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「藤井風」の歌を聴け

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藤井風ムーブメントを考察 音楽的解説と歌詞からのアプローチなど
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アートで読み解く藤井風「満ちてゆく」

MVに多く見られる寓意(アレゴリー)寓意(アレゴリー)とは?美術や文学などで、よく知られているアレゴリーには、人は確実に死に向かうことを意味する「頭蓋骨」「花」「果実」「(砂)時計」などがあります。 寓意画ではダイレクトに死を表現せず、象徴的な別のものに置き換えることで、もっと複雑な意味や物語をほのめかせます。”目には見えないもの”を”形あるもの”で表現しているのです。 「満ちてゆく」映像から見えてくるもの次の2枚の画像は「満ちてゆく」のワンシーンです。 ・若い頃の彼

「tiny desk concerts JAPAN」初回放送に藤井風が登場!視聴レビュー

歌とピアノだけで音楽が成立する藤井風にもってこい? 「藤井風がtiny deskに?!さすがNHK!」 告知を見た時、この企画で藤井風を聴ける喜びに、うち震えました。 ボーカルとピアノだけでも、上質な音楽を届けられる藤井風。 tiny desk concertsのコンセプトは、彼にもってこいなんですよね。 tiny desk concertsは「小さな机のコンサート」 タイトルが示すとおり、オフィスの小さな机でパフォーマンスするコンサートです。 この「オーガニック

藤井風「満ちてゆく」 いのちへの賛美歌

・時間をさかのぼって描かれる物語 ================================= 車いすに乗るひとりの高齢男性。彼は、もう自分の足で歩くことは難しくなってしまったらしい。 「避けがたく全て終わりが来る」 年齢を重ねた藤井風が、そこにいた。 「満ちてゆく」のMVは、ある男の”人生の最終章”を描いた物語だった。 ================================ 時の流れとともに深いしわと哀愁を刻まれた額。頭髪と口元にたくわえた髭は

藤井風 HAPPY HOLIDAYS 2023 - ねそべり配信 ”耳福”ポイント

聴けば聴くほど「やっぱり只者ではない、藤井風」 藤井風が2年ぶりに行った弾き語りライブ配信。 彼の「元気な姿が見られるだけで幸せ」な人もいれば、「普段聴けないトークを楽しむ」人、そして「音が聴けるだけでも満足」な人もいます。 視聴する人たちの目と耳、そして心まで温かくしてくれるパフォーマンスの数々。 久しぶりに「鍵盤を操る手元がよく見える」のもうれしかったです。年末で仕事納めもまだなのに、彼の音楽にどっぷり浸ってしまいました。 My耳福ポイント(演奏順) 「眼福(がん

藤井風 「Workin' Hard」 から始まるscrap and build(破壊と再生)の物語

極限まで削ぎ落した「J-popさ」 「Workin' Hard」は、実に洋楽っぽい。 楽曲構成は「まつり」以上にシンプルでHIPHOP味が強い。重めのビートとマイナーコードが印象的だ。短調で始まり、短調で終わる。始終、曲調や雰囲気を大きく変えることもない。 これまでジャジーなコードや転調を多用する藤井風の楽曲は、色彩豊かな絵画のイメージだった。しかし「Workin' Hard」は、あえて深紅一色で描かれているような雰囲気。 「何なんw」を筆頭に「青春病」「きらり」「g

「年齢を意識」する?しない?

若かりしジュリーは総合芸術だった 昨晩、ジュリーこと沢田研二の若かりし頃の映像を見ました。実は親世代のジュリー。彼のパフォーマンスをじっくり見たのは初めてですが、その魅力に、すっかり圧倒されてしまいました。    彼の歌唱力とパフォーマンスの素晴らしさは言うまでもありません。奇抜なデザインの衣装やメイクアップを施し、舞台装置と一体になって繰り広げる歌謡ショーは、変幻自在。まさに総合芸術の域に達していました。 他の誰とも違う 若さがほとばしるジーンズ姿から、キリリとタキシード

藤井風 LAAT大阪 ライブレポート2023/2/7 大阪城ホール

パナスタでのライブから、はや4カ月。 昨年末の紅白歌合戦出場をはじめ、ネットメディアでのあれこれを経て、藤井風はどのように変容しただろう。 いつだって想像の遥か上を行く彼のことだ。サナギが蝶になるかの如く進化しているに違いない。期待に胸を膨らませて開演を待った。 「それでは、」 ストリングスの荘厳な音色が響き渡る中、藤井風が自転車に乗ってアリーナ後方の通路から登場した。 「わぁ…」と控えめに上がる歓声と拍手。藤井風は笑顔を振りまきながら、センターステージの外周をグルグルと

藤井風 持てる者だけが味わう孤独 

持てる者と持たざる者 「天は二物を与えず」という。 「天賦の才」とはいうが、藤井風は天から二物どころか、三物も四物も与えられているように見える。 音楽的才能、美しい容姿、素直で誠実な性格。 そして今、国内にとどまらず世界へと繋がるチャンスも手にしている。 感情を露わにした藤井風 そんな中、昨年末に藤井風がツイッターを全部消した。 「自分の信念は揺らぐことはない」 「他人の事よりも自分の事を考えて」 と言い残して。 彼の音楽に惹かれ追い続けてきて3年あまり。これ

藤井風 LOVE ALL SERVE ALL スタジアムライブatパナソニックスタジアム

藤井風にとって初の有観客野外ライブとなる吹田パナソニックスタジアム。 1970年、スタジアムに近接する万博記念公園では万国博覧会が開催された。 世界中の人々が国境、民族、宗教、ことばの壁を越えて最先端のカルチャーに触れ「人類の進歩と調和」を願った。 2022年現在、じわじわと世界中から注目されつつある藤井風。 その彼の歌声を聴こうと日本中、いや世界中から数万人がスタジアムへ集結。 「風の秋まつり」で時間と空間を共にし、彼の音楽に触れることで明日への希望と多幸感に包ま

藤井風「grace」で到達した世界

昭和のアイドル小泉今日子は「あなたに会えてよかった」と歌う。「やっと逢えたね」と渋く口ずさむのは往年の名優、中条きよしだったろうか。令和のシンガーソングライター藤井風は「grace」で「あたしに会えて良かった」と歌いかける。どれも出会いの喜びを歌った音楽だ。 「(ありのままの)あたしに会えて良かった」 「(ありのままの)自分を愛そう」「何なんw」に始まり「grace」に至るまで、藤井風は首尾一貫している。 彼は自分の中の葛藤をあらわにし、誰かの孤独に寄り添い、願いや思い

 反田恭平のピアノ・ジャム!より 小曽根真が「好きなコードはオルタード」と聞けば…藤井風に繋がった話

反田恭平が小曽根真氏と対談する日が来るなんて!今、クラシックのピアニストで一番注目している反田恭平と、子どもの頃から敬愛する小曽根真さん。これはディープな話が聞けそうだ。とんでもない番組に心躍らせた。 放送の番組後半、小曽根真氏がゲストの部分を聴き直してみると、とても興味深い内容だった。 反田恭平の質問が最高だった。 「小曽根さんがかっこいいと思うコードが知りたい」 対して小曽根氏 (ふつうのG7に比べて)酒とタバコの香りがするような、反田が「初めてウイスキーの匂い

これこそが藤井風の音楽だ!RSR2022代打で魅せた圧巻のステージ

ピアノと身体ひとつだけでアウェーに挑む RSRへはあくまでもVaundyの代打出演。自分の演奏を聴きに来たわけではない聴衆に、急きょピアノと身体ひとつで飛び込んでいく藤井風。いかほどのプレッシャーだっただろう。 固唾(かたず)をのみ、画面の前で見守った。 「トゥルルル~」ピアノには触れず、いきなりの歌い出しでも狂いのない「踊り子」が始まった。絶対音感を持つ藤井風ならではの正確な音程。やわらかだが芯のしっかりしたピアノの音は、まぎれもなく藤井風の奏でるピアノだ。 「練り

「教えて、釈先生!子どものための仏教入門」を読んだ~仏教用語と藤井風

ここ数年間、藤井風をよく聴いています。楽曲を聴き込むうちに、歌詞にみられる哲学的・宗教的な言葉や思想がどこから来たものなのか、そのルーツにも興味を持つようになりました。 「音楽」「歌」「踊り」と「祈り」は切っても切り離せない密接な関係があります。これは洋の東西を問わず、世界中で同じような文化・行事が伝えられていることからわかります。藤井風に関しても「祈り」は欠かせないもののようです。 「愛のメガネをかけて世界を見る」藤井風はMUSICA5月号インタビュー紙面で 「愛のメ

藤井風 完全読本 MUSICA5月号が抽出した風の心音

藤井風が8万字という文字数で綴られた。これは単行本1冊分にも及ぶ情報量だ。これほど膨大であれば咀嚼し消化するのに時間がかかるものだと思っていた。実際にMUSICAを手に取るまでは。 グラビアの如く鮮やかなショットは後でじっくり見よう。そう決めてインタビューページに急いで目を通す。 圧倒的に読みやすい。まるでドキュメンタリー映画を観ているかのようだ。目の前に次々と映像と音声が浮かんできて、あっと言う間に読了してしまった。この記事では、彼の半生についての考察を書こうと思う。