、洋楽を意識したクールなサウンドを日本語の歌詞で歌っていた。

藤井風が幼いころからなじんできた音楽は、クラシックやジャズと洋楽、そしてJーPOPだ。その中でも日本語での歌謡曲が彼に与えた影響は、はかり知れないだろう。

「はっぴいえんど」を聴いていなくても、Yaffle氏がアレンジの段階で「古き良き時代の雰囲気を醸し出す魔法」をかけたのかもしれない。(ちなみに藤井風は「風をあつめて」はカバーしていないはず)

シンプルなアレンジが光る「旅路」

「旅路」は冒頭のアコースティックギターのフレーズと、ハネるドラムのリズムがまるでアナログレコードからのサンプリング音のよう。ノイズ混じりのコンプレッサーを使ったような音で始まる。エフェクトの掛かった輪郭のぼんやりした音質に、だんだんと生のクリアなドラム音が重なっていく様子がまた、暗示的でいい。まるで忘れていた昔の記憶が徐々によみがえって、その上に新しい記憶が上書き再生されるようだ。

エレピのバッキングコードはあくまで控えめ。その上に歌いあげず、ほどよく力の抜けたボーカルが乗るのも心地よい。シンプルで品の良いアレンジは、さすがYaffle氏(何様)

ちなみに椎名林檎「丸の内サディスティック」も、似たようなイントロで始まる。スネアドラムのリズムパターンは、こちらのほうが近いかも。


散りばめられる「ノスタルジー」の正体

「お元気ですか?」

このフレーズを聞いて、もうひとつ思い出した人はいないだろうか?1988年にオンエアされた日産セフィーロのCMだ。糸井重里氏のコピー「くうねるあそぶ」で知られている。そして井上陽水氏のセリフ「お元気ですか~?」


わたしは、陽水の楽曲をそれほど聴いたことはない。だが、「旅路」「お元気ですか?」「少年」「ですます調」のフレーズに、陽水に象徴されるようなノスタルジーと昭和を感じてしまう。昭和を知らないはずの藤井風。彼の郷愁漂わせる言葉のチョイスには、いつも唸らされる。


ライブでの披露から、ドラマ主題歌、シングルリリース、そしてテレビ出演まで。長期間、期待をふくらませ続けた「チーム風の手腕」と「旅路」の行方


ネットでは昨年末からのホールツアーで、いち早く「旅路」を耳にしたファンたちから、さまざまな前評判が飛び交っていた。ファンの間では「早くフルで聴いてみたい」期待は膨らむ一方だったに違いない。わたしも焦らされた一人だった。

あわせてドラマ「にじいろカルテ」の主題歌として、日本全国のお茶の間で流れた影響は大きい。何と言ってもまだテレビ、特に地上波は幅広い世代に浸透力があるのだから。

そして2021年、3月1日のシングルリリースと同時に、藤井風は世に放たれる。今夜これから、あの「メディアへの露出が、極端に少ないことで知られる藤井風」地上波、しかも報道番組内で生演奏するのだ。

22~24時は大人のゴールデンタイム。この時間帯にテレビで報道番組を見ている人は性別、階層を問わず案外、多い。藤井風の地上波デビューを、音楽番組より視聴率の高い報道にぶち込んだ河津氏、さすが辣腕マネージャーでいらっしゃる。

どこか昭和のスターを思わせる魅力的な「容姿」、柔和な「物腰」、わかりやすい「歌詞」(韻を踏んでみた)。ことさらオトナ世代に沁みる高い音楽性と演奏力。

最強の武器を一式そろえた藤井風が、全国民を狙い撃つ。注目されない理由はない。


それぞれの「旅路」を胸に

「旅路」をライブで聴いた人、サブスクで何度も味わった人、藤井風の歌とピアノを初めて見る人。さまざまな人がテレビで歌う藤井風を初目撃するだろう。卒業、進学、就職だけでなく人生の岐路を迎えた人も、きっといるに違いない。

音楽は同じ人でも、聴く時々で受け取り方が異なるもの。「いま、ここ」で自分の受け取った印象がすべてだ。音に体を委ねてみたい。

藤井風の「旅路」は、まだ始まったばかり。共に歩むスタッフも含めて、彼らの見つめる未来が、ますます楽しみだ。

藤井風さんのこと、いろいろ書いてます。


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