『男はつらいよ』における「レコードのB面的な作品」ってどれでしょう?
依頼者からコンシェルジュへの希望
依頼者プロフィール
りなさん 社会人1年目 20代女性 寅さん鑑賞経験なし
母の影響でハリウッドからマイナーな作品まで幅広く映画を鑑賞しています。また、平成生まれのZ世代ですが、昭和が好きで中森明菜やキャンディーズの歌をよく聴きます。最新曲はテンポが速く、あまり好みには合いません。映画や小説で好きなものは、社会から逸脱した登場人物が出てくる話が多いです。コンシェルジュへの希望は、「レコードのB面的な作品を観たい」です。何かを好きになるときに、王道の路線ではなく、B面的なアプローチで好きになることが多いからです。ちなみにB面とは、駄作ではなく、「変化球」「製作者が本当に表現したいこと」「隠れた名作」といったイメージです。それと、東日本にあまり行ったことがないので、「東日本がロケ地の作品」とB面作品と比較するための「王道の作品」も希望します。
Z世代だからこそ昔の文化にも触れている
りなさんは、20代ですが、昭和のアイドルの歌を好んで聴かれています。コンシェルジュへのリクエストも、レコードのB面に例えるなど、異なる世代の文化を味わっておられるのがよくわかりました。Z世代は、昔の良質な文化作品にすぐにアクセスできる環境で育ちました。それを踏まえると、りなさんの好みやリクエストもZ世代らしいと思いました。同時に、「男はつらいよ」の良さもわかってもらえる可能性を大いに感じて、嬉しくなりました。レコードのB面的な作品とは、「良作だが、目立っていない作品」をと思い、選びました。
『男はつらいよ』のB面的作品はこれ。
※以下、作品の内容を記述します。
① 第1作 「男はつらいよ」
公開:1969年
マドンナ:光本幸子
ロケ地:奈良県奈良市
あらすじ:寅次郎(渥美清)が中学生のとき家出して以来、約20年ぶりに故郷である東京都葛飾区柴又の団子屋・とらやに帰ってきます。寅次郎が家出している間に、両親と兄は亡くなり、唯一の肉親である妹・さくら(倍賞千恵子)は父の弟の竜造(森川信)とその妻つね(三﨑千恵子)に育てられ、OLとして働いていました。久しぶりに帰郷した寅次郎を、とらや一同は大歓迎。しかし、さくらのお見合いの席で、寅次郎は下品な行動を連発。果たして、さくらは結婚できるのでしょうか。また、寅次郎は幼馴染の冬子と再会し、一目惚れ。美人で上品な冬子への恋は実るのでしょうか。
この作品は、「B面作品と比較するための王道作品」としてご鑑賞ください。第1作ということで、登場人物の背景なども理解いただくにはもってこいです。後年花開く『男はつらいよ』シリーズの喜劇以外の場面(シリアスや泣きどころ)の魅力もつまっています。
② 第14作 「男はつらいよ 寅次郎子守歌」
公開:1974年
マドンナ:十朱幸代
ロケ地:佐賀県呼子
あらすじ: 寅次郎が赤ん坊をおんぶして柴又に帰ってきました。それを見た家族は、「寅次郎に子どもがいたのか」と大騒ぎ。騒ぎは落ち着きましたが、赤ちゃんを診察した看護師・京子(十朱幸代)に寅次郎は恋をします。しかし寅次郎だけではなく、京子が所属するコーラスサークルの団長(上条恒彦)も京子を好きなようです。団長は顔中ひげだらけの冴えない男性。寅次郎は団長の恋を応援してしまいますが、果たしてその結果は。
この作品は、『男はつらいよ』シリーズのB面と言えるのではないでしょうか。前半の作品特有の力強さと爽やかさがあり、最初で最後の寅次郎が赤ん坊を連れて帰ってくる事件や、寅次郎とマドンナと恋敵の三角関係というおもしろい構図も見られます。恋敵が二枚目ではなく、不器用な男性というのも味わいのある所です。京子の優しさと明るさは昭和時代でも魅力的ですが、令和時代でも変わらず魅力といえる普遍的なものを感じます。1番好きな作品にあげるファンこそ少ないものの、隠れた名作をぜひお楽しみください。
③ 第26作 「男はつらいよ 寅次郎かもめ歌」
公開:1980年
マドンナ:伊藤蘭
ロケ地:北海道江差
あらすじ: 寅さんはテキヤの同業者が亡くなったと聞き、北海道の奥尻島へ墓参りに行くとその娘・すみれ(伊藤蘭)に出会います。すみれには母がおらず、学校に行かずに働いていました。「学校に行きたい」というすみれに同情した寅さんは、実家のとらやに下宿させ、面倒をみることに。定時制高校に入学するため、すみれは苦手な勉強に取り組みます。とらやの面々も総出ですみれをサポートします。すみれの努力は実るのでしょうか。また、寅さんのすみれを想う気持ちは、親心なのでしょうか。それとも・・・。
この作品は、「東日本がロケ地の作品」というリクエストにお応えしました。もちろん他にも東日本がロケ地となっている作品はあります。その中からこの作品を選んだ理由は、りなさんがキャンディーズのファンだという点、マドンナのすみれと世代が近い点、B面作品的要素がある点の3つです。時代を感じるセブンイレブンも登場します。
コンシェルジュを終えて
レコードのB面的な作品を聞かれたとき、すごくおもしろいリクエストだと思った一方で、作品を選ぶのに時間が掛かってしまいました。「B面」の意味を対話のなかでしっかり伺えたことで、上記の作品となりました。ちなみに寅さんのB面的作品は他にもあると思っています。りなさんは、20代ですが、昭和の文化を知っておられたので、きっと『男はつらいよ』の世界観にすんなり入ってくださるのではないかと期待しています。『男はつらいよ』は初めてですが、映画はたくさん観られているので、他作品と比較した感想もぜひお聞きしたいです。
りなさん、ありがとうございました。