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アナタの”藤井風”はどこから?

2021年1月21日、ついに藤井風さんの「旅路」が連続ドラマ『にじいろカルテ』(テレビ朝日系)の主題歌になりました。これから毎週木曜の夜は、風さんの優しい歌声が日本中を、そっと包み込むことでしょう。

藤井 風が、1月21日(木)スタートのテレビ朝日新木曜ドラマ『にじいろカルテ』(よる9:00〜9:54放送)で自身初となるドラマ主題歌を担当することが決定した。同ドラマは、ある「秘密」を抱えて山奥深くに佇む診療所にやって来たぽんこつドクター・紅野真空(高畑充希)が、そこで出会ったヘンテコ外科医・浅黄朔(井浦新)、キレキャラ看護師・蒼山太陽(北村匠海)とシェアハウスをしながら命と向き合って成長していく姿を描くヒューマンドラマ。主題歌“旅路”は、藤井 風が自らドラマの撮影現場に訪問しキャストやスタッフ陣とも触れ合い、台本を読み込んだ上で制作された、ノスタルジックさと先鋭性が同居する楽曲となっているとのこと。         引用:rockinon.com/news        


藤井風さんが初のMV「何なんw」を公開したのは2020年の1月24日。今日でちょうどデビュー1年です。




コロナ渦で偶然出会った藤井風の音楽

わたしは藤井風さんの記事を多く書いています。気が付けばこの記事が23本目。なぜ、これほど風さんの音楽に夢中になったのか。振り返ってみました。

彼の音楽との出会いは、ちょうど1年前の今ごろです。未知のウィルスに関するさまざまな情報が飛び交い、ただならぬ状況をひしひしと肌で感じ始めていました。

医療従事者の友人から

「そろそろ、グループでの会食やコンサートも危なくなるかもしれない。わたしは3ヶ月後には休みもロクに取れないかも。行動を制限される可能性もある。自由に会える今のうちに、一度会おう」と誘われました。

彼女は臨床で医療行為を行うプロです。常にウィルスと接する職場なので消毒や感染対策は最新の知識と経験があります。考えられる全ての感染対策を行い、カラオケに行くことになりました。

わたしは4歳の頃からピアノを弾き、大学ではクラシック音楽を専攻していました。音楽はジャンルを問わず幅広く聴いていましたが、歌モノを聴くのは洋楽中心。あまりJ-POPを聴いていなかったこともあり、カラオケで歌える曲は昭和の歌謡曲に近いものばかりでした。それでも過去にライブに行ったことのある椎名林檎さんの歌なら、数曲は知っています。


椎名林檎「丸の内サディスティック」を聴こうと動画検索していたら・・・


林檎さんの曲の中から歌えそうな曲を探そうと、YouTubeを漁り始めました。

「本能」「歌舞伎町の女王」「ここでキスして」「ギブス」…次々と観ていくうちに出会ったのが藤井風さんの「丸の内サディスティック(弾き逃げ)」です。歌なし・キーボードのみの演奏でした。



軽い気持ちで見始めたところ、けた違いな演奏


「この青年はバンドでキーボードでも弾いてるのかな?」

そう思って軽い気持ちで見始めました。画面は夕陽のさし込む殺風景な部屋。キーボードの前には一見、ヤンキー風の青年がイスにあぐらをかいて座っています。彼が太ももを叩き始めたその瞬間、わたしの耳は釘付けになりました。

「このグルーヴ感は何?!」

ここから先は予想を超えた展開でした。全身でリズムを刻みながら、長い指で鍵盤を叩きつけるように弾いていきます。

その様子は、まるで足の長いクモが鍵盤の上で踊っているように見えました。打鍵が強くキーボードの鍵盤は、カチャカチャと音を立てています。その音は音楽の邪魔になるどころか、拍のビートにピッタリマッチ。ハイハットやスネアがリズムを刻んでいるようです。

風さんは眉間にしわを寄せつつも、時折チラリとレンズを意識しニヤリとしたりもする。でもこの動画では彼の表情よりも、指から紡ぎ出される音楽が気になって仕方がありませんでした。

カバー楽曲のレベルが、ただ者ではない


「この指の動き、このグルーヴ感。リズムのうねりをキープしながら弾けるのは、趣味でバンドのキーボードをやっているレベルではない」

彼の指から繰り出されるハーモニーとビート、華麗なジャズアレンジのピアノソロ部分に魅了されました。やはり、ただ者ではありません。

関連動画に表示された「丸の内サディスティック (轢き逃げ)」も観てみることにしました。セピア色の画面の中にいたのは、楽しげな笑顔からおもむろに鍵盤に向かい、まるでピアノと戯れるように弾き語りする風さんでした。時に眉間にしわを寄せ、挑発するように不敵な視線を向けてきます。

歌唱は椎名林檎さんのそれとは、また違いました。低くて厚みのある、少し気だるいような何とも形容したがい声です。とにかくフレージングの巧さに驚きました。歌い出しや子音の乗せ方、フレーズの運び方も独特のうねりとグルーヴ感があります。


打鍵が強いこともありますが、スタンドが安定していないのか、鍵盤に指を置くごとにキーボードがグラグラ、ガタガタ揺れます。それをものともせず、弾き語る姿の楽しそうなことといったら。

ラストにタバコをくわえると思いきや、スティック菓子をポリポリとかじる演出まで!楽しい仕掛けに思わず頬がゆるみました。


おしゃれで、ちょっと切ない”風の響き”


もともと「丸の内サディスティック」は、「Just the Two of Us」進行が使われており、コード進行自体がエモーショナルな楽曲です。このコード進行は最近のヒット曲など、さまざまなJ-POPにアレンジ利用されています。それにも加えて風さんのピアノアレンジだと、テンションコードが多用され、ジャジーさが増すのです。おしゃれでちょっと切ない”風の響き”に取り憑かれてしまう。

藤井風 弾き語りサウンド アレンジの秘密


通常はバンドサウンドをピアノ弾き語りの楽譜にすると、かなりさびしい感じというか、物足りない感じのアレンジが多くなります。なぜならピアノ1台でドラムやベースなどのリズム楽器と、和音を奏でるコード楽器のパート全てを再現するのは難しいからです。

リズム楽器が刻んでいるビートやドライブ感を損なわず、コード感も失わないようにピアノで演奏するには、左右10本の指を目いっぱい駆使する高度なテクニックが必要です。

楽譜通りにイン・テンポ(一定の速度)で演奏できても、ドライブ感とグルーヴが出なければ音楽にノレません。これは学生時代に働いた通信カラオケの音楽データ制作現場で、イヤと言うほど体感しました。

確かなテクニックに裏打ちされたアレンジ力(りょく)

初心者向けの楽譜は、音数が少なくゆったりしたテンポのバラードが多いです。なぜなら、音数が多くアップテンポな曲になるほど、難易度は上がるからです(「丸の内サディスティック(弾き逃げ)」は特に難しい)
歌無しのピアノアレンジにしても、演奏するのはかなり難しくなります。

ドラムやベースのリズムをピアノで網羅して演奏するには、左手を酷使することになります。両手が、それぞれ異なるリズムをキープしつつ、同時に和音(コード)も、かなりの音数を弾かなければいけない。特にアップテンポな曲になると、弾ける音数には限界があります。

音数が多く、よどみのないリズムとグルーヴ


藤井風さんのピアノアレンジは、これらの問題を全てクリアしています。彼の演奏には、音の「すき間」がありません
左手のベース部分はオクターブでベースラインを刻むことが多いです。そうしながらも内声では裏拍を取ったり、コード内の音を押さえたりもしている。

右手は、ほぼ4和音を押さえつつ、経過音や装飾音も弾いていることが多いです。間奏部などでは、華麗なアドリブのピアノソロも奏でます。これだけ複雑な動きをしながら、音程やリズムを乱すことなく正確に歌うのは難しい。それに合わせてアーティキュレーション(強弱などの表情付け)もしなければいけません。ピアノも歌唱も、かなりの演奏レベルと練習が必要です。

弾き語りは、大抵の人が完コピ(完全に暗譜して演奏できる状態)できるまで練習を積むものです。風さんは楽しそうに演奏していますが、ふつうの人なら簡単にはできない、かなり高度で難しいことを”さらり”といとも簡単そうにやっているのです。


ずっと苦手だった動画視聴


実を言うと、その時はあまり、きちんと聴くつもりはありませんでした。もともといわゆるYouTuberのupしている動画は苦手だったのです。20~30秒ほど聴いて、つまらなければすぐに椎名林檎さんが歌う「丸の内サディスティック」に変えるつもりでした。

動画は派手なテロップや効果音、ひっきりなしに広告で中断され、本題に入るまでが冗長なものも多い。わたしは読書の際も、まず目次に目を通し必要な箇所から読み始めます。目当ての情報に即、たどり着けない解説動画は苦手でした。必ず入る「登録してね」も正直しんどかったです。

でも藤井風さんの動画には、わたしの苦手とする”それら”が一切ありませんでした。いわゆるトークも解説もなく、ただ黙々とピアノを弾き語り、時々、画面ごしにニヤリと不敵に笑う。それだけです。

「他の人とは何かが違う」


音楽以外は、何も要らない


トークもテロップも効果音も、余計な装飾は一切、必要ない。実直でごまかしのない動画に、藤井風さんの音楽に対する静かな自信を感じました。


カバー動画を片っ端から見漁ったでしょうか。

ふと、風さんのオリジナル曲が上がっていることに気付きました。タイトルは「何なんw」草が生えています。正直言って、最初は観るのをためらいました。完全にふざけていると思ったからです。

もし、カバー動画と全く違うテイストでコミックソング調だったら・・・興ざめです。もう、この人はカバーだけやっておいても充分才能があるのに。でも、これだけの演奏レベルを持つ彼のオリジナルは一体誰が?どの作曲家だろう?今をときめくJ-POP界の誰かが楽曲提供したのか?

きっと若者ウケを狙ったキャッチーなPOPSでデビューしたんだろうな・・・と半ば期待せずに動画を再生しました。

衝撃の音楽 藤井風は一体「何なんw」


そこから受けた衝撃は、昨年書いた記事の通りです。


「何なんw」は藤井風の全てが詰まった音楽の宝箱


作詞作曲 藤井風・・・彼はシンガーソングライターとしてデビューしていました。「何なんw」うねるグルーヴ感と、浮遊する和声感。そして想像以上にスキルアップした発声。低音からファルセットまで、まるでチェロが奏でる音色のように、とても芳醇な響きです。伸びやかな歌声と色鮮やかなサウンドに完全に度肝を抜かれました。

何より岡山弁での独特なリズム感のある歌詞と、一人称が「ワシ」「青さ粉」「肥溜め」・・・これまで歌の中では聴いたことの無い単語が並びます。標準語の整った言葉で書かれる歌詞が当たり前。そう思っていたわたしには、カルチャーショックでしかありませんでした。

そんな衝撃的な「何なんw」。この曲は今でも、彼のオリジナルの中でいちばん好きな曲です。風さんを形作るもの”藤井風たる要素”がギュッと凝縮された、最も藤井風らしい”風のスタンダードナンバー”だと感じています。

佇まいや、ふるまいまでも美しい


もちろん、NYの街が何の違和感もなく似合う風さんの佇まいや、彫刻のような美しいルックスにも魅了されました。

誠実で穏やかなふるまい優しい人柄が感じられる発言ユーモアのセンスも、ちゃっかり持ち合わせています。こうと決めたら貫き通すような、一本芯の通った姿勢にも共感しました。さまざまな楽曲動画を通して伝えられる、次々と色彩が変わる印象派の音楽のような風さんから、目が離せなくなったのです。

ここから先は多くのファンの皆さんと同じではないでしょうか。単調で鬱屈としがちだったステイホーム期間中も、風さんの音楽は暮らしに彩りを与えてくれました。卒業以来、おざなりになっていたピアノを再開し、歌い、感じた事や、思いついた物語を文章に綴る日々。今年はその彫刻のような姿を三次元で再現してみたいと、美術を学んでいた義母に入門し藤井風フィギュア(まったくの素人が彫塑(ちょうそ)で藤井風フィギュアに挑戦する)まで始めました。




「与えられるものこそ、与えられたもの」

どんな時も優しく寄り添ってくれる風さんの音楽に溺れ、時に涙しつつ、今1年が経ちました。

まだみんな、もう少し我慢も必要ですし、先は見えません。それでも音楽が一筋の光となって、誰かが、ちょっといい気分になれる。音楽を演奏するひとも聴くひとも、全ての音楽に関わってきた人にとって、こんなにうれしいことはありません。

最後に昨年の5月のTweetを貼っておきます。わたしの風さんに対する印象はあれからずっと変わっていません。

全てのボーダーを越えて世界へ!


藤井風さん「何なんw」公開、デビュー1周年おめでとうございます。そして1年間一緒に走り続けてくれてありがとうございました。これからもずっと、あなたの音楽とともに。


引用:藤井風公式YouTube


藤井風さんのこと、いろいろ書いてます




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