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これこそが藤井風の音楽だ!RSR2022代打で魅せた圧巻のステージ

ピアノと身体ひとつだけでアウェーに挑む

RSRへはあくまでもVaundyの代打出演。自分の演奏を聴きに来たわけではない聴衆に、急きょピアノと身体ひとつで飛び込んでいく藤井風。いかほどのプレッシャーだっただろう。

固唾(かたず)をのみ、画面の前で見守った。

「トゥルルル~」ピアノには触れず、いきなりの歌い出しでも狂いのない「踊り子」が始まった。絶対音感を持つ藤井風ならではの正確な音程。やわらかだが芯のしっかりしたピアノの音は、まぎれもなく藤井風の奏でるピアノだ。

「練り歩けたら~」「あ”る”け」の発音は、しっかり舌を巻いている。英語というより、イタリア語の「R」の巻き舌に近い。「恋風邪にのせて」のアウトロでは、ドライブ感のあるピアノに彼らしさを感じた。Vaundyの曲なのは確かなのだが、藤井風のピアノが入った途端、確実に”風の色”に染まってしまう。

アカペラで始めた「napori」 ハンドマイクを手にピアノの前に立ち、客席に向かって歌い始めた。昨秋の日産スタジアム フリーライブの際、四方へ駆け寄りながらアカペラで歌いだした「優しさ」を彷彿とさせた。


レイドバック気味のピアノ。ハネたリズムに「あれVaundyって、こんなにジャジーだったっけ?」となる。「ハイボールをひとつ」な大人顔のVaundyが浮かんだ。切なさとエモさに拍車がかかってくる。

「napori」のアウトロから、見事なつなぎで入った「東京フラッシュ」。こういう自在なアレンジができるのも藤井風のピアノだからこそ。「Stay~」「Fake~」のファルセットは、よく伸びて美しい発声だった。療養明け、しかもツアー中のハードなスケジュールで、よくここまで体調管理をし、声帯を立て直したものだと思う。

Vaundyのおしゃれなコード進行と都会的なサウンドが、藤井風のジャジーなピアノアレンジとグルーヴによって、全く別の顔を見せる。しかもオリジナルと同じくらい魅力的な表情で。

会場に、そこはかとなく響く虫の音。

北海道の大地は、もはや晩夏というより初秋の空気を感じる。腕にとまったバッタがマイクへと上ってきたのも、洒落た演出の一部かと思うくらいだ。藤井風の弾き語りとくれば、バッタだって近くで聴きたくなるだろう。無理もない。


会場の聴衆のハートをがっちり掴んだあとは「THE藤井風の世界」へと誘(いざな)う


「何なんw」はオリジナルよりも少しアップテンポな演奏だった。このデビュー曲には彼のアイデンティティの全てが凝縮されている

「バラベレン~」でおなじみのスキャットを含むブルージーなフレージング、レイドバック、跳ねるリズム、グルーヴ感あふれるピアノバッキング、浮遊するコード進行と転調、うねるベースライン……。

ファンクとジャズの要素をこれでもかと盛り込んだ「何なんw」間違いなく彼の真骨頂であり、彼のオリジン(起源)だ。この先どんなヒット曲を飛ばそうとも「藤井風が藤井風らしくあるために」末永く演奏し続けてほしい曲の1つ。

「帰ろう」原曲より半音低い変イ長調(A♭メジャー)で演奏していた。深夜という時間帯もさながら、病み上がりの声帯を考慮し、若干キーを下げたのかもしれない。

伴奏専門のピアニスト(コレペティ)なら、歌い手に合わせて±2~3音ほど移調演奏をすることがある。(ただ、この能力には個人差があり、音楽学生でも調性によっては難しいことも)

移調演奏は和声感が優れているだけではできない。指揮者がオーケストラを聴くように、自分の発する音だけでなく、楽曲全体を俯瞰(ふかん)して聴けなければならないのだ。

藤井風は以前、ラジオでの弾き語り中に、瞬時にキーを変えて演奏したことがあった。彼は絶対音感が優れているだけでなく、相対音感も併せ持っているはずだ。指揮者のようにサウンド全体を無意識下に俯瞰できるからこそ、楽々と移調ができるのだろう。

もちろん、彼のピアノアレンジが他とは一線を画している理由はそれだけではない。どんなところが優れているのかは、以前の記事に詳しく書いた。 ↓

「アナタの”藤井風”はどこから?」から一部抜粋


間奏から2番へ入りサビまでのアレンジが、これまた藤井風らしい。細かく刻む右手のコードバッキングと左手のベースラインが複雑、かつ何とも絶妙なタイミングでかみ合っていた。

オリジナル曲をさらに引き立たせるピアノアレンジで聴衆を魅了


King Gnu「Vinyl」も藤井風の手にかかれば、すっかり風風味(かぜふうみ)に。目まぐるしく展開し、サビは「白日」とフレーズやコード進行がよく似ている楽曲だ。

「ぼっけえ(めちゃくちゃ)難しくて……」

といったものの、ひとたび演奏に入ればなんのその。藤井風の重いボーカルは、より刹那を感じさせ、突っ込みがちで鋭いピアノバッキングはドライブ感を増してゆく。

左手がウォーキングベースにアレンジされていたが、これが渋すぎる。ジャジーでおしゃれなのに、ちょっぴり毒を含んだ雰囲気に聴こえた。

King Gnuのオリジナルは基本ロック寄りだが、コード進行は複雑な構成で転調も多い。藤井風がジャジーなピアノアレンジをしたことで、King Gnuの新しい聴きかたもできそうだ。

カネコアヤノ「祝日」ではうって変わって、やわらかな音色のピアノにまっすぐな発声で歌う。世間の艱難辛苦(かんなんしんく)や、穢れ(けがれ)を全て拭い去るような優しい歌。画面を通して清らかな空気が漂った。

Bish「オーケストラ」では、勢いのあるピアノバッキングで明日への希望を歌う。歌い出しには「リリリリ……」という虫の音も加わった。藤井風と虫たちから、感染症禍で余儀なく夏を見送った若者たちへの応援歌のようだった。

「きらり」では、さすがにサビのファルセットが辛そうだった。呼吸器系をやられていたのだろう。声帯に炎症が残っていて声門がうまく閉じないようだ。空気もれの音が聞こえたが、かすれ声でも最後まで歌いきった。飾らず「ありのまま」でいようとする藤井風が見えた気がした。


「お盆」で「フェス」は「まつり」だから


「旅路」になると比較的歌いやすい音域とあって、ボーカルは安定していた。「まつり」「お盆やから……」ということで、自ら振付をレクチャー。アウトロではオリジナルにはないスキャットが登場。これも「何なんw」「やば。」にみられるような藤井風特有のブルージーなフレーズ。彼のボーカルの魅力を存分に発揮していた。

藤井風は「まつりBTS」「もっと儀式的 宗教的な感情をこのビデオに、と」と発言している。

「盆」は日本では墓参りの時期。「まつり」の歌詞にもあるように「生まれゆくもの死にゆくもの~」まさに「あの世とこの世」が交錯し繋がる日だ。里帰りや墓参りの際、先祖や自らのルーツを振り返る人は多いだろう。そんな「ハレ」と「ケ」の境界を漂っているような「まつりMV」の映像も興味深いものがある。

誰の曲をカバーしようと、藤井風は彼の音楽にしてしまう。こんな弾き語りアレンジは後にも先にも「藤井風しかできない」のでは。


天候の都合で音楽フェスが中止になり、体調不良で出演が叶わなくなったアーティストも少なからずいた。藤井風自身も療養を経てのツアー中であり、2日前のオファーとのことで過密スケジュールだったに違いない。

幼いころから訓練によって身につけた絶対音感のなせる技(わざ)だけではない。限られた条件下でも完コピする「プロ根性」と幼少期からピアノを通じて養ってきたであろう「確かな実力」……圧巻のステージングだった。

何よりも藤井風の全身からあふれ出す音楽への愛、そしてアーティストと原曲への深いリスペクトが表れていた。

近江商人の「三方よし」ならぬ「四方よし」クラスの藤井風。
彼はコントでもダンスでもソツなくこなす高いポテンシャルの持ち主だけど、やっぱり「弾き語りは藤井風の最強の武器」なんじゃないか、と思う。

藤井風さんのこと、いろいろ書いてます



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